君から届く声を、僕は守りたい

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それから彼女は退団届を出し、受理されると慌ただしく新生活に向け準備に追われた。
一方で僕も受験生となり、今まで以上に勉強に取り組むこととなっていった。
それまでしていた『練習時間』はすっかり無くなってしまい、少し寂しい気持ちになったが、この先大舞台に立つであろう彼女の姿を楽しみに待つ方が上回った。

そして、思いを告げたあの日から月日は流れていき、寒さから上着を脱ぐこと躊躇う冬から木々の葉から漏れてくる光に暖かさを覚える春へと移っていくと、僕らは駅のホームに立っていた。

「とうとう、この日が来ちゃったね」

彼女は白い大きなキャリーケースを引き、これから乗る新幹線を待っている隣で、僕は彼女の鞄を持って立つ。

「うん、あっという間に来てしまったね」
「はぁ……。時間が止まってくれたらいいのになぁ」
「そうしたら君は役者にはなれなかったかも知れないよ」
「マジメかっ!!」

こうやって軽口を叩きつつ話せる時間も残りわずかだと思うと、彼女の言う時間が止まって欲しいという願望も分からなくもない。
僕も徐々に迫ってくる新幹線の到着時間を気にしてしまい、何度も案内板を見るのを繰り返してしまう。

「ねぇ……」

顔を向けていた案内板から顔を彼女へと向けると、しきりに周囲を見渡す仕草を見せてくる。

「どうかしたの?」
「……ここでしたいと言ったらダメ?」
「なにを?」
「…………………キス」
「えっ!!!」

驚き周囲を見渡すと、始発の早い時間であったため見えるのは駅員とホームを掃除するスタッフくらいしかおらず、僕らの周りには今、誰もいなかった。

少し渋っていると、僕らが待つホームに新幹線が入ってくることを伝えるアナウンスが流れてきた。

「ほら、来ちゃうよ。……私の願い、叶えてよ」

目の前に迫り、顔を上げる彼女の目は少しだけ潤んでいた。

「……わかった」

ホームに新幹線が滑り込む直前、僕らは唇を重ねた。

「……ありがとう」
「……こちらこそ」



「翔吾くん、大好きだよっ!!」
「僕も君が一番好きだ」

去り行く彼女を僕はいつまでも手を振り続けた。
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