26 / 49
26
しおりを挟む
彼女の告白に、僕は思わず立ち上がり近づいていった。
「……嘘、でしょ?」
彼女は首を振ったあと申し訳なさそうな表情を見せ、両手をギュッと固く結び、口は真一文字に閉じていく。
そんな状況をみて、とてもじゃないが次の瞬間『ビックリした??』と笑いながら貶める姿など想像出来なかった。
「いつから?」
問いかけに、一拍置いてから話してきた。
ボイストレーニングを開始して少し経ってからだ、と。
最初は小さな違和感からだったそうだ。
学んだ方法を試していると、チクッと痛みが走ったが、それはまだトレーニングを始めたばかりで慣れていないと思い込んだ。
実際、先生に相談すると同じ意見を貰った事でそれ以上深く考えないようにした。
だけど、月日が経ってもその痛みは襲ってくるので不安になり病院に行ったそうだ。
病院も今住む場所付近で行ってしまうと親戚の子のみならず、劇団の誰かに見られ報告されたら選考を除外されてしまうのでは、と考えこっちに戻って受診したと告げる。
それを僕の母は見たんだ。
「……君は、どうして欲しい?」
重苦しい空気のなか発せられた言葉に、僕は黙り考えた。
こんな話を聞いてしまったら辞めて欲しいと願う。
しかし、それでは今までやってきた努力は全て水の泡になってしまい、彼女の生きる力を奪いかねない。
夢を叶える手前でこのような躓きを与える神様を今までで一番憎んだ。
「辞めて欲しくない……」
考えた事とは違う言葉を僕は口にしていた。
続ければそれこそ言葉を発せられなくなる危険もあるのに…。
でもそれ以上にステージに立つ彼女の姿を望んだ。
あの日、あの時見た女性演者のような姿を。
僕の言葉にビックリしたのだろう。
彼女の両目からは涙が流れ、街路灯に照らされたその涙はオレンジ色に光ってとても綺麗だった。
「……本当にいいの?」
人気のない静かな公園だったからこそ聞こえたが、その声はとても小さく、時には少し荒い呼吸をみせ、何かを我慢しているようだった。
「僕の考えている事なんて君にはバレバレなんでしょ?でも今回は違う。
辞めてとか諦めようなんて言わない。
君の夢の扉はもう目の前にある、あとは開けるだけ。
それに僕は聞きたいんだ。
この公園でも、山でも、海でもない。
ステージに立つ君からの声を」
「……が、………翔吾くん」
「ははっ。君が僕をそう呼ぶのは2回目かな?」
次の瞬間、彼女は僕に抱きついてきた。
あのクリスマスの時のように。
でも強引じゃない。
抱きしめられた僕も彼女の背に手を回すと、我慢が限界を超えたのだろう。
胸の中で泣く彼女を優しくポンポンと叩いた。
「ありがとう」
「うん、一緒に頑張ろう。でも、無理だけはしないで」
「うん……」
今日の練習はそれ以降せず、2人で駅へと歩いて行った。
「……嘘、でしょ?」
彼女は首を振ったあと申し訳なさそうな表情を見せ、両手をギュッと固く結び、口は真一文字に閉じていく。
そんな状況をみて、とてもじゃないが次の瞬間『ビックリした??』と笑いながら貶める姿など想像出来なかった。
「いつから?」
問いかけに、一拍置いてから話してきた。
ボイストレーニングを開始して少し経ってからだ、と。
最初は小さな違和感からだったそうだ。
学んだ方法を試していると、チクッと痛みが走ったが、それはまだトレーニングを始めたばかりで慣れていないと思い込んだ。
実際、先生に相談すると同じ意見を貰った事でそれ以上深く考えないようにした。
だけど、月日が経ってもその痛みは襲ってくるので不安になり病院に行ったそうだ。
病院も今住む場所付近で行ってしまうと親戚の子のみならず、劇団の誰かに見られ報告されたら選考を除外されてしまうのでは、と考えこっちに戻って受診したと告げる。
それを僕の母は見たんだ。
「……君は、どうして欲しい?」
重苦しい空気のなか発せられた言葉に、僕は黙り考えた。
こんな話を聞いてしまったら辞めて欲しいと願う。
しかし、それでは今までやってきた努力は全て水の泡になってしまい、彼女の生きる力を奪いかねない。
夢を叶える手前でこのような躓きを与える神様を今までで一番憎んだ。
「辞めて欲しくない……」
考えた事とは違う言葉を僕は口にしていた。
続ければそれこそ言葉を発せられなくなる危険もあるのに…。
でもそれ以上にステージに立つ彼女の姿を望んだ。
あの日、あの時見た女性演者のような姿を。
僕の言葉にビックリしたのだろう。
彼女の両目からは涙が流れ、街路灯に照らされたその涙はオレンジ色に光ってとても綺麗だった。
「……本当にいいの?」
人気のない静かな公園だったからこそ聞こえたが、その声はとても小さく、時には少し荒い呼吸をみせ、何かを我慢しているようだった。
「僕の考えている事なんて君にはバレバレなんでしょ?でも今回は違う。
辞めてとか諦めようなんて言わない。
君の夢の扉はもう目の前にある、あとは開けるだけ。
それに僕は聞きたいんだ。
この公園でも、山でも、海でもない。
ステージに立つ君からの声を」
「……が、………翔吾くん」
「ははっ。君が僕をそう呼ぶのは2回目かな?」
次の瞬間、彼女は僕に抱きついてきた。
あのクリスマスの時のように。
でも強引じゃない。
抱きしめられた僕も彼女の背に手を回すと、我慢が限界を超えたのだろう。
胸の中で泣く彼女を優しくポンポンと叩いた。
「ありがとう」
「うん、一緒に頑張ろう。でも、無理だけはしないで」
「うん……」
今日の練習はそれ以降せず、2人で駅へと歩いて行った。
0
あなたにおすすめの小説
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる