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した者とされた者
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「あの、何処に……?」
「この前はあんたが店を予約していたからな、今回は俺が決めさせてもらった。……気にいると良いが」
「そんな……嬉しいです」
駅から10分ほど歩くと古民家風の建物へと着く。
木造建築のそこには数本ボンヤリと光を灯すポールが立っており、目隠しのためか細い板がいくつも縦に並び、周囲を囲んでいる。
どうやら小さな一軒家を改造し経営している店だそうだ。
「ここ、ビーフシチューが有名らしい」
「そうなんですね、楽しみです」
店の中は小さな小部屋が二つあるだけでかなり小さい。
「いらっしゃい」
出迎えるのはコック帽を被る中年の男性。
「予約した、高野といいます」
「はいはい、高野さんね。お待ちしてました。こちらへ」
スタッフは他にはおらず、一人でやっているみたいで、1日の予約も2組しか取らないという。
案内された部屋には大きな木を輪切りにし年輪がハッキリと残る楕円形のテーブルと同じ材質で作られた椅子。
二人で座るには少し広さもある6畳ほどで、テーブルには円柱の小さなガラスに入った蝋燭が火を揺らし部屋を灯す。
「……なんだかオシャレですね」
「そうだな」
小野さんは部屋を見渡し様子を伺っているようだ。
でも、嫌ってる感じはなく、少しホッとした。
お互い店のオススメだというビーフシチューのディナーを頼み、出されたグラスの水を一口飲み、俺は口を開いた。
「今日は、ありがとうな」
「いえ、こちらこそ」
蝋燭がゆらゆらと部屋を灯す。
そんな中で目の前にいる小野さんは両手でグラスを持ち、口へと運んでいく。
その姿に俺は少しだけフッと笑う。
「どうしたんですか……?」
「いや、そういう行動は暖かい飲み物をする時にするんだと思ってた」
「あっ」
すぐにグラスをコトっとテーブルに置き、気まずそうにする。
「いや、わりぃ」
「ごめんなさい、……久しぶりに会うから緊張してるみたいです」
「そうか。そんなの俺もだ」
「えっ……浩二さんもですか?」
「あぁ、今だって、ほら」
俺はテーブルに置いた右手を開いて見せた。
「なっ、少し震えているだろ?」
「……はい」
告白した者とされた者。
そんな二人が会ったのだから緊張しない方がおかしい。
他愛のない話くらいしか今は口にする事が出来ず、少し話しては黙ってしまう。
「失礼します」
数分後、頼んだメニューを出され、一通りの説明を受ける。
作るのにまる1日は煮込んで作っているらしい。
「……では、ごゆっくりと」
二人の目の前に出された白い器で出されたビーフシチュー。
その他に、色とりどりの野菜と小さなフランスパンが二つ。
暖かい湯気が立ち、そこから香るいい匂いが食欲を刺激する。
「……食べるか」
「そうですね、暖かいうちに食べないと失礼です」
テーブルに添えられた木箱から銀製のナイフ、フォーク、スプーンを取り出しお互いに口を付ける。
シチューを口にしつつ、俺は少し上目で小野さんの様子を伺った。
髪が触れないよう左手で支えつつ食べる姿はとても上品に映った。
「……なぁ」
タイミングが悪かったようだ。
俺の声に反応し、すぐに顔を上げるが、同時に左手で支えていた髪ははらりと下に垂れ、シチューの上へと少し触れてしまった。
「あっ」
「すまねぇ」
俺は木箱からすぐにナプキンを取り出すと差し出した。
スプーンを置き、慌てた様子で触れた髪を拭く。
「ごめんなさい」
「なんであんたが謝るんだよ。俺だろ?」
「……」
「それより、……少し話したい事がある」
俺の言葉にナプキンを置くと、小野さんも『私も』と言う。
「この前はあんたが店を予約していたからな、今回は俺が決めさせてもらった。……気にいると良いが」
「そんな……嬉しいです」
駅から10分ほど歩くと古民家風の建物へと着く。
木造建築のそこには数本ボンヤリと光を灯すポールが立っており、目隠しのためか細い板がいくつも縦に並び、周囲を囲んでいる。
どうやら小さな一軒家を改造し経営している店だそうだ。
「ここ、ビーフシチューが有名らしい」
「そうなんですね、楽しみです」
店の中は小さな小部屋が二つあるだけでかなり小さい。
「いらっしゃい」
出迎えるのはコック帽を被る中年の男性。
「予約した、高野といいます」
「はいはい、高野さんね。お待ちしてました。こちらへ」
スタッフは他にはおらず、一人でやっているみたいで、1日の予約も2組しか取らないという。
案内された部屋には大きな木を輪切りにし年輪がハッキリと残る楕円形のテーブルと同じ材質で作られた椅子。
二人で座るには少し広さもある6畳ほどで、テーブルには円柱の小さなガラスに入った蝋燭が火を揺らし部屋を灯す。
「……なんだかオシャレですね」
「そうだな」
小野さんは部屋を見渡し様子を伺っているようだ。
でも、嫌ってる感じはなく、少しホッとした。
お互い店のオススメだというビーフシチューのディナーを頼み、出されたグラスの水を一口飲み、俺は口を開いた。
「今日は、ありがとうな」
「いえ、こちらこそ」
蝋燭がゆらゆらと部屋を灯す。
そんな中で目の前にいる小野さんは両手でグラスを持ち、口へと運んでいく。
その姿に俺は少しだけフッと笑う。
「どうしたんですか……?」
「いや、そういう行動は暖かい飲み物をする時にするんだと思ってた」
「あっ」
すぐにグラスをコトっとテーブルに置き、気まずそうにする。
「いや、わりぃ」
「ごめんなさい、……久しぶりに会うから緊張してるみたいです」
「そうか。そんなの俺もだ」
「えっ……浩二さんもですか?」
「あぁ、今だって、ほら」
俺はテーブルに置いた右手を開いて見せた。
「なっ、少し震えているだろ?」
「……はい」
告白した者とされた者。
そんな二人が会ったのだから緊張しない方がおかしい。
他愛のない話くらいしか今は口にする事が出来ず、少し話しては黙ってしまう。
「失礼します」
数分後、頼んだメニューを出され、一通りの説明を受ける。
作るのにまる1日は煮込んで作っているらしい。
「……では、ごゆっくりと」
二人の目の前に出された白い器で出されたビーフシチュー。
その他に、色とりどりの野菜と小さなフランスパンが二つ。
暖かい湯気が立ち、そこから香るいい匂いが食欲を刺激する。
「……食べるか」
「そうですね、暖かいうちに食べないと失礼です」
テーブルに添えられた木箱から銀製のナイフ、フォーク、スプーンを取り出しお互いに口を付ける。
シチューを口にしつつ、俺は少し上目で小野さんの様子を伺った。
髪が触れないよう左手で支えつつ食べる姿はとても上品に映った。
「……なぁ」
タイミングが悪かったようだ。
俺の声に反応し、すぐに顔を上げるが、同時に左手で支えていた髪ははらりと下に垂れ、シチューの上へと少し触れてしまった。
「あっ」
「すまねぇ」
俺は木箱からすぐにナプキンを取り出すと差し出した。
スプーンを置き、慌てた様子で触れた髪を拭く。
「ごめんなさい」
「なんであんたが謝るんだよ。俺だろ?」
「……」
「それより、……少し話したい事がある」
俺の言葉にナプキンを置くと、小野さんも『私も』と言う。
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