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御園診療所 【1】

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段々と暖かくなってきた3月下旬。それでも、夜になるとまだ肌寒い中、世良葵は新宿の繁華街を歩いていた。
日本に来日して2ヶ月が経とうとしていた。久々の日本に少し慣れてきていた。
大通りを歩いていると、目の端に路地の奥を女性が走って行ったのが見えた。

(・・・。今のは?)

葵は踵を返すと、路地裏に入っていく。
一本通りを奥に入ると喧騒は遠のき人気も無かった。

(確かこっちに行ったような・・・。)

さっき、見掛けた女性が何故か気になり後を追う。
暫く路地裏を歩いていると、ビルとビルの間の物陰に気配を感じた。
近くに寄ってみると先程の女性が蹲るように身を隠していた。

「あの・・。大丈夫ですか?」

葵は女性に声を掛けると、ビクッとして怯えた目で見つめてきた。

「ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ユルシテ。コロサナイデッ!!!」

女性はガタガタと身体を震わせ泣きながら懇願してきた。
よく見ると、左肩から出血している。

(日本人じゃない?)

「大丈夫。落ち着いて?私は貴女の敵じゃない。」

優しく語りかける。

「アイツラノ、ナカマジャナイ・・?」

女性は目を見開いた。

「うん。違うよ。私は葵っていうの、貴女の名前聞いてもいい?」

「レイア・・。」

「レイアね。怪我してる、応急処置したいんだけど良いかな?」

コクリと頷いたがまだ怯えている様子だった。
近くに座り込むと傷口を見る。

(これは・・。銃槍?)

手際良く応急処置をする。

「アオイ、ニホンジン。ドウシテ?ワタシニヤサシクスル?」

「怪我をしてる人をほっとけないでしょ?」

「デモ、ワタシガイジン・・。ドウシテ?」

「・・・。外人なんて人は居ないわ。レイアはレイアの国の人でしょう?」

応急処置を終えると葵は優しく微笑んだ。

「アナタ、カワッテル。」

「そう?とりあえず、これで少しは大丈夫だけど病院に行ったほうが良いね。」

「・・。ワタシ、オーバーステイ。ビョウインハダメ。デモ、アソコナラ・・。」

「あそこ?」

「コノサキニアル。・・ミソノシンリョージョ。」

「そこに行けば大丈夫なのね?」

「ウン。」

その時、複数の足音が近付いてきた。
レイアが再び怯えた表情になる。

「おい。あの女居たか?」
「見当たりません。」
「病院に駆け込んだんじゃ・・。」
「それはないな。とにかく探せ!!」

息を潜めて様子を伺っていると、足音が遠ざかっていった。ホッとしてレイアを見ると苦しそうに肩で息をしていた。

「今のうちにその診療所に行きましょ?歩ける?」

「ダイジョウブ。」

葵はレイアを気遣いながら『御園診療所』を目指した。
5分程で診療所に着いた。
暗い入口のドアを開けると声を掛ける。

「すみません!どなたかいらっしゃいませんか?怪我をしてる人が居るんですけど!!」

すると、奥の診察室から白衣を着た中年の男性が出てきた。

「はいよ~。どうしたんだぁ?」

「この人が怪我を。一応、応急処置はしましたけど見てもらえますか?」

「入りなよ。こっちだ。」

スタスタと診察室に入っていった。

「見てくれるみたい。行こう?」

手を貸し診察室に入る。

「とりあえず、傷口見せて。貫通銃槍か。この応急処置はあんたがしたのか?」

「はい。」

「・・・。そうか。ひとまず、処置するからあんたは待っててくれ?」

「わかりました。」

葵は待合室で処置が終わるのを待っていた。
シンと静まりかえった待合室に時計の秒針の音だけが響く。
不意に外から話声が聞こえてきた。
葵は入口のドアをそっと開けて外の様子を伺う、先程の男達が診療所の前で話をしている。

「これだけ探しても見付からないって事はどっかに逃げ込んだんじゃないのか?」
「でも、何処に行くんだ?頼れる人間なんて居ないはずだろ?」
「とにかく探し出すしかない。林田さんにバレたらヤバいぞ。」

(・・・。)

「あいつら神龍会の連中だなぁ~。」

背後から声を掛けられハッとする。

(気配を感じなかった・・。この人は一体?)

「処置終わったよ。」

診察室に行くと、レイアは隣の部屋のベッドで眠っていた。

「彼女はどうするの?」

「ん~?まぁ、少しここに居てもらうつもりだよ。」

「さっきの神龍会って?」

「ああ。ここら辺を仕切ってるヤーサンだよ。」

「そう・・。レイアからは何か聞けた?」

「いや。詳しくは聞いてない。アルベド共和国から来たって事位かな?」

「・・・。」

顎に手を当て考え込んでいるとコーヒーを差し出された。

「ありがとう。えっと・・。」

「まぁ、座りなよ。俺は御園っていうんだ。あんたは?」

「私は、葵。世良葵。」

「葵か。いい名前だな?」

「・・・。ありがと。彼女オーバーステイだって言ってた。さっきの連中に追われてたみたいなの。」

「神龍会に?」

御園は不思議そうな顔をした。

「どうかした?」

「いや、神龍会の組長は一応人格者でな。女・子供には手を出さないはずなんだがな・・。」

「・・・。林田って人にバレたらまずいって言ってた。」

「林田?」

「知ってるの?」

「ああ。神龍会の若頭補佐なんだが良い噂は聞かないな。」

「・・・。とりあえずレイアから話が聞ければ早いよね?今日はもう帰るわ。また明日来ても良いかな?」

「関わらない方が良いんじゃないのか?相手はヤクザだぞ?」

チラリと隣の部屋を見る。

「彼女をこのままにはしておけないでしょ?」

「・・・。そうか、わかった。また明日おいで。」

「ありがと。コーヒーごちそうさま。」

入口まで見送りに来てくれた御園に挨拶をすると帰路についた。
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