君から届く声を、僕は守りたい

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「本当!!」
「あぁ、残念ながら聞こえているよ」
「皮肉屋め!!」

ブチッと通話を切られたかと思うと彼女も手を挙げてくる。

うん、距離は多分合っていると思う。
あの時の女性演者と同じ見え方をしているから。

「わたし、受かるかなー???」

その質問は僕には難問だ。
声さえ届けば良いという条件なら受かっているだろう。でも目指すのは役者だ。
届かせる以上のものがなければ、納得しないし、感動も生まれない。
聞く相手を間違えていることは彼女も重々承知の上だと思う。
それでも今までの練習の中では一番だ。

『〇』

僕は両手を大きく合わせ、それを作ると声を張り上げてきた。
『ありがとう』と。



それからしばらく練習を続けていると、他の若者達が登ってくるのが見えたため、一旦止めた。

「頑張ったね、これ」

はちみつ味ののど飴を手渡し、台から少し離れた斜面に僕らは背を預け休憩を取ることにした。

「いつの間に……。やはりボイストレーニングの成果かな」
「ふふーん、ちょっと見直したでしょ。私だってやる気になればこれくらい」

片頬にのど飴を移動させ喋る彼女はとても饒舌だ。
今回は許そう、僕も届いた事に驚いたし、なにより嬉しかったから。

「………くしゅっ」

「君がくしゃみをする時の顔……なんていうか」
「それはブスだ、って言いたいの?」
「いや、個性的だなぁっと」
「……同じに聞こえる」
「ちょっと寒くなってきたからなにか羽織ろう。風邪でも引いたら選考に響くかもしれないから」

お互いリュックから上着を出そうと中に手を入れ、僕は黒のスウェットを着るが、彼女はずっと探している。

「あれ……あれれ……入れたと思ったのに」

なかなか見つからないらしく、挙げ句の果てにはリュックを逆さにして中身を全部地面に広げるが、やはり無い。
出てくるのは長めのタオルと、財布、そして下半身だけのジャージが2枚…。

「……上下を間違えたって事だね」

僕は笑いを堪えていたが『笑うな!』という言葉と耳まで真っ赤にして怒る表情に耐えきれず笑った。

「そんな事もあるかもと思って、一応これ持ってきて正解かな」

僕はリュックから黒と白のチェック柄のマフラーを彼女の首にグルグルと巻き付けた。

「君は僕に麦わら帽子を貸しているから、それのお返しってとこかな」
「あぁ!麦わら帽子が無いと思ったら君が持っていたんだ。なんで??」
「なんでって……君、覚えてないの?」

彼女は僕から目を逸らし考えているようだが、記憶の扉の向こうにはないようだ。
それだけ無意識に被していたのか。

「……」
「それより、言うことは?」
「……ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」

練習は若者達がそれ以降、ぞろぞろとやって来たので下山し帰る事にした。

「次に会うのは夏、かな?その時はもう選考が目の前になるから体には気をつけるんだよ」
「うん」

別れ際の彼女の声は少し曇っており、それは期間が空くからだと思っていた。

「ねぇ。これ、少し借りてて良い?」

首元にはまだあのマフラーをしており、時期的には不自然だがなくても特に困ることもないので了承した。

「じゃあ、また連絡するね」
「うん」

背を丸め実家に入る彼女の姿はどこか暗い影を落としているように見えた。
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