君から届く声を、僕は守りたい

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別れてから数ヶ月が経ち、季節も肌を突き刺すような寒い風が吹く冬からピンク色が鮮やかに彩る桜が咲く春へと移っていき、久しぶりに会うことになったのはGWゴールデンウィークに入ってすぐの事だった。

「おーい!」

窓の外から聞こえてくる懐かしい呼び声。
閉め切った窓を突き抜け、中学生の時よりもハッキリと部屋の中へと入り込んでくるその声に、僕は窓を開けると眼下に彼女が見えた。
何度も手を振り合図を送ってくるが、その背には濃紺のリュックを背負っていることに気づく。

「リュックなんて背負ってどうしたの?」

彼女は束の間の休みを利用し、実家に帰ってきており、居られるのは明日までだから練習も兼ねて遊びに行きたいと事前に伝えてきていた。
僕は近くの場所に行くのだと思っていたから、なおさら背負うリュックの存在が不思議でならなかった。
このことについては一切教えてもらっていない。
あの時のクリスマスのように…。

「ガリ勉くんも用意して」
「用意って……。まさか、泳ぐとか言わないよね?まだ海やプールなんてやってないよ?」
「違う違う、そんなとこにはいかない。山だよ、山」
「山ぁ!!」

なんでもボイストレーニングをしている先生に言われたらしい。
平面で練習するより山の斜面を劇場の客席のように利用してする方が有効だと。
確かに客席は奥に行くにつれ、段々と山肌のようにせり上がっていく構造が多い。
だからその提案は理にかなっている。

「なかなか良い先生だね」
「でしょ!やっぱりプロは違うね。だから、山に行く。ほら早く君も準備して。山の上は寒いから上着、それから……」

彼女は自分の喉をトントンと人差し指で突き、アレだと示してくる。

「了解」





終着駅まで電車に乗り、たどり着いた場所は人気も少なく、駅からも確認出来る山はとても高い。
今からアレに向かうんだと思い、少しげんなりしていると背負った黒いリュックを彼女がポンと押す。

「いこっ。練習は始まったばかりだよ」

どうやら山登りもセットらしい。
最初は意気揚々と歩いていた彼女も山に入ってからはその元気も影を潜め、今では僕のリュックにしがみつきつつ上へと登っていく。

「なんで君はそんな平気なの?」
「さぁ……僕にも分からないな。でも、一つ言えるのは君は喋ってばかりだから体力を使い過ぎたってとこかな。これじゃあその先生に顔向けできないな。
山には行ったけど、疲れ果てて何も出来ませんでした、ってね」
「ひっど!!!」
「酷くない。なら君も黙って登ろうよ。目的地はもう少しなんだろう?」

駅に着いた時、事前に山について調べていた彼女からある事を教えられていた。
それはこの山の中腹には音楽の指揮者が立つ台のような物が置かれており、そこはちょっとしたスポットとなっているようだ。
その場所から街に向かって大声を出す様子を動画で撮り、ネット上にあげるそうだ。

皆はそれを目的にしてここに来るようだが、僕らは違う。
その台に彼女が立ち、さらにその先を登った僕へと声を届ける。

ステージにいる彼女から観客の僕へ声が届かなければ選考なんて突破できない。
それは即ち、夢への扉は固く閉ざされてしまうようなものだ。

砂浜や公園の時と違い、さらに僕の歩幅では正確に25mは測れは出来ないだろう。
しかし初めて見た舞台までの距離はなんとなく覚えている。
演者の顔は薄目にしてみたらなんとか…というレベルだったから。


「着いたぁ……」

目的の中腹に来るとやはりちょっとした人気のようで、数人の若者が台に上がり大声で叫んでいた。
中にはそこで告白なんてしてる者もおり、成功したのだろう。
お互いに抱き合ってるシーンを目の当たりにしてしまう。
その様子を見ているとなんだか隣にいる彼女の方を見るのが怖くなった。
同じ光景を見ているはずだから、気にはなると思うのだが…。

「空いたみたいだね」
「えっ。……あ、うん」

拍子抜けするくらいあっさりしており、先を歩く背を見て僕は自分自身を責めた。
違うだろ、練習相手なんだし今は全力でその夢を応援することに集中しろ、と。





「聞こえたらいつものようにー!!」

……あれ、聞こえる。

聞こえなかったように通話することを決めていたが、今彼女の声は僕の耳に届いている。
それも全てだ。

「おーい!!!」

また聞こえた。
だから僕は電話越しで君の声は今全部届いていると伝え、手を挙げた。

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