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第4章 このアイテムがすごい!そしてロゼも凄い!
#47 真のボスが現れた
しおりを挟む水晶のケースに包まれた星幽の黒剣が安置されていた台座、これも石作りの床の上に置かれていただけだったのでストレージに収納した。すると残ったのはがらんとした20メートル四方の空間、そこにドームハウスを出し中に入った。思い思いに座る。宙に浮いていた少女だが座布団を敷いてやるとゆっくりと着地して座った。どうやら常に浮いていなくても良いらしい。落ち着いたところで俺達は身の上話を始める事にした。
聞けば彼女は闇の精霊であり、この部屋に安置されていたアストラル・スレイヤーを守護する為に精霊達が住むとされる世界から召喚されてきたという。
それから長い間、この都市がなんらかの理由で土の下に埋もれ光が届かなくなってからずっと一人で…。
「勝手なもんだ、召喚した人間はとっくにくたばってるのに君はずっとここを守らされて…」
俺にしても嫌も応もなくこの異世界に連れ去られてきた、ロゼも使い捨ての目に遭った。使い捨てというならミニャにしてもそうだ、好条件での仕官を餌に戦線に投入され報われる事はなかった。まったくもって冗談じゃない。
「実は俺もグランペクトゥの奴らに召喚されたクチだ、もっともパラメーターは平凡かそれ以下で戦いに向くスキルが無い商人だったから死刑に近い扱いでの追放だったけどな」
ロゼもミニャもグランペクトゥから離れたという事は共通、その離れた理由や危険性に差はあったけれども…。
「ここにいるのは生まれも育ちもバラバラだ、だけどこうして同じ場所にいる。ロゼもミニャも力を貸してくれていてな、暮らしていけているんだよ」
「ハッキリ言って快適ニャ!ごはんは美味しいし、あったかいオフトゥンもあるのニャ!」
「オフトゥン?」
少女が首を傾げた。
「ああ、ミニャは布団の事を…寝具の事だな。それをオフトゥンって呼んでるんだ」
「寝具…?ここで暮らしているの?」
「そう、俺には戦う力は無いけど道具を持ち運んだり作ったりする事はできる。この家も持ち運んで出し入れすれば寝泊りができるから」
そして俺はマグカップを手に取り口にした、中身はお湯で溶いたコーンポタージュ…優しい味が口に広がった。ロゼも同じように、ミニャは猫舌の為に今もふーふーと息を吹きかけ冷まそうとしている。
「君も飲んでごらん」
はたして精霊は飲食をするのか、はなはだ疑問だったけど彼女はマグカップを手に取った。少なくとも物を持ったりとかは出来るらしい。
「甘くて…美味しい」
「そりゃ良かった、遠慮しなくていいから…」
「うん…」
そう言うと彼女はマグカップを両手で持って少しずつ飲み始めた。
「さっきの話だが、一休みしたらここを出て街に戻ろうと思うんだ。君もそれで良いかい?」
すると彼女は頷いた。
「ニャー!それじゃこれからはキミも一緒ニャ!よろしく、ボクはミニャ!」
「ロゼ…よろしく」
「俺はカヨダだ」
「私は…」
そう言いかけて少女は言いよどんだ。
「私には…名前が無い」
「…うん、まずは君の名前を考えようか。闇の精霊というのは君以外にもいるんだろう?」
「いる…、たくさん」
「名前というのはその人だけのものだ、そして君が名乗り始めたらそれは他の誰でもない君だけのものになる。それこそ改名しない限りずっとその名前だからな、変な名前じゃ一生それでいく事になる。街に戻ったらじっくり考えよう」
そんな話し合いと一休みをした後、俺達はドームハウスを出た。俺はドームハウスを収納し三人に増えた仲間達と元来た道…銅のピッケルで開けたトンネルに向かった。…その時である。
「どぉこぉへ行くゥゥゥ~?ぅ闇のォ…あ、精霊よォォ~」
いきなりクセの強い…、サ○エさんに登場するキャラクターのア○ゴさんに似た独特な声としゃべり方だ。
「お前ぅはぁ~、我が召喚せし者~。勝手にこの場を離れる事ォ、まかりならん~」
「だ、誰ニャ!?」
