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第4章 このアイテムがすごい!そしてロゼも凄い!

#44 舐めプ勇者達の無様なる敗走(ざまあ回)

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「まずは向こうを見えるようにしよう」

 そう言って俺は両開きの扉中央に家のドアにあるような覗き窓…の大きくした物を作った。大体50インチくらいの薄型テレビを扉の表面に貼り付けるような感覚だ。するとたちまち扉の向こう側の光景が映った。さながら窓の外を眺めているかのようだ。

「う、浮いているのニャ!」

 扉の向こうのすぐ近くにはまず後ろ姿が見えた。漆黒の…、手に入れたばかりの星幽の黒剣アストラル・スレイヤーの刀身を思わせるような長く黒い髪をした人物の姿。着ているのも黒い袖なしのワンピースのようだ。衣服に包まれていない肩から先、そして靴を履いていない足首から先の肌はとても白い。

 そして一番の驚きはミニャの言う通りふわりふわりとその人物が浮いている事である。

「向こうにいるのはグランペクトゥの騎士…」

 数十メートル先に松明や明かりの魔法具だろうか、それらを持って暗いダンジョンを照らしている騎士達がいる。…間違いない、俺やロゼを激流に突き落とした奴らと同じ鎧を着てやがる。

 そして…。

「あ~、何?こんな女がボスて、全員やられてんの?うわ、この世界のヤツらザコじゃん」

 そう言って近づいてくるのは日本から召喚された四人組の一人、ジュライとかってヤツだったか。相変わらず品性も、そして知性も感じさせない顔をしていた。今はさらに相手をナメてかかるようなうすら笑いを浮かべている。だらしなく着た制服に手には何やらナックルのような物をはめていて、両の拳を打ち合わせガンガンと音を立てた。まさにやる気満々と言った感じだ。

「ワンパンだ、ワンパン!」

 後ろにいるもう一人の男から声がかかる、ヤツの顔にも見覚えがある。他に女二人がいてこれにも見覚えがあった、あの四人組だ。

「早くやっちゃってよね~、その先になんか良いモンあるんでしょ~!?」

「そ~そ~。ジャンケンで勝ったんだからジュライにやらしたげるんだからね」

 どうやら先程聞こえてきたジャンケンの掛け声はふわふわと浮いている謎の女性と誰が戦うかを決めるものだったようだ。

「つーかよォ、よく見りゃ顔はイケてんじゃん。ガキだけどよ、俺サマの言う事聞くなら殴んないでやンよ?そこどいて俺サマのモンになるならよォ…、あん?」

 そう言いながら浮いている女性に近づいたジュライ。

「アイツ、あれでやる気なのかニャ?動きがまるで駄目ニャ」

 ミニャが呟く。

「そうなのか?奴は凄くレアな天職ジョブで凄いパラメーターの数値だったが…」

 なんだっけ?聖拳士ホーリーモンクだったか、とてもあり得ないほどのレアなジョブだったはずだ。

「動く!!」

 ロゼが珍しく強い口調をした、俺は視線を改めて前に向けた。

「何シカトこいてンだよッ!!」

 返事が無い事に腹を立てたのかジュライが拳を振り上げて殴りかかった。

 フッ…!

 女性の姿が消えた。そしてその場に残されたパンチを力任せに大振りして体勢を崩したジュライの姿が丸見えになる。

 パッ…!

 そのジュライの背後に今まで後ろ姿しか見えなかった女性がこちら向きで姿を現した。幼い顔つきだった、少女と言ってもいい。真っ黒な髪に白い肌…、物凄く整った顔立ちだ。もはや神秘的とさえ言えるくらいだ。

「速いニャ!…いや、気配が完全に消えていたニャ!」

 ミニャが叫ぶ。

 次の瞬間、その少女のような存在はスッと右手を伸ばした。それは背中を向けているジュライに向けて、あるいはその様子を見ているこちらに向けて。

押圧プッシュ…」

「なッ…!?ゴバァッ!!」

 殴りかかったジュライの後方に回り込んだ少女が一言呟くとまるで摩擦を忘れたかのようにジュライが凄い勢いでこちらにすっ飛んでくる。そして大きく鈍い音を立てて俺達が見ている覗き窓の真っ正面にぶつかった。テレビ映像ならドアップといったところだろう。

「あ、あがが…」

 ずる…ずるずる…べしゃっ!

