神殺しのなんでも屋〜身勝手な理由で異世界に巻き込まれ召喚された俺は神を殺して好き勝手する事にした〜

ミコガミヒデカズ

文字の大きさ
61 / 69
第5章 カグヤさんはお怒りです

第60話 獣人街に根を下ろす

しおりを挟む

 若い衆達も風呂から上がり乾いた服に着替えるとさっそくバンズゥ宅の中、リビングで夕食をとる事になった。

 昨夜は酒を飲んだ為か、パンは食べなかった。今日は鍋物にパンというなかなか変わった組み合わせだ。

 しかし…、これをパンというのか…俺は少々違和感を覚えていた。目の前にあるのは見た目的には少々くすんだ色の油揚げのようなものがある。少なくとも日本で売っているようなふっくらしたパンではない、もちろんそのまま口にするとザリっと干からびた油揚げを噛んだ時のような音と感触がする。それゆえにスープのようなものはパンを食べる時にはつきものだ。

 さらに言えば旅をする際の携帯用のパンは保存の為に水気を嫌い、さらには体積を減らす為に薄くさらには固く作られている。見た目としては薄焼き煎餅ぜんべいのようだ。もうここまでくると旅用のパンにはスープのような汁物は必須と言える。

 食卓に上っているのは街中で普通に食されている干からびた油揚げのようなパン、それを熱々の鍋物を器によそったものに浸けて食べる。

「おおっ!!こりゃあ…」

「初めて食う料理だが美味え」

「こんな味付けは初めてだ」

 バンズゥ達の反応も上々だ。

「ねえ、客人さん。これがあの茶色の…ネットリとしたやつの味なのかい?」

 バンズゥの嫁さん、名をキオンというのだがその彼女が尋ねてきた。彼女は怪我を治したとはいえまだほとんど動かない右手をかかえたマルンの面倒をみる為に隣の席に着いている。

「そうですよ、おかみさん。あれは味噌といってね。豆と塩と…あとは色々入れて出来上がるものだよ」

「ミソ…聞いた事がないモンだねえ…」

 そう言って彼女は首を傾げている。

「まあ良いじゃねえか、美味え!間違いねえ!そういや昨日のサモンの焼き物はチャンチャンヤキ…だったか?客人、こりゃあ一体なんて料理だい?」

 バンズゥがサモンの切り身をパクリとやりながら尋ねてきた。

「これは石狩鍋っていうんだ」

「イシカ…リナベ…?ふむう…、やっぱ聞いた事ねえなあ。お前達、知ってる奴はいるかい?」

 若い衆、そしてマルン少年も含めてグルリと見回してバンズゥは尋ねる。しかしそれに応じられる者はいなかった。まあ、当然だよね。日本の郷土料理だし、かくいう俺も実際に食べるのは初めて。見た事、聞いた事だけはある石狩鍋。その作り方を試したに過ぎないのだから…。

「分からニャいけど美味しいから良いのニャ!!」

 ミニャが元気な声を上げた。

「…くくっ!ふわはははっ!そうだ、そうだ!確かにそうだな。美味え、謎解きなんて要らねえな!くはあ~、だがこうも美味いと酒が欲しくなるぜぇ…」

 ミニャの声に笑って応じたバンズゥは物欲しそうな顔で嫁の顔を見た。しかしキオンはキッパリとした口調で言った。

「駄目だよ、お前さん!昨日も飲んだじゃないか!酒は三日に一度の約束だろう!」

「わァ~てるよィ、キオン。…ああ、親分だ、なんだと言われちゃいるが一番強えのは女房殿とくらァ…」

 豪快な亭主でも嫁に頭が上がらない、どうやらこれは異世界でも同じようでそんな光景に俺は思わず苦笑した。

「まあまあ、親分。酒は我慢するにしても量だけは作ったから…。今日のところは酒は諦めて…な?とりあえず腹いっぱい食べてくれ」

「ぐ…、むむむ!!」

 バンズゥは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「う、美味え…、美味えのによォ…。こんなに悔しい美味え食い物ってなあ初めてだぜェ…」

「何言ってんだいお前さん!美味しいモン食べられてんだからワガママお言いでないよ!」

 あははははっ。バンズゥとキオンのやりとりに食卓は笑いに包まれた。

「…そらァそうと、なァ…客人よォ?」

 バンズゥが頭を掻きながら話しかけてきた。

「お前さん、エスペラントに腰をえなさるんかい?」

「そう…出来たらな…って思ってる。商業ギルドに加入したし、俺はそもそも商人だから…。商売の盛んなこの街で稼ぎたいもんだね」

「ふうむ。それならよ…、ここはひとつここにいてみないかい?」

「ここに?」

 意外な申し出に俺はまるで鸚鵡返おうむがえしそのままに質問を口にした。

「ああ、商売ってなァいかに客が来てくれるかってもんだろう?人が来ないんじゃ商売上がったりだ。だが、人通りの多い良い場所はすでに大店おおだながデンと構えているモンだ。空いてる場所なんてそうはねえぜ」

「そりゃあそうだろうなあ…」

 一等地ってのはそれだけ人気があるもんだ。

「だけどよぅ、自分で言うのもナンだがここは…、俺ン所は仕事がらみで人はそれなりに出入りするぜぇ。まあここは獣人街、職人街だから品の良さからは少しばかし縁遠いけどな。だけど間違いねえ、元気だけはどこよりもあるぜ。ああ、もちろんケガを治してくれた恩人から金を取る気もねえ。遠慮なく商売をやってくれ」

「じっちゃんの言う通りニャ!それが良いニャよ、カヨダ!お店をするにもお金は結構かかるって聞くニャ、場所を借りたりとかでね。そうしニャよ~、カヨダ」

 ミニャも賛同の言葉を送ってくる。

「願ってもない話だ」 

 俺が思った事、それがまず口をついて出た。

 バンズゥはこの街にいる猫獣人族の顔役…まあいわゆる親分みたいな存在だ。その家の庭とはいえ間借りし商売をするなら変な奴や良からぬ考えを持って来る奴も少ないだろう。街のメインストリートじゃないにしても人の出入りが多いなら買っていってくれる人も多いだろう。

「親分さん、こちらからも是非お願いしたい。ここで店をやらせてくれ」

 俺がそう言うとバンズゥはそう来なくちゃとばかりにニッと笑った。

「ようし!決まりだ!!いやあ、めでてえ!そうと決まればキオン、酒だ酒だ!めでてえ時に酒は付き物だ!」

「こらっ!何言ってんだい!ドサクサに紛れて酒をねだってんじゃないよ!」

 キオンがバンズゥを軽くポカリとやった、それを見て周りから笑いが生まれる。こうして俺のエスペラントでの商人としての活動が始まった。

 □ □ □ □ □ □ □

 次回、今章のエピローグ&ハイパーざまあ回を予定しています。

 第61話、

 『カグヤさんはお怒りです』

 お楽しみに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...