君から届く声を、僕は守りたい

mock

文字の大きさ
43 / 49

43

しおりを挟む
それから2日後、束の間の休息を一家で過ごした父はまた赴任先へと帰る日を迎えた。
別れを惜しむように母と抱き合った後、僕にあるものを手渡してきた。
受験生である僕のために学問のお守り、そして…。

「ちゃんとやれよ。次、帰ってきたらお前の隣にあの子がいると俺は信じている」
「うん」

恋愛成就のお守りだ。

去り行く飛行機を見ながら誓う。
僕はもう迷わない。彼女が好きだ。
そんな決意を身計らうように彼女から【結果が出たよ】とメッセージが届いた。



冬休み最終日である成人の日の昼下がり。
指定された場所に向かっていると、姿を見つけた僕に軽く手を上げてくる。

「やあっ」
「うん」

挨拶もそこそこに僕は訪れた場所を見上げた。

「入っていいの?」
「うん。許可はもらっているから」

指定された場所は劇場だった。
本来、関係者以外で一般人が入る事ができるのは公演日くらいだ。
でも今日に限っては上への許可を取り、特別に入る事を許された。

「行こう」

後について行き、重い扉を二人で開けると誰もいない客席が現れた。

「広いね」
「そうだね、誰もいないとこんな感じなんだ」

僕は緞帳が上がった客席を右へ左へと見ていると、ステージに向かうように彼女は歩みだした。

「許可を貰ってるのは一時間だけだから」
「そうなんだ」

一人分の幅しかない通路の階段を一歩ずつ降りていくと真ん中辺りで足を止めた。

「君はそこに座って」

この広い客席のど真ん中といえる場所を指定し、従うように進んでいると、彼女はそんな僕を尻目にステージへと向かっていた。

「どこにいくの?」
「私は、そこだよ」

彼女はステージを指差しそこから話すと告げてくる。
てっきり隣で話すのだと思っていた僕は足を止め、ステージに上がる彼女を見ていると真ん中まで進み、そして手を真上に上げていく。

「聞こえるー?」

もちろん聞こえる。
君の声はもう25m先でも聞こえるんだから。

「もちろん!」

僕も精一杯の声を出し答えると、両手で『○』を作り微笑んでくる。

「まずは座って!」

言われた通りに座ると、彼女は大きく深呼吸をし、胸に手を当てつつ、声を出す。

「私……受かったよ!」

その言葉に僕は思わず立ち上がった。

「プロになっちゃった」

僕は客席を離れ、ステージへと走り出し、そして彼女と同じ場所に立った。

「本当に……?」
「うん」

近づいた僕に彼女は一枚の名刺を見せてくる。
そこには『能美プロダクション代表 能美義孝のうみよしたか』と書かれていた。
本物の名刺だ。
中学のあの時目指した夢がいま叶ったと思うと、僕は涙を流していた。

「なんで君が泣くの?」

クスッと笑いながら、名刺を持ちつつ涙を見せる僕の肩をポンと叩く。

「君は本当に凄いよ。ここまで辿り着くまでの努力は僕には計り知れない。
本当におめでとう」
「……うん」

僕は心から称賛を贈ったのだが、それを受け取った彼女の声はどこか沈んだような感じであり、表情も少し曇りつつあった。

「どうしたの?嬉しくないの?」

問いかける言葉を受けると、僕の手元にある名刺の一部分に人差し指を当て、よく見るように促してくる。

「……あっ」

僕は気づかなかった。
受かった事ばかりに気がいき、そのプロダクションが所在している地名を見て驚愕した。
だって、僕らが住む場所からはかなり離れており、行こうとしたら新幹線で三時間は掛かる場所だったから。

「離れ離れになっちゃうね……」

その事実を知るなり、持つ名刺から力が抜け、ステージへと落とした。

「ほ、他に受かっている事なんて」

もっと近い場所のプロダクションに受かっていて欲しいという淡い期待は、彼女が降る首を見て脆くも消え去った。

「受かったのはここだけ。……私は、どうしたらいい?」

この質問は前にもあった気がする…。
いつだ?
……そうか。喉を痛めたと知ったあの時か。

答えを出せないまま、時間だけが無情にも過ぎていき、許可された時間だけが迫っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

処理中です...