ミニャが持っていた照明をあちこちに向けながら叫んだ。すると部屋の片隅に黒や紫色のもやのようなものが浮かび上がった。それはだんだんと人の形になっていく…。
「が、骸骨が…」
俺は信じられないものを見た為にわずきに声が震えた。なんと現れたのはボロボロの…薄汚れあちこちに穴が空いたローブに身を包み、骨そのままの手で杖を持った骸骨であった。
「ぅ我はァ~セルナゴぉ~、かつてその闇の精霊をォォ召喚せしオラトリアの魔術師なりィィ」
「オラトリア…かつて栄えたという古代都市…」
「ん?つまりこのダンジョンの元になった…?」
「そう、土の下になったという古代都市の遺跡…、それがこのダンジョン」
なるほど、かつて栄えた都市の魔術師…、それが骸骨になって今もなお存在しているのか。
「ずぅっとこの子をこの場所に縛りつけていたのはお前かニャーッ!!懲らしめてやるニャ!うりゃー!!」
素早さを活かしてミニャがセルナゴに飛び蹴りにいった。命中、セルナゴが宙に吹っ飛ぶ。…が、しかし。
「ふニャッ!?」
「ふはァァはっはっはっはっ!!」
ミニャが違和感を感じたかのような声を上げ飛び蹴りから着地、すぐにバク転を繰り返しこちらに戻ってくる。
くるくるくるっ、すたっ!!
最後はバク転ではなく後方二回転宙返り、両足だけでなく両手も使ってミニャは俺のすぐ横に着地。本物の猫がそうするように低い姿勢のまま油断なく敵の姿を目で追っている。
一方でセルナゴは吹っ飛んだものの空中でふわりと体勢を整え笑いながら音もなく着地した。
「どうした、ミニャ?」
思わずミニャに声をかけた。
「あいつ、おかしいニャ!思いっきり蹴飛ばしてやったのにまるで手ごたえがないのニャ!まるで中身の入って無い布袋を蹴ったみたいニャ!」
「中身の無い布袋とは結構、結構!良いたとえだァァ、まァさァにィ我が体を例えるに相応しいィィ…」
「どういう意味ニャ!?」
「我は死して数百年のォ時を経ておる。つゥまりィ…お前達が目にしているのは骸骨に見えて骸骨にあらずゥ。我が霊体がそのように見えているだけに過ぎぬのだァ…。さぁて…今度はこちらの番だァ、若い男女に想像人間ゥゥ…。我が魔術の実験台にはまたとないものだァァ…」
そう言うとセルナゴは持っている杖を振りかざし魔法を放つ動作に入った。そして同時に先程までのだるささえ感じる話し方とはまるで違う気迫のこもった声。
「ダークバーストォォッ!!」
杖の先から黒い塊が放たれ俺達の目の前で爆発した!
「ふはははは!闇の爆発魔法だ、これは相手の精神を粉々に砕くゥ!貴様らは大事な実験人形になってもらわねばならぬから肉体だけは無傷でいてもらわなくてはなァァ!!…何ィィ!?」
高笑いしていたセルナゴであったが驚愕の声を上げた。
「ま、魔法がかき消えていく…」
俺が持っていたアストラル・スレイヤーを中心に数メートルの範囲には魔法が及ばなかった。
「ぬうう、アストラル・スレイヤー…。その剣の効果をまさかこの目で見る事になるとはァ…。確かにその剣はあらゆる霊的なもの、そして魔法から所持者を守る効果があるゥ…」
「た、助かった…。確かにさっき鑑定した時にこの剣には霊的魔法的な攻撃に対しての絶対防御の効果があるって…」
「ぬうゥゥ、忌々しいィ…」
「そして鑑定ではもうひとつ…、霊体に対して絶対的な攻撃力になるって…」
俺はたまたま収納せず手にしていたアストラル・スレイヤーを見て呟いた。
「じゃあカヨダはアイツに絶対負けないニャ!それを持って追いかければいつかは絶対に倒せるのニャ!」
ミニャがいけるよとばかりに弾んだ声で言った、しかしセルナゴに焦りのようなものは見られない。逆に人差し指を一本立ててチッチッチッと余裕を見せた。
「甘~い、あンむわァいよ…キミィィ!!我がその事を失念しているとでも?」
「ニャッ!…ハ、ハッタリだニャ、ハッタリに決まってるニャ!」
そうは言ったものの何やら得体の知れぬ不気味さにミニャの声に不安の色が滲む。
「ふふふふ、ではハッキリと目に見える形で見ィせてやァろうではぬァいかァ。あ、出ませい!!」
クンッ!!
