君から届く声を、僕は守りたい

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それから公演の練習は多忙を極め、会う事はおろか、メッセージもなく月日だけが過ぎていった。
こちらから連絡を入れても良かったが、休むことも仕事だと告げているだけに躊躇してしまった。
体の事を気にしつつ過ごしていたなか、メッセージが届いたのはクリスマス公演を1カ月後に控えた夜のことだった。

【元気?もう3か月近くも経ってしまったんだね。連絡出来ずにごめんね。
君の事だから寂しくて枕を濡らしているんじゃないかな?あぁ……早く会いたくて仕方ないよー、ってね。
あっ!いま、澄ました顔したでしょ?分かるんだからね!】

僕の心配なんて無用だったようだ。
減らず口は健在なので澄まし顔になった事は隠しておこう。

【久しぶりだね。枕を濡らす事はないかな。僕は平気だけど、そういう君の方が寂しくて仕方ないのでは??】
【ムキーっ!せっかく愛しの彼女が連絡したのにそんな言葉を垂れるなんて君の恋愛観はどうなっているのやら。
あの日の君はとても……】

連絡が来て嬉しくないわけがない。
でも、いつも通りに接する方が僕ららしいし、その方が話しやすいと思えるから。

メッセージはその後も他愛ない話を繰り返し、お互いの近況を教えていると少しだけ時間が作れるから会いたいと言ってくる。
メッセージでは素っ気ない感じだが、もちろん僕も会えるのは嬉しいので了承した。

そして会う事になったのはそれから一週間後の夕方だった。



「もういるなんて」

いつもの公園、街路灯の真下で彼女は台本を読み、僕に気付くと軽く手を上げてくる。

「今日は台本隠さなくていいの?」
「いつのことを言っているやら……」

やれやれと呆れつつ、彼女は首を振る。

久しぶりに会った際の会話とは思えないが、僕らにとってはもうこれが普通なのかもしれない。

「あれ?マスクしているんだ」

薄いピンク色のマスクをし、首元には貸したマフラーをグルグルと巻いていた。

「労るのも仕事なんでしょ?それにもう公演も近いんだから風邪だって」
「そうだね」

ベンチに座り、改めて近況を聞くと主人公とヒロインはプロ役者が務めるそうで、間近で演じるのを見て衝撃を受けたそうだ。
声もそうだが動きや感情一つを取っても惹き込まれ、一緒に演じる身として負けられないし、迷惑をかけるわけにはいかないと告げてくる。
その一方で喉の調子は少し良くなく、鞄からスプレータイプの薬を見せてきた。

「もう少し抑え目でしても……」
「そういうわけにはいかないよ!だって相手はプロだよ。練習で出来ない事が本番で急に出来るなんて思わない」
「それは……分かるけど」
「……ごめん、ちょっと言い過ぎた。君は私の体を気遣ってくれているのにね。
わたし、少し焦っているのかも」
「焦る?」
「だって、その日はスカウトの人達も来るから良い演技、良い声をしなきゃって」

思い詰める彼女は台本をギュッと握り締め、目を落としていく。
決意は痛いほど伝わってくるが、やはり僕が気になるのは喉の事ばかりだ。
壊れてしまったらもう役者なんて出来ないし、それこそ日常生活にも影響が出てしまったら…。
心配そうにその姿を見ている事に気付いたのか、一人分空けていた空間を詰め真横に座り直してきたかと思うと、僕の肩に頭をこてんと乗せてくる。

「えっ」
「少しだけこうさせて。エネルギーチャージ」
「……うん」

季節は凍てつく風が吹き、身を縮こまさせてしまう冬。
吹き付ける風から守ろうとお互いの身を寄せ、しばしの暖を取る。

「ねぇ、翔吾くん」
「なに?」
「……私のこと、好き?」
「いきなりなにを!」

僕はつい身を横にズラしてしまい、彼女の頭はズルッとバランスを崩した。

「そんなに驚く事?」
「だって。……んっ?」

マスクより上に見える目は少し充血しており、そればかりか会った時よりも呼吸が少し乱れがちになっている事に気付く。

「ちょっとごめん」

額に手を当てると、熱を帯びている温かさを感じた。

「もしかして風邪引いてるんじゃないの?」
「……へへっ、バレちゃったか」
「なんでもっと早く言わないのさ!今日はもう帰ろう」

僕は彼女の手を取り立たせると、公園を後にするため引いていこうとした。



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