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家に帰り、自室のクローゼットを開けると麦わら帽子がひっそりと佇んでいる。
「覚えてないなんて」
取り出し、机の上に置いた帽子をまじまじと見続けた。
辺りはすっかり暗くなり、開けた窓からは冷たい風が遠慮なく部屋に入り込んでくる。
「翔吾、ご飯だよ」
「すぐ行く」
帽子はそのままに、僕はリビングに向かうと母と向かい合い夕食を共にし始めた。
「今日、梢ちゃんとどこに行ってたの?」
「別に、そこら辺だよ」
「ふーん、リュックなんて背負っていくから遠出でもしたのかなぁと思って」
年頃の僕から色々と聞き出したいのだろう。
母は食べる事を止め、矢継ぎ早に質問を投げかけてくるが、僕らは付き合っているわけではない。
ただ、彼女は僕のことが好きで、僕も嫌いではない。
「でも凄いよね。あの梢ちゃんが役者を目指しているなんて。どちらかといったら大人しそうな感じだったのに、今はとても活発」
「……それは同意見だよ」
「役者かぁ、いつか晴れ舞台見てみたいなぁ」
「……いつかね」
「そういえば梢ちゃんらしい子が病院から出てくるのをみたけど、どこか悪いのかな?」
「えっ、病院?」
「そう。どこだったかなぁ、……あー、確か耳鼻科、だったかな」
「耳鼻科……」
母のその言葉に心臓がドクンと大きく鳴った。
そういえば今日の帰りの電車でやけにのど飴を欲しがっていたような。
最初は山は空気も薄いし、乾燥もしているからそんな中で大声を出したからだと思っていた。
それにどこでも買える代物だから帰りに買ったらと告げても、君から貰った方が効くからと流されたことも思い出す。
「本当に彼女だった??」
「翔吾?」
「ねぇ、教えてよ。どこの耳鼻科?」
「んー……。あっ、そうそう。中学校近くのあの場所から出て来たけど」
僕もその場所は知ってる。
子供の頃、耳に異物が入り泣きじゃくった僕を心配した母に連れられて行った記憶があるから。
僕はすぐに夕食を中断した。
「翔吾、もういいの?」
「もういい!!」
すぐに自室に戻り、勉強の妨げにならないようベッドの上に置いた携帯を取ると、すぐに通話ボタンを押した。
もちろん相手は彼女だ。
「もしもし?なに、急に?」
「ねぇ、一つ教えて」
「なにを?」
「君……病院なんて行った?」
「……行ってないけど」
「それは本当に?嘘をついてるとかはない?誓える?」
「どうしたの、いきなり。変だよ?」
「いいから誓えるか、誓えないか言ってよ!」
「……誓える」
僕は話しながら窓の外に半身を出し向かいの家を見て話を続けた。
「ねぇ、いま外に出れる?」
「外?ベランダってこと?」
「そう」
「んー……今からお風呂行くんだけどなぁ。あっ!もしかして私の体見たいの?君もやっぱり男の子だったんだねー」
「揶揄わないで!少しでいいから出てほしい」
「……分かったよ」
電話越しにカラカラ…と窓を開ける音がした後、僕の目に彼女の姿が映ったかと思うと不思議な感覚に陥った。
ベランダに出た彼女の顔を薄目で見ればなんとか見えるのだ。
この距離は…。
「君って確か目、良かったよね?」
「昔からね」
「なら君も、僕の顔分かる?」
「んーー??」
彼女は額に敬礼する形で手を当て、向かいにいる僕の事を見てきたので、すぐに知らせてみた。
「あぁ、確かに。言われてみたらそうかも。意外な盲点だね」
そこで僕は耳から携帯を離し、彼女へ届けようと声を張った。
「あははっ!聞こえないよ、君の声は。しょうがないなぁ、お手本を見せてあげよう」
通話を勝手に切られた後、声が僕に飛んできた。
「わたし、頑張るからー!!!」
静かな住宅街に響く彼女の声に、近所の住人は窓を開け様子を見てきたので、そそくさと彼女は部屋へと逃げると、すぐにメッセージを送ってきた。
【大丈夫、私は病気なんかじゃない】と。
「覚えてないなんて」
取り出し、机の上に置いた帽子をまじまじと見続けた。
辺りはすっかり暗くなり、開けた窓からは冷たい風が遠慮なく部屋に入り込んでくる。
「翔吾、ご飯だよ」
「すぐ行く」
帽子はそのままに、僕はリビングに向かうと母と向かい合い夕食を共にし始めた。
「今日、梢ちゃんとどこに行ってたの?」
「別に、そこら辺だよ」
「ふーん、リュックなんて背負っていくから遠出でもしたのかなぁと思って」
年頃の僕から色々と聞き出したいのだろう。
母は食べる事を止め、矢継ぎ早に質問を投げかけてくるが、僕らは付き合っているわけではない。
ただ、彼女は僕のことが好きで、僕も嫌いではない。
「でも凄いよね。あの梢ちゃんが役者を目指しているなんて。どちらかといったら大人しそうな感じだったのに、今はとても活発」
「……それは同意見だよ」
「役者かぁ、いつか晴れ舞台見てみたいなぁ」
「……いつかね」
「そういえば梢ちゃんらしい子が病院から出てくるのをみたけど、どこか悪いのかな?」
「えっ、病院?」
「そう。どこだったかなぁ、……あー、確か耳鼻科、だったかな」
「耳鼻科……」
母のその言葉に心臓がドクンと大きく鳴った。
そういえば今日の帰りの電車でやけにのど飴を欲しがっていたような。
最初は山は空気も薄いし、乾燥もしているからそんな中で大声を出したからだと思っていた。
それにどこでも買える代物だから帰りに買ったらと告げても、君から貰った方が効くからと流されたことも思い出す。
「本当に彼女だった??」
「翔吾?」
「ねぇ、教えてよ。どこの耳鼻科?」
「んー……。あっ、そうそう。中学校近くのあの場所から出て来たけど」
僕もその場所は知ってる。
子供の頃、耳に異物が入り泣きじゃくった僕を心配した母に連れられて行った記憶があるから。
僕はすぐに夕食を中断した。
「翔吾、もういいの?」
「もういい!!」
すぐに自室に戻り、勉強の妨げにならないようベッドの上に置いた携帯を取ると、すぐに通話ボタンを押した。
もちろん相手は彼女だ。
「もしもし?なに、急に?」
「ねぇ、一つ教えて」
「なにを?」
「君……病院なんて行った?」
「……行ってないけど」
「それは本当に?嘘をついてるとかはない?誓える?」
「どうしたの、いきなり。変だよ?」
「いいから誓えるか、誓えないか言ってよ!」
「……誓える」
僕は話しながら窓の外に半身を出し向かいの家を見て話を続けた。
「ねぇ、いま外に出れる?」
「外?ベランダってこと?」
「そう」
「んー……今からお風呂行くんだけどなぁ。あっ!もしかして私の体見たいの?君もやっぱり男の子だったんだねー」
「揶揄わないで!少しでいいから出てほしい」
「……分かったよ」
電話越しにカラカラ…と窓を開ける音がした後、僕の目に彼女の姿が映ったかと思うと不思議な感覚に陥った。
ベランダに出た彼女の顔を薄目で見ればなんとか見えるのだ。
この距離は…。
「君って確か目、良かったよね?」
「昔からね」
「なら君も、僕の顔分かる?」
「んーー??」
彼女は額に敬礼する形で手を当て、向かいにいる僕の事を見てきたので、すぐに知らせてみた。
「あぁ、確かに。言われてみたらそうかも。意外な盲点だね」
そこで僕は耳から携帯を離し、彼女へ届けようと声を張った。
「あははっ!聞こえないよ、君の声は。しょうがないなぁ、お手本を見せてあげよう」
通話を勝手に切られた後、声が僕に飛んできた。
「わたし、頑張るからー!!!」
静かな住宅街に響く彼女の声に、近所の住人は窓を開け様子を見てきたので、そそくさと彼女は部屋へと逃げると、すぐにメッセージを送ってきた。
【大丈夫、私は病気なんかじゃない】と。
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