君から届く声を、僕は守りたい

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「あら、どうしたの、その帽子?」

母が朝していなかった帽子を不思議そうに見てきたが、すぐにピンときたようで『彼女の?』と聞いてきた。

「まぁ……そうだよ」
「あらあら、いつの間にそんな関係に」
「違うって!」

僕は母からの追い討ちを躱すため足早に自室へと逃げた。
鞄を机に置き、その上に被っていた麦わら帽子を置く。
すると、上部に穴が空いていることに気付くが、どうしてこんな場所に?と疑問が浮かんだ。
普段ならこう…山になった部分をわし掴みにして持つと思うのだが、彼女は違うみたいだ。
そこもまた僕にとって予想だにしないことに違いない。

時計の針は17時を超えており、少しずつ西に傾いた日が部屋の中へと射し込むと影を伸ばしていき、オレンジがかった空が次第に暗闇へと姿を変えていく様子を僕はしばらく見ていた。

そんな様子を見ながら高校には行かないと言った彼女の言葉を思い出す。

「それも一つの選択肢なのかもしれない……」

ポツリと呟き、もう一度麦わら帽子に目を移した。







ーーーーーー





長かった夏休みも終わり、また日常の日々へと戻っていった。

「ようっ、翔吾」

教室に入るなり僕の唯一とも言える友人の藤田祐介ふじたゆうすけが声をかけてくる。

祐介とは三年間在籍していた卓球部で知り合い、試合ではダブルスを組む相棒でもあった。
背も高く、明るい性格の持ち主である彼が根暗とも言われる卓球部にいた事に初めは驚いたものだ。
決して上手くはないが、持ち前の明るさから声を大きく出し、皆を鼓舞した。
声を張り上げ周りを引っ張り応援する姿はカッコよく、そんな彼を部員は慕い、気付けば部長を任されていたのは、今となっては当然だと思う。

「なんか少し痩せたか?」
「そう?」
「なんていうか……ここがな」

彼は頬をトントンと叩き、場所を示してくる。


「特に変わった事はしてないよ」
「そっか、お前の事だから勉強のし過ぎかも知れないな」

僕が医者を目指しているのは彼も知っている。
だからその発言も間違っていない。

「それより……」

急にシリアスな顔に変わったかと思えば、肩をすくめて両手を合わせてくる。

「課題でしょ?今のうちにやれば間に合うかもね」
「さすが、我が相棒!」

HRが始まるまでの残り少ない時間。
僕はかばんから今日提出する予定の数学の冊子を彼へと手渡した。
……まぁ、コレも本当は良くないんだけど。

彼は冊子を受け取ると背もたれを抱えていた状態を解き、机に向き変えると必死に答えを写していく。

彼の勉強嫌いはすぐに分かった。
定期テストが返却されるとすぐに僕に誇らしげに見せてくるのだが、点数は見るも無惨だったから。
でもそんなことを気にしない性格が逆に羨ましいと思った。
僕なんて90点をとっても悔しい気持ちで一杯だったのに。


キーンコーン

始まりを告げる鐘が鳴るとすぐに担任が入ってきて、皆を座らせる。
あぁ……夏休みが終わったんだと再認識させられる光景だ。


体育館での始業式も終わり、課題を提出すると今日の学校は終わった。
どうやら彼は写し終えたようでピースサインを向けてきた。


帰りの道中、方向が同じ僕らは一緒に帰る事にした。

「なぁ、翔吾」
「なに?」
「三原ってなにかあったのか?」
「……どうして?」
「どうしてって、見ただろう?前この辺まであった髪が今じゃこの辺だぞ。ありゃあ、なんかあったに違いない!」

彼は手を胸から耳たぶ辺りまで繰り返し上下させた後、顎に手を添え、推理をし犯人探しをする探偵の真似を見せてきた。

そしてある一つの答えを導き出してきた。

「失恋、だな」
「失恋!」
「あぁ、間違いない。だから髪を」

その言葉は僕でも知ってる。
自信たっぷりに言う彼はそうに違いないと確信しているが…。

「な、そう思うだろ??」
「な、って言われても本人じゃないんだし」
「本人に聞けるか、そんな事!傷口に塩を塗るようなものだぞ!」

同意してくれると思っていたのか、彼は不満そうにかばんをブンブンと振りながら歩いていく。

「……じゃあ僕はこっちだから」
「あぁ。………」

まだ何やらぶつぶつ言っているが、僕はそれを無視して彼と別れた。



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