君から届く声を、僕は守りたい

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暗かった部屋に朝日が差し込んでくると、次第に暗闇は解消され未だに眠る彼女の顔がハッキリと見えてきた。

「そんな安心しきった顔で寝ていられるなんて」

昔から見慣れている彼女の顔だったが、寝顔なんて初めてだった。
時には口元を動かし、寝言でも言っているのかのような仕草をし、表情豊かな顔を見せてくる。
ここは自然に起きるのを待つとしよう。
僕も少し目を瞑りその時を待った。



「ん………」

ようやく目を覚ましたようだ。
目元を何回もピクピクと動かした後、ゆっくりと目を開いてきた。

「……おはよう」
「うん、おはよう」
「もう起きていたの?」
「まぁ、ね」
「そっか」
「何か飲む?部屋にある物でよければすぐに用意するよ」

僕はベッドから起き上がるため手を離そうとした。
すると離しかけた手を強く握り返され引っ張られると、僕は彼女を覆う形で被さり、ギュッと体を密着させてきた。

「わたし、……君が好きだよ」

突然の告白だった。
どんな顔でそれを言ってきているのか確認したかったが、密着した状態ではそれも叶わず、さらに続けてくる。

「でも、付き合ってとは言わない。
君にも大事な夢があるからその邪魔はしたくない。だけど、今の言葉だけは忘れないで。…………返事は?」

「………………うん」

僕は小さな声で答えるだけだった。







チェックアウトを済ませ、帰りの電車内は終始無言だった。
告白した者とされた者。
昨日と今日では全く違う世界がそこには広がっており、お互い無言のまま逆の方向を見て電車に揺られていた。

すると、手が僕の膝に当たったので思わず逆を見ていた顔を彼女の方へと向き変えると、目が合った。

「一つだけ言い忘れていたから、言っていい?」
「なに?」
「来年のクリスマス、大きな舞台があるの。それで、夏を過ぎた頃に役を決めるための選考があって」
「そうなんだ。……来年か」
「うん。それもね、観にくる人達の中にプロダクションの人も沢山いるんだって」
「それって……」
「スカウトみたいだよね。そこで認めてもらえたら声もかけてくれるらしい」


プロダクション、スカウト……この言葉に僕の目は大きく見開いた。

「じゃあ来年、君の夢が叶うかもしれないんだね。あれだけ望んだ役者という世界が!」
「まだ気が早いよ。選考を通り、そしてその舞台の上に立たなきゃ。でも、立つだけじゃダメ。
ちゃんと届かせなきゃ、私の声を」
「うん、じゃあもっと練習しなきゃ。今のままじゃダメなんでしょ!」
「……キツいなぁ、ガリ勉くんは」

さっきまでの空気はどこかに飛び立っていったようで、僕らは再び元の空気に戻り夢について語り合った。




「そうだ、これ」

駅で別れる際、僕は一つの飴を差し出した。

「のど飴?」
「うん、いつも僕が舐めているもの。この時期は喉も乾燥するから風邪予防のためにも口にしてる」

そう告げると目の前で袋を破り、口へと放り込んでいく。

「ハチミツ味なんだ」
「まぁね。調べた中で一番良さそうだと思ったから。
君の商売道具はその喉だ。他のどんな箇所よりも大切にしないといけない」
「ありがとう」
「どこでも売ってる飴さ。無くなったら買うといい」

すると彼女は首を振ってきた。

「わかった。でも、練習するときは持ってきて欲しい。その方がより効くと思うから」

破った袋を手渡してくると、その上に手を重ねてきた。

「……私の練習相手、だよね?」

俯く顔は少し赤くなっていた。

「うん、君の相手は僕だ」

重ねた手をギュッと握った後、僕らはそこで別れた。
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