君から届く声を、僕は守りたい

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「どこにいくの?」
「どこって……家だよ。こんな寒空の下にいたら余計に酷くなる。今は1分でも早く休まないと」
「……私の家、知ってるの?」
「君の家なんて……あっ」

彼女の家はもう僕の向かいではなく、今は親戚の子の家に居候していることを思い出す。

「ここからだと結構遠いよ」
「そうはいっても帰らないわけには……。とりあえず君の実家にいくよ」

しかし、彼女は首を振りそれを拒んできた。

「どうして?」
「……図々しい事くらい分かってるけど、少しでも長く君といたい」
「それって……」
「最後まで言わせないで」

そう言ってる間も容体は悪くなる一方で、首を下げ、息苦しそうな呼吸を見せてくる。

「……分かったよ」

掴んでいた手を離すと、僕は背を向けてしゃがみ込んだ。

「乗ってよ。母さんには事情を話すから」
「……重いよ、わたし」
「僕だって男だ。早く乗って」
「……うん」

とすっと背に軽い衝撃を感じると立ち上がり、ゆっくり歩き出す。
初めて背負った彼女の体は思っている以上に軽かった。
もともと小柄であったのもあるが、病気も関係しているのかもしれない。

「無理してない?」

マスク越しに気遣う声が耳元をくすぐり、つい顔を逆に向けてしまう。

「してないよ、それより今は喋らないで。少しでも体を休ませて」
「うん」

背負いつつ坂を登り家が見えた瞬間、背に乗る彼女の手がギュッと僕の体を掴み出す。

「えっ……梢ちゃん?」
「母さん、急で悪いんだけど風邪薬と冷やしたタオルを用意してほしい」

玄関に座らせた彼女はさっきよりも酷くなっているのか、靴箱に寄り添う形で体を預け、ぐったりとした様子を見せてくる。

「立てる?とにかく僕の部屋に行こう」
「部屋なんていって何する気?」
「こんな時によくそんな事言えるね」
「……へへっ」

ゆっくり立たせ、2階の自室に入れるとすぐにベッドに寝かせた。

「翔吾くんの部屋ってこんな風なんだ」
「昔入ったことあるでしょ?いまさらそんな風に言わなくても。とにかく薬もらってくるから大人しく休んでてよ」
「はーい」

階段を降りつつ僕は公演日まで残り少ない事を懸念した。
風邪は良くなるだろうが、その間の練習はストップしてしまい、自分だけではなく周りの役者たちとの関係も悪化してしまったら支障も…。

「はい、これ」
「ありがとう。……ってなんでコレまで?」

母は頼んだもの以外に袋いっぱいにつまったみかんを手渡してくる。

「風邪ならビタミンでしょ?翔吾も冬になると予防の為に良く食べているし。ほら、早く梢ちゃんに持っていって。あとでお粥も持っていくから」
「そんな、いいよ……」
「いいから!ほら、早く!」

背を押され、促されるままに自室へと戻った。

「これ、母さんからだけど、食べれる?」
「あっ、みかん。私好きなんだ」
「へぇ……初耳かも」

皮を剥き一房口に入れつつ話してくる。

「じゃあ、いま覚えておいて欲しいな。来年も一緒にいると思うし」
「あのさ、食べ……」

言い終わる前に彼女は素早く飲み込み、口を広げ何もない事を強調してくる。

「食べるか話すかどっちかにしろ、でしょ?」
「分かってるならしないでよ。……今日はもう寝たほうがいい。何かあったら連絡して」

ヒーターと加湿器のスイッチをつけ、僕は部屋を後にしようとした。

「待って。……ここに来て」

彼女はポンポンとベッドの毛布を叩き、すぐそばに座る事を要求してくるのでそれに従った。

「なに?」
「……わがままでごめんね」

軽く寄り添ってきたかと思うとハグをしてくる。

「……」
「迷惑だよね?移っちゃうかもしれないし」
「……」
「無言、か。そうだよね。病人だもん、私」
「そんな事ない」
「えっ」

僕はハグを解き、再びベッドに寝かしつけるとマスク越しにキスをした。

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