君から届く声を、僕は守りたい

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「じゃあね」
「うん」

家に入る彼女の背をしばし見つつ考えた。
劇団に入るという意志を家族はどう思うのだろうか。
思いつきのような決心を受け大喧嘩にならないと良いと思いつつ僕も家へと帰った。

「あらっ、翔吾。早いのね」
「舞台見ただけだから」
「ふーん」

母は少し不服そうな顔を見せつつリビングへと移動するが、その背中は甘酸っぱい恋を期待している感じにも見えた。
だけど、僕らはそんな仲ではない。
自室に戻るとやりかけていた課題に向き合ったが、どうも集中出来ず、持っていたペンを置くと携帯を取り出し劇団たいようについて調べてみた。

劇団出身のプロ役者の紹介から始まり、地方巡業の日程、チケット販売等が掲載された画面を見つつスクロールしていくと『団員募集』のバナーを発見する。

「もう見たんだろうか?」

オレンジ色で大きく表示されたバナーは他よりもインパクトがあり押してみたくなる衝動が生まれ、僕はそこをタップした。

『こんな人材を募集!!』と表示された画面には、芝居をしてみたい、自分を表現する事が好き等求める人物像が書かれており、実際に在籍する劇団員の日常が紹介されイメージを湧かせやすくなっていた。
さらに下へと進んでいくとある箇所で手を止めた。

「募集年齢12~20歳」

現在15歳の僕らが入った場合は5年しか在籍出来ない計算だ。

「5年……」

捉え方次第で長くも短くも感じる年数。
全くの初心者である彼女に残された時間は思っているほど長くないようだ。
高校を卒業してからとなるともっと短くなってしまう。
これをもう見たんだろうなと思うと、どんな気持ちになっているのか。
不意に僕は向かいの家へと目を移した。



ーーーーーー




あの日から数日後。
夏休みも残り一週間となった朝、彼女から1通のメッセージが届いた。

【今日、時間ある??】

短い一文だったが、急に届いた事にビックリした。
用があれば以前みたいに声を上げ誘ってくるのが日常になっていたから。

【あるけど?】

課題を全て終え、受験勉強に励む僕だったが、ちょうどいま休憩も兼ねてベッドに横たわっていた。

【良かったらちょっとお願いがあるんだけど】
 
【なに?】

短い文のやり取りをしていると今度は電話をしてきた。

「……もしもし」
「いま、家?」
「そうだけど?」
「……課題、手伝って欲しくて」

通話口から聞こえてくる彼女の声は、弱々しく、またとても申し訳なさそうな感じだった。
どうやら今回はご両親とやっているみたいじゃないようだ。

初めは断る予定だったが、舞台を見る際に奢ってもらった恩もあるし…と思い、渋々了承した。

電話を切り、玄関を出ると彼女がいた。


白のパーカーに黒のショートパンツ姿、それに頭には大きな麦わら帽子をかぶり、出てきた僕に軽く手を挙げ迎えた。

「やっ!来てくれてありがとう」
「いや、前回のお礼もあるし。……って自転車?」
「うん、家でやるよりは図書館のが良いかなぁと思って」

ママチャリの前カゴには少し大きめな鞄が入れられており、その様子から課題を全て持ってきたのでは…?と予想した。

「図書館って学校近くのだよね?」
「そう。歩いていってもいいけど、こっちのが楽だから」

前カゴの鞄をパンパンと叩く彼女。

「わかった」

僕も家から自転車を出してくるなり颯爽と走り出していく。

「遅いよ!早く!!」
「ちょっと、待ってよ……」


僕の意見など聞く耳も持たず、立ち漕ぎでドンドン遠ざかっていった。


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