真っ白だった俺を色付けた君は儚い

mock

文字の大きさ
35 / 42

した者とされた者

しおりを挟む
「あの、何処に……?」

「この前はあんたが店を予約していたからな、今回は俺が決めさせてもらった。……気にいると良いが」
「そんな……嬉しいです」


駅から10分ほど歩くと古民家風の建物へと着く。

木造建築のそこには数本ボンヤリと光を灯すポールが立っており、目隠しのためか細い板がいくつも縦に並び、周囲を囲んでいる。
どうやら小さな一軒家を改造し経営している店だそうだ。

「ここ、ビーフシチューが有名らしい」
「そうなんですね、楽しみです」

店の中は小さな小部屋が二つあるだけでかなり小さい。

「いらっしゃい」

出迎えるのはコック帽を被る中年の男性。

「予約した、高野といいます」
「はいはい、高野さんね。お待ちしてました。こちらへ」


スタッフは他にはおらず、一人でやっているみたいで、1日の予約も2組しか取らないという。


案内された部屋には大きな木を輪切りにし年輪がハッキリと残る楕円形のテーブルと同じ材質で作られた椅子。
二人で座るには少し広さもある6畳ほどで、テーブルには円柱の小さなガラスに入った蝋燭が火を揺らし部屋を灯す。

「……なんだかオシャレですね」
「そうだな」

小野さんは部屋を見渡し様子を伺っているようだ。
でも、嫌ってる感じはなく、少しホッとした。

お互い店のオススメだというビーフシチューのディナーを頼み、出されたグラスの水を一口飲み、俺は口を開いた。

「今日は、ありがとうな」
「いえ、こちらこそ」

蝋燭がゆらゆらと部屋を灯す。
そんな中で目の前にいる小野さんは両手でグラスを持ち、口へと運んでいく。
その姿に俺は少しだけフッと笑う。

「どうしたんですか……?」
「いや、そういう行動は暖かい飲み物をする時にするんだと思ってた」
「あっ」

すぐにグラスをコトっとテーブルに置き、気まずそうにする。

「いや、わりぃ」
「ごめんなさい、……久しぶりに会うから緊張してるみたいです」
「そうか。そんなの俺もだ」
「えっ……浩二さんもですか?」
「あぁ、今だって、ほら」

俺はテーブルに置いた右手を開いて見せた。

「なっ、少し震えているだろ?」
「……はい」

告白した者とされた者。
そんな二人が会ったのだから緊張しない方がおかしい。
他愛のない話くらいしか今は口にする事が出来ず、少し話しては黙ってしまう。


「失礼します」


数分後、頼んだメニューを出され、一通りの説明を受ける。
作るのにまる1日は煮込んで作っているらしい。

「……では、ごゆっくりと」


二人の目の前に出された白い器で出されたビーフシチュー。
その他に、色とりどりの野菜と小さなフランスパンが二つ。
暖かい湯気が立ち、そこから香るいい匂いが食欲を刺激する。

「……食べるか」
「そうですね、暖かいうちに食べないと失礼です」

テーブルに添えられた木箱から銀製のナイフ、フォーク、スプーンを取り出しお互いに口を付ける。

シチューを口にしつつ、俺は少し上目で小野さんの様子を伺った。
髪が触れないよう左手で支えつつ食べる姿はとても上品に映った。

「……なぁ」

タイミングが悪かったようだ。
俺の声に反応し、すぐに顔を上げるが、同時に左手で支えていた髪ははらりと下に垂れ、シチューの上へと少し触れてしまった。

「あっ」
「すまねぇ」

俺は木箱からすぐにナプキンを取り出すと差し出した。
スプーンを置き、慌てた様子で触れた髪を拭く。

「ごめんなさい」
「なんであんたが謝るんだよ。俺だろ?」
「……」
「それより、……少し話したい事がある」

俺の言葉にナプキンを置くと、小野さんも『私も』と言う。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...