上 下
51 / 69
第4章 このアイテムがすごい!そしてロゼも凄い!

第50話 4章エピローグ 君の名はカグヤ

しおりを挟む

「うーん、凄い戦果だニャ」

 ダンジョンからの帰り道、ミニャがしみじみと呟いた。

 スケルトン達を使役しえきしていた古代の魔術師セルナゴを倒した俺達、部屋に散らばるスケルトン達の魔石は百を超えていた。

 さらには不死者アンデッドとなり物質的な肉体ではなく霊体となっていた魔術師セルナゴを倒し残った二つの物…、すなわち紫色の石と一振りの杖。その価値を鑑定してみたところ、とても価値がある物だという事が分かった。

◼️ 紫魔水晶むらさきますいしょう

 同じサイズの魔石と比較しておよそ千倍の魔力が蓄積された魔水晶。結晶化する際に闇属性に秀でる者の霊体アストラルボディの中で形成されたため、闇属性魔法に関する魔導具等に動力として用いるとその効果をはるかに引き上げる。

 MPマテリアルポイント換算…50000000MP

◼️ 死人しびと使いの杖

 死霊魔術師ネクロマンサーと呼ばれる者がよく使うと言われる杖。闇属性の魔法の効果が二割ほど増幅される。また、名前こそ死人使いの杖となっているが別にこの杖自体に死人を使うような効果があるわけではない。

 MPマテリアルポイント換算…350000MP

「なあ、ミニャ。闇属性の魔法ってどんなんか知ってるか?」

 俺は紫魔水晶と死人使いの杖の鑑定結果を見た事で闇属性とやらに興味が湧いたのでたずねてみた。 

「闇属性?ボクは魔法にあんまり詳しくニャいから…」

「ロゼはどうだ?」

「私も詳しくは…」

 うーん、それじゃあ効果を約二割ほど増幅するって効果があるみたいだけどベースになる闇属性魔法ってやつが使い勝手が良いのか悪いのかよく分からんなあ…。鑑定結果の文章テキストだけじゃ想像もつかない。

「私、分かるよ。…お兄ちゃん」

「お、お兄ちゃん?俺の事か?」

 闇の精霊の少女がいきなりそんな事を言った。

「違うの…?」

「どうしてそう思うんだ?」

「あの丸い所でロゼやミニャと暮らしているんでしょ?同じ家の中で暮らしているなら家族…あの場所に召喚されるまで自由に動けた時に見た事がある。そんな風に呼んでいる人間同士の姿を…」

 おそらくかつての記憶なんだろう、古代王国とやらがあった頃の…。

「ねえねえ、カヨダ」

 ちょいちょいと俺の腕を指先で突っつくようにしてミニャが声をかけてきた。

「なんだ?」
 
「この子はカヨダの持ってる剣から離れられニャいんだよね?」

「ああ、そう言ってたな」

「そしたらカヨダはこの子を追い払ったりはしニャいよね?だけど、おウチには入れてあげニャいの?」

「いや、最初から家には入れるつもりだが…」

「それニャらさ、家族で良いんじゃニャいのってボクは思う」

 ミニャは真剣な表情でこちらを見て言った。

「家族って…」

「ねえカヨダ、親子や兄弟みたいニャ血のつながりがあるのだけが家族ニャの?」

「え?」

「夫婦はどうニャの?血のつニャがってない違う所で生まれた二人が一緒にニャる!それにボクみたいな孤児みニャしごはどうニャの?バンズゥのジッチャンに育ててもらったのニャ、実際には血はつニャがってニャいけど大事な家族なのニャ!」

「ミニャ…」

 家族か…どうしたものかと考えていた時、闇の精霊の少女が再び口を開く。

「私も役に立つ。ミニャは相手と距離を詰めての接近戦インファイトに滅法強い。ロゼは不思議な…、弓とは違うけど射撃武器ミサイルウェポンを扱わせたら相当なもの。だけど…、見たところここに魔法の使い手はいない。弱点とまでは言わないけど魔法しか効かないようなモンスターもいる…」