 ジュライはそのまま力無く重力に従い扉の表面に顔を擦りつけながら地面に倒れていった。



 少女に殴りかかったジュライとかいう奴があっさりとやられた。すると騒がしくなり始めた者がいた。

「ちょっとー!?何やってんのよー、ジュライ!」

「起きてこないじゃん!」

「オイ、どうしたんだよジュライ!?何自分でコケて自爆してんだよ!」

 四人組のうち、残った三人である。

「いーよ、あーし達でやろ!ピイナ!」

「あーね。まあメロもウチも魔法まほーあるし良いか」

「神殿の中じゃ幻の中でやったけどガチで使うとどーなるかマジ気になってたんたよね!やっちゃおうよ」

 そう言って今度ば女二人が何やら魔法とやらを使う体勢に入り呪文のようなものを唱え始める。

「ずいぶん遅い詠唱だニャ…、アレじゃ敵は待ってくれないニャ」

 呆れたようにミニャが呟く。三十秒はゆうに超えたろうか、やっと二人の詠唱が終わった。

「ホーリーシャイン!!」

「ヘルフレイム!!」

 女二人がそれぞれ片手を突き出し魔法を放つ体勢を取った。

 …し~ん。

「ちょ、ちょっとぉ!なんで魔法まほーが出ないの~!?」

「マジありえない!練習の時、バンバン出たのに!」

 二人の女がギャアギャアと喚く。

「あの二つ…、それぞれ聖属性と炎属性の上位魔法…」

「上位魔法?」

「レベルの高い術者でなければ使えない攻撃の魔法」

 ロゼが落ち着いた様子で説明してくれた。

「なんだってアイツらがそんな魔法を知ってるんだ…?あ…、レアな天職ジョブのさらに珍らしい何かが付いたとか言ってから…だから魔法を知ってたのか」

「知ってても使いこなせないなら意味が無いのニャ」

「確かに…」

 ミニャの言葉に俺は頷いた。

「ア、アイツ消えたよっ!?」
「どっ、どこ!?」

 いつの間にかあの少女が姿を消していた、その事に慌てる二人の女の声に俺は意識をそちらに向けた。

「出て来るニャッ!?」

 気配を感じたのかミニャが声を上げた。

 パッ…!

 その姿を探し辺りをキョロキョロしていた二人の女、白ギャルと黒ギャルの間に少女が姿を現した。

押圧プッシュ

 左右に両手を広げて呟いた少女…、その手のひらはそれぞれ二人の女に向いている。先程のジュライの動きの再現か、今度は二人の女がそれぞれ側壁に吹っ飛ぶ。

 …べしゃ。

 同時に音を響かせて二人の女が地面にずるずると壁に顔を擦りながら倒れた。

「あれは人や物を押す魔法…、攻撃の為の魔法ではない。あんな使い方が出来るなんて…」

 目の前で繰り広げられた光景にロゼが呟く。

「に、逃げるぞ!!オラァッ!」

 地面に落ちていた石か何かだろうか、やたら制服のズボンを尻の中程まで下げてはいている残る一人の男がそれを少女の方に投げて逃げの体勢に入った。それに慌てて追従する騎士達…。

 ふわり…。

 少女はなんなくそれをかわし追う体勢に入った。

「ル、ルキイ殿ッ!」

「無二の勇者殿ッ!お、追ってきますゥッ!!」

 ルキイと呼ばれた男子生徒の後に続く騎士達が追ってくる少女の存在に焦りの声を上げた。

「なぁ~んちゃって!ヒャハハハッ!!」

 ルキイがいきなり振り向いて少女にむけて手を伸ばした!

「勇者の魔法は詠唱いらねーんだぜェ!!ビッグサンダーッ!!」

 不意打ちか!?

「おお!勇者殿の必殺の魔法が!!」

「魔王すら打ち震えるという…」

 騎士達も逃げるのをやめて期待に満ちた声を上げた。

 …しーん。

 何も起こらない。ルキイは焦った様子で魔法を放とうとした自分の手を見つめている。

「な、なんでだよォ!?なんで魔法が出ねえんだよォォ!!」

 ルキイの叫びだけが虚しく通路にこだましている。

「はっ!?ゆ、勇者殿ッ!ヤツが姿を消し…」

 騎士の一人が忽然と姿を消した少女に気づいて声を上げた。

「ど、どこだァァッ!?さ、さっきはピイナとメロの間に…。ま、まさか今度も…」

 パッ…!

 少女が姿を現した。ルキイや騎士達のいる中心に…。

押圧爆発プッシュ・バースト!!」

 少女は声を発した。今度は手を突き出すのではなく、高々と両手のひらを天に向けてかかげていた。

「ぐべえっ!!」
「「「「うわあァァッ…!!」」」」

 ルキイも十人の騎士達もそのまま四方八方に吹き飛ばされある者は壁に、またある者は床に叩きつけられた。

「お、俺達ゃあ関係ねえ~ッ!!」

 騎士達や四人の勇者一行があっさり倒されたのを見て野次馬をしていた冒険者達だろうか、集団が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「ふ、ふひィィ~ッ!!」

「ま、待ってよぉ」

「あ、あーしも…」

 いつの間にか起き上がっていたのか先に倒されていた三人が痛めた所を押さえて逃げ始める。

「ゆ、勇者殿ッ!?」

 比較的ダメージが少なかった騎士がだらしなく制服を着崩した男子生徒を助け起こそうとしている。

「に、逃げ、逃げりょおおッ」

 情けない声を上げながらルキイもまた騎士達に抱えられるようにして逃げ始め、それに先程の三人も続いて逃げていった。

 逃げていく足音や物音がだんだんと遠去かりやがてあたりは静寂に包まれた。

 騎士達が落としていった明かりの魔導具が石の床で今も辺りを照らしている。その中をふわりと飛んで謎の少女が戻ってきた。そしてそのまま扉の前、向こう側を見る為に俺が創造した覗き窓の真っ正面まで来て動きを止めた。

 ふわり…。ふわり…。

 そのまま少女は宙に浮いたままこちらを見ているように感じる。まさか、こちらが見えているのか?そんな訳はない、だって扉の向こうだぞ?透視でもしてるって言うのか、ありえないだろ。

「そこ…、見ているの?」

「「「ッ!?」」」

 少女の声に俺達は体を固くした。

 
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