君から届く声を、僕は守りたい

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「そんなに笑う事ないでしょ……」
「だって、正直すぎるんだもん!!マズイ、って言ってもいいのに」
「言えるわけないでしょ!」
「あっ、認めた!」

僕は顔を逸らしカバンへと手を伸ばした。


「ご馳走様でした!」
「ご馳走様……」
「いやー、食べたら眠くなっちゃうね」

彼女は背伸びをしつつ、時にはあくびもしている。

「食べて眠くなるのは分かるけど、課題を終わらせてからだよ」
「マジメか!!」

ツッコミを入れた彼女は両足を投げ出し、ブラブラさせつつ空を眺めている。

「……それより一つ聞いてもいいかな?」
「なに?」

僕は気になっていた劇団への入団条件にある年齢について尋ねてみた。

「あぁ……」

さっきまでの眠そうな顔から真剣な顔に戻すと、急に立ち上がった。

「君の事だから調べるんじゃないかなぁと思っていたけど、やっぱりそうだったんだね」
「ごめん」
「ううん、謝る事なんてない。いつか聞いてくるんだろうなぁと思っていたし、私もちゃんと話さないとなぁって思ってた。
……私、高校には行かない」
「えっ!」

彼女は地面に線を引くと公園の奥にある木へと目を向けていく。

「舞台観た劇場、覚えてる?」
「うん」
「あの場所、劇団の人達が練習でも使ってるんだって。それで私達が座っていた場所まで25mあるみたい」
「25m……学校のプールだね」
「あははっ!確かに!!わかりやすい例えだね。
でもそう考えると近いようで遠いんだね、25mって」

すると急に歩数を数え始め、僕から遠ざかっていった。
段々と姿が小さくなっていき、木の辺りで足を止め、振り返り手を挙げ合図を送ってくる。
でも、ここからでは目を細めても表情まではしっかりと視認できず、あの日の客席と同じ感覚を覚えた。

合図に答えるように手をあげた僕に何か言ってきているようだったが、何も聞こえなかった。
座っているせいもあるのかもと思い、立ち上がり耳を澄ます。
でも何も聞こえない。
だから引いた線を超え、ゆっくりと近づいていき半分超えた辺りでようやく聞こえてきた。

「ガリ勉くん、ダメだよ!近づいたら!!」
「えっ!」

僕も声を張り上げ応答すると彼女はこちらへとやってきた。

「なんで近づいてくるのさ」
「いや、何も聞こえないから」
「うそっ!すごい声を張り上げていたのに」

それは間違ってないようだ。
顔が少しだけ赤くなっており、必死に叫んだ反動が体に現れているから。

「そっか……」

彼女は僕が歩んできた距離を見て少ししょんぼりしていた。

「君は何を叫んでいたの?人がいなかったから良かったけど、一歩間違ったらお巡りさんを呼ばれてもおかしくないよ」

前回とは違い人がいなかった事が幸いしたが、彼女の行動は僕の予想だにしない事が多い。
まるで手を離したら急に走り出す子供のようで…。




「今の私は半分しか届かないんだ……」

座った彼女は先程よりも落ち込んでいた。
首をガクッと落とし、そのままベンチに頭をぶつけてしまいそうなくらいに。

「そんなに落ち込む事なの?」
「もうっ!分かってないなぁ。あの人達は私達の席まで声が届いたんだよ」
「それは、役者だから。……そうか、君はいま『練習』していたんだ」

やっと気付いた僕を褒めるかのように頭をわしゃわしゃと撫でてくる。

「やめてよ、犬じゃあるまいし」
「少しは私の気持ちも分かったみたいだし、それのお礼」
「……だったら急にしないでよ。びっくりするし、頭に『?』が浮かぶよ」
「じゃあこれからは手を上げ合図したら叫びます。それでいい??」
「周りに人がいない事も確認してからね……」


これが僕らの初練習だった。







その後、再び図書館に戻り課題に取り組んだ。
まぁ……半分以上は僕がやったんだけど……。

「ありがとう、助かったよ!」
「いいえ、でも次は……」

僕はそこで口を閉じた。
彼女は高校には行かないと言っていたから次はないのかも知れない。
察した僕を見て被っていた麦わら帽子をポンと乗せてくる。

「高校に行かないって事は秘密にしてね。知っているのは君だけだから」
「本当に……」
「ありがとう、じゃあね!」

去る彼女は手をひらひらと振りながら家の中へと入っていった。


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