「………」

「助け合う」

 沈黙している俺に少女は続けた。

「私は精霊。霊的実体アストラルボディを持つ者…、この体すなわち魔力の塊。魔法を扱う事、人が息をする事と変わらない」

「つまり、それくらい君にとっては魔法を使うのはたやすいって事だね?」

 俺がそう言うと彼女はコクリと頷いた。

「ふむ…」

 俺はアゴに手をやって考えた。

 異世界に連れてこられてから流れ流れて…実際に川を流された事もあったし死にそうな目にも遭った。ロゼと共に川に流されミニャと出会い商業の盛んな自治都市エスペラントにたどり着いた。

 その間には神業としか言いようのない射撃の腕前を持つロゼが鳥を射落としたり、武闘家であり冒険者としても過ごすミニャの力を借り川を下り旅を続けた。

 食料や身の安全を得られたのは彼女達のおかげ、対して俺は日本で生まれた平凡な男だ。高校を卒業し家業の万屋よろずやを手伝っていた。あの世界に感染爆発パンデミックを引き起こした新たな伝染病によって両親が他界してしまった。俺は二十歳にして店を継いだ、売り上げが細ってきていたのも自覚していたので客が減る土日などは何でも屋をやって稼いでいたって訳だ。

 俺はアイテムを創造つくる事は出来る、しかし肉体的な力自体は並である。何より戦闘などとは無縁な日本人、モンスターがいたりするこの世界の人々とは経験だったり心構えだったりがそもそも違う。戦いの場面ではロゼやミニャに頼ってきたのが正直なところだ。

 そんな中で仮に魔法しか効き目のない者と戦う羽目になったら…。

「俺としても願ってもない事だが…」

「私も依存はない」

 俺の呟きにロゼが応じる。

「一緒に来てくれ、家族として。…カグヤ」

「カグヤ?それはもしかして…この子の名前かニャ?」

「ああ、なんとなく…似合うかなと思ってな。どうだろう、家族になるんだし…一応歩きながら考えてきたのだが…」

 名前の由来は昔話のかぐや姫だ、あの最後には月に帰ってしまうお話の…。黒髪でなんというか神秘的な美しさもある。闇の精霊ではあるが彼女自身は暗黒という訳でもないし、そこで考えたのが日本でお馴染みの昔話だ。闇とは言うが暗闇って感じではない闇の精霊の少女、だから俺はそんな彼女を月の化身のように考えてそんな名前を口にしたのだった。

「…カグヤ」

 提案してみた名前を闇の精霊の少女が口にした。

「カグヤ…、私は…カグヤ」

「この名前で良いか?君がこの名前を捨てたいと思わない限りずっとこの名前で呼ぶ事になるが…」

 俺はそう言ったのだが少女はくすっと小さな微笑みを口元に浮かべた。それは少女には不似合いなほどのある種の妖艶さを伴っていた。

「これが良い…。ふふ…」

「き、気に入ってくれたか?」

 微笑えみを浮かべる彼女、少女らしからぬ引き込まれそうな雰囲気に俺は思わずたじろぎながらも応じる。

「ありがとう、カヨダお兄ちゃん」

 そう言うと彼女はすーっと浮遊したまま俺に近づくとしがみつくように抱きついてきた。彼女が抱きついている感触はある、しかしその重さみたいなのは感じられない。それがなんとも不思議である。

「お、おい…」

 戸惑いがちに声をかける。

「これから…、これからずぅ~っと一緒だよ…。お兄ちゃん」

 俺の背中ぬゾクゾクと何かが走る。

「怖くないよ…、一緒…。ずぅ~っと一緒にいるだけ…」

 身長差から俺の鳩尾みぞおちあたりに顔を埋めるカグヤ、その表情は見えない。

「ねえねえ、カヨダ。ボクも一緒にいて良い?」

 ミニャが声をかけてくる。

「も、もちろん!ミニャもロゼも一緒だ。助け合っていこう、家族だからな」

「ニャ!ボクもカヨダを、みんなも守るのニャ!」

「ん…、私も…もとより…」

 三者三様、種族も生まれた場所もバラバラだが彼女達も共に暮らす道を選んでくれたようだ。

 …俺も自分の身くらい守れるようにならないといけないかな、守られるだけじゃなくて…。

 思わずそんな事を考えた。助けてくれるのはありがたい、だがそれに甘えてばかりじゃいけない。俺が弱点になってしまう。

「自衛できるくらいには武装を固めてみるか…」

 俺はそんな決意をしたのだった。










しおりを挟む

処理中です...