セルナゴは人差し指と中指の二本の指を立てて上に突き上げた。すると次の瞬間、セルナゴを守るかのようにスケルトンが現れた。手には斧や剣を持っている。
「そのスケルトンで身を守るつもりか?」
「そゥの通りィ!スケルトンは霊体ではぬァい!人骨を元にしたモンスターだァ、いかにアストラル・スレイヤーといえども霊体以外には平凡な剣に過ぎぬゥゥ!」
「なら、ボクがスケルトンをみんなぶっ飛ばしてやるニャ!だからカヨダは…」
「その間に我を倒す…か、愚か者めぇ…。このスケルトンを散開させあらゆる方向から攻撃したらどうする、お若いレディ?」
「ニャに?」
「レディ、あなたが戦っている間に別の方向からお仲間をスケルトン達が襲ったらどうなるかね?」
「あ…」
「我は決して焦らぬ、じっくりあらゆる方向から攻め立てる。いくら君でも疲れはしないかね?あるいはそこの男の持つアストラル・スレイヤーから離れたら魔法を打ち消す効果は及ばぬ…、気をつけたまえよ、あまり剣から離れるような事があらば我が魔法で狙い撃ちとなるゥ!!」
「まずいのニャ!カヨダ、急いでここから逃げるニャ」
「そうはさせんのだァァ!ぬううありやあああああッ!!」
セルナゴがさらに甲高い声を上げ天にその手を突き上げた。
「ああっ!部屋を取り囲むようにスケルトンが!?」
「ふはははァ!これで逃げる事も出来ん、このまま袋叩きにさせてもらうぞ!」
「まずいニャ。ボクが一度に戦えるのはせいぜい数人、これじゃあ他の方向から襲ってきたらみんなを守り切れニャい」
ミニャが悔しそうに呟く。
「私、残る。そうすれば…」
襲われる事はないだろうと闇の精霊がセルナゴの方に歩き出そうとする、その手を俺は掴んだ。少女は驚きを浮かべた顔で俺を見つめた。
「駄目だ、そしたら君はまたあいつの操り人形のように良いように使われるだけだ。それに君が行ったところで奴は俺達を逃がす気はないだろう。魔術の実験台にする…奴はそう言ってたんだから…」
「でも…」
「一緒に来るんだろ?あの家でこれからメシ食ったり寝泊りしたり…、家族みたいにさ。ま、見た目的には妹みたいなもんだ。だけどな、妹を差し出して生き延びようなんてカッコ悪い事したくないんだよ」
「妹…」
だが…、そうは言ってみたもののどうするか?俺達の命綱となるのは間違いなくアストラル・スレイヤーだ。しかし、この剣は霊体には滅法強いがスケルトンなどの物質的な体を持つ敵には鈍に過ぎない。俺達の中で一番の身体能力を持つリーンに預けたとしてどこまで有効活用できるか…、ハッキリ言って不安しかない。
「カヨダ」
「ど、どうした?ロゼ?」
不意にロゼが俺の名を呼んだ。
「その家族に私は含まれる?」
「もちろんだ」
「なら…」
ロゼがキャタピラ式の車椅子に座ったまま俺達の前に進み出た。実はこの車椅子、万が一の際は俺やミニャが押さなくてもロゼの魔力を使って意のままに動かす事ができる。
「私に任せて欲しい。この包囲網を打ち破り、あの魔術師までの道のり…必ずや切り開いて見せる」
静かだけれど強い意志を秘めた声でロゼはそう呟いたのだった。
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