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第5章 カグヤさんはお怒りです

第52話 カグヤさん、大地に立つ

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 エスペラントの街に戻った。

 ふわふわと浮遊してついてくるカグヤ、ここは異世界であり魔法もあるとは言え地に足を着けて歩くのが普通である。人目の多い街中では悪目立ちしないかと心配してカグヤに地に足着けて歩く事を提案しようと思ったのだが…。

「カヨダ、そのへんは大丈夫だと思うニャんよ。かなり珍しいけど背中に翼がある種族もいるし」

有翼種ゆうよくしゅ

 マジか?凄いな、さすが異世界。まるで天使みたいな種族じゃないか。ミニャとロゼの返答に俺はここが異世界である事を改めて実感する。

「私は歩いても良い」

 そう言うとカグヤは浮遊した状態からゆっくりと地面に降りた、そしてしきりに足元を見つめていたかと思うと今度はまっすぐに俺を見つめている。

「………」

 しばし沈黙したまま俺とカグヤが見つめ合う。

「よ、よく似合ってるぞ。そのミュール」

「お兄ちゃん…」

 俺がそう言うとカグヤはものすごく嬉しそうな顔をした。なんというか…、このやりとりはすでに五回目である。

 それというのもダンジョンで星幽の黒剣アストラル・スレイヤーの番人として召喚された闇の精霊カグヤは元々浮遊する能力がある。そうすると地に足を着かないんだがら靴とかなんらかの履き物を身につけていないのはまあ自然な訳で…、カグヤとしては人生初の履き物体験になったという事だ。

 カグヤに創造つくって渡したのはおしゃれなサンダル…もといミュール。黒色で足先を引っ掛ける部分があり、さらには足首のあたりで巻き付ける革紐が付いたもの。そしてヒールがやや高くなっている。

「よーし、カグヤ。早く街に行こうニャ」

 ミニャがそう声をかけて移動を再開しようとするがカグヤは動こうとしない。

「どうしたんだ?」

「歩くってどうすれば良いの…?」

「え…?」

 途方に暮れたようにカグヤが呟く。

「…何百年も浮遊していたけど歩くのは初めてなんじゃ…」

 ロゼが指摘する。

「カグヤ、ごめん。せっかく地面に降りてくれたのに悪いな…。と、とりあえずまた浮かぼうか…」

 俺はカグヤに謝りながらそう言った。

……………。

………。

…。

 再びカグヤはふわふわと浮遊し俺達と共に移動を再開した。街に詳しいミニャが先導、俺はロゼのキャタピラ式車椅子を押している。カグヤはといえばそんな俺の横で浮遊しながらついてくる。

 行き先は冒険者ギルドである。まずはミニャの活動拠点をここエスペラントに移す為に、合わせて新たに冒険者としてロゼを登録。そして可能ならばカグヤも登録する為である。

 そんなこんなで俺達は冒険者ギルドにたどり着いた。外はもうすぐ夕暮れだ、仕事帰りと言うのが正しいかは分からないが中は混雑のまっただ中。仕事を終えた冒険者達の一日の稼ぎを受け取る時間なんだろう。昨日初めてこの場所に来た時とは違う雰囲気が建物内に充満していた。

「ヒャッハーッ!!高値で売れたぜェ!」

 声がした方を見る。ギルドの奥の方、何やらカウンターの前で歓声を上げているモヒカン刈りの男がいる。カウンターの上に置かれた魔石だろうか、それがカウンター内に引き取られ代わりにジャラリと音をさせる袋が置かれた。きっと一山当てたのだろう。

「痛え!!テメー、何オレ様の足を踏んでやがる!!」

「なんだと、コラ!テメー列に割りこんできやがって!!」

 別の場所では列に並ぶ順番を巡ってだろうか、つかみ合いの喧嘩が始まっている。

 なんて言うか…良くも悪くも元気な場所だ。活気があるとでも言おうか、エネルギーが有り余っているような雰囲気だ。

「…行くぞ、引き上げだ」

「クソッ、ツイてねえ。ゴブリンの中に上位種ホブが混じってやがるなんてな。おおい、親父!酒だ酒だ、酒持って来い!」

 かと思えば負傷し肩を落として冒険者ギルドを後にするグループや不貞腐ふてくされてカウンターからギルド内に併設された酒場に直行する三人組の男達もいる、こちらは依頼に失敗したのだろうか。

「ボクらはこっちニャ」

 そう言うとミニャが人が並んでいない端っこのカウンターを指差した。ああ、ここのカウンターで昨日はミニャが活動拠点の変更を申し込んでいたっけ。もしかすると何らかの手続き専用の窓口なんだろうか、何にせよ混雑していないのは良い事だ。

 行列ごった返す戦場を迂回するようにして俺達は左側最奥、壁際のカウンターに向かった。ちなみに受付は女性ではない。なんとも貫禄のあるスキンヘッドのオッサンだ、もしかすると元々は冒険者だったのかも知れない。

 …多分だが一歩間違えば荒くれ者の集まりである冒険者ギルド、行儀良くルールを守りましょう…なんて綺麗事だけでは上手くいかない事も多いんだろう。言葉より力で言う事を聞かせる方が手っ取り早いんだろうな。

「手続きを頼みたいんニャけど。ボクと後ろにいる仲間ニャかま達と…」

 ミニャが早速カウンター内のオッサンに話しかけた。すると横合いから話に割り込んでくるヤツがいた。

「お、なんだあ!?新入りかあ?」

 見れば木製のジョッキを片手に一人の男がミニャに話しかけている。確か依頼に失敗したかのような雰囲気で酒場に直行していった三人組の一人じゃなかっただろうか。さらによく見ればその連れの二人もやってきていた。

「女だけで三人連れたあ不用心だぜぇ?だからよ俺達が一緒について行ってヤンよ。だから感謝して言う事聞けや、な?」

「そー、そー。悪いようにはしねえぜぇ」

「ああ、イイようにしてヤるからなあ」

 お決まりというか、こういうのはテンプレなんだろうか。下卑たニヤケづらをしながら男達が言った。それをしかめっ面をしながらミニャが手を振って追い払おうとする。

「シッシッ!!お呼びじゃないニャ。それにボク達は四人、三人じゃないニャ。ねー、カヨダ」

「ああ、そうだ。俺達は四人組だ。不用心でもなんでもない」

「ンな事、分かってンだよお!コラァ!!」

 じゃあ何で三人だって言ったんだ、コイツ?

「おい、テメーよぉ。皆まで言わせンなよォ、男はサッサとすっこんで女だけ置いてけって意味に決まってンだろうが!後の事は俺らがヤってやるからよォ!」

 凄みながら男が言った。

「なんだお前、女が欲しかったのか?」

 俺がそう言うと男は予想外の返答が来たのか一瞬キョトンとした顔になった。しかし数秒すると元の表情に戻り再び口を開いた。その間に俺はこの男を鑑定してみた、レベルは低い能力値パラメータも大した事はない。しかし素の能力だけならレベルが上がる事のない俺よりは確実に強い、番狂せってヤツが絶対に起こらないというほどに…。

「へ、へへっ!分かってンじゃねえか?だったら女を置いてとっとと…」

娼館しょうかん行けば?」

「なっ!?」

「女にそんなに飢えてんならここで管を巻いてなんかいないで娼館に行きゃあ良いじゃないか?そこでなら相手してくれんじゃないか?」

 実は娼婦というのはそこまで高い金を出さずとも女を買えるらしい。もっとも見目麗しいとかそういった高級娼婦ともなればその花代は天井知らずとなるが探せば安いのもいるようだ。

「テ、テンメェ~…」

「どうした?早く行けよ、飢えてんだろ?」

「クソがッ!小綺麗なカッコで金回りだけは良さそうなツラしやがって!こちとら依頼しくじって金がねーんだよ!だから女も買いに行けねえっつーのによ!」

 そう言うと男は中身さけの入ったジョッキを床に叩きつけると激昂したように叫んだ。

「だったらテメーから金も女も奪ってやンぜ!コラアッ!!」

 そう言うと男は拳を振り上げ殴りかかってきた。

 □ □ □ □ □ □

 襲いかかってきた冒険者、カヨダはどうなる?この危機を脱する事が出来るのか?

 次回をお楽しみに。
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