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第5章 佐久間修、ここにあり!
第69話 う、生まれるゥッ!!
しおりを挟むバレーボール部のみなさんによる鉄壁のマスコミ対策『方円の高い壁』、完全にシャットアウトされた報道陣は怒りや不満の声を上げ現場は混沌としていたが今は警察による取り締まりを受けている様子が護衛をしてくれている美晴さん達と通信する度に耳に入ってくる。
「わ、私達には報道の自由がありそれを警察は邪魔するのかっ!」
「全国民の関心事、佐久間君の映像をですねぇ…」
記者か関係者かは分からないか身勝手な言い分が並べられる。
「うっせーわッ!それならまずは法律守れ、ほーりつをよォッ!!」
「そうですわッ!それと報道の自由より優先されるべきはプライバシーの保護ッ、修さんの許可もなく撮ろうなんて盗撮以外のなにもの以外でもありませんわッ!!」
おお、美晴さんと尚子さんが頼もしい!
「美晴さん、尚子さん、河越八幡署のみなさん!ありがとうございます!」
イヤホンから伝わる捕物劇に活躍している警察署のみなさんに僕はお礼を言った。
「へへっ、まあな。それにこういう時に言ってみたかったセリフがいよいよ言えそうだぜ!スーッ、コホン…。あ、あー、シュウ…ここは…」
「ここは私達に任せて先に行け!!…ですわ」
「オレ…あっ!尚子、テメー!?オレが喉の調子を整えてる間にッ…」
「「お前ら仕事しろーッ!!」」
大信田さん、多賀山さんの怒声が響く…何も言うまい、何も…。かくして学校を出た僕達だけど唐突にその出来事は起こったのだった。
□
それは河越八幡女子高校の正門を出てからおよそ数百メートル、いきなり起こった。僕の右横を歩いていたバレーボール部の粟原恵さんが何かに躓きバランスを崩したのだ。
「あっ!?」
運動神経の良い彼女がそうなったのも無理はないかも知れない。なにしろ今は密集している、どこかの知事なら『密です、密ですッ密です!!』とか言ってる事だろう。だから多分足元がよく見えなかったのかな、僕の隣を歩く粟原恵さんが転びかかったのだ。他の女子生徒達は円陣の外側に注意を向けているようで粟原さんがバランスを崩した事に気づいているのはどうやら僕ひとりみたい、そう思ったら自然と体が動いていた。
「危ないーッ!!」
まるでスローモーション、よバランスを崩して倒れていく粟原さんを僕はなんとか両腕で受け止める事が出来た。だけどそれはお姫様抱っこのようなカッコ良いものではなく、彼女を支えようとして手を伸ばしたものの転ぶ勢いと僕より大きい体格を支えられず僕も巻き込まれるような形になったのだが…。
倒れかかった粟原さんを地面に打ちつけさせちゃいけないと必死になったけど、残念ながら体格に勝る粟原さんを支える事が出来ず立った姿勢から踏ん張りきれなかった。歩いていた体勢から直接正座に移行するような形で仰向けに倒れゆく彼女をどうにか受け止めた。
着地する際に二人分の体重がかかった僕の膝を粗めに舗装された歩道のアスファルトが受け止める。ごつっと鈍い音がした。
ああ、コレ絶対に膝を擦りむいているな…。膝小僧に擦り傷作るなんて小学校低学年以来かなあ…、そんな事が頭を過ぎる。…あっ、そんな事を考えてる場合じゃない!粟原さんは…?
「あ、粟原さんッ、大丈夫ッ?」
受け止められたから頭は打たずにすんでいるはずた、無事だと良いんだけど…。
ざわざわ…。
辺りがざわついている。
「お、お姫様…抱っこ…だと…?」
「ば、馬鹿なッ!そんなもの旧時代(男性消失現象以前の事)の都市伝説に過ぎないはずだ!!」
「ひゃっ、187センチの巨大女を受け止め…いや、メグが押しつぶしているの間違いじゃないのか!?」
転びかけた粟原さんと受け止めた僕を囲む女子達の視線が集まっている。
「そっ、そんな事よりッ!!」
一人の女子生徒が声を上げた、たしか…キャプテンと呼ばれていた人だ。そんな事より…、そうだよ!今は粟原さんの心配をしないと!怪我とかしてないと良いんだけど…、まずは彼女に痛めた所はないかと聞かないと…。
「粟原さん、大丈夫?怪我したりとかしてない…?」
「「「「お、女を助ける男の子がいるなんてッ!!」」」」
「…え?」
気になるのって…そこ?
「う…、ううっ…」
「粟原さん!?」
受け止めた粟原さんがうわごとのようなつぶやきを洩らす。こうなるとさすがに注目は粟原さんに移る。
「お、おい!粟原ッ、しっかりしろ!」
「そーだよ!メグ、目を開けて!」
バレーボール部の面々が声をかける。
「わ、わ…たし…」
「どうした、メグ!しっかりしろ!この後、寮に帰ったら今日の事を日記に書くって言ってたじゃないかっ!!」
キャプテンと言われていた人が叱咤激励するように粟原さんに呼びかける?
「に…、日記…?」
意味のある単語が粟原さんの口から発せられたのを聞いて僕も呼びかける事にした。単語が出るって事は脳が動いているって事だもんね。会話ができるはずだ。
「そ、そうですよ!粟原さん、言ってたじゃないですか。日記に書くって…、さっきの事を覚えてます?」
呼びかけると粟原さんの目にだんだんと意思の光が強まっていくような気がした、きっと転ぶ前後の事を思い出しつつあるのだろう。その粟原さんが再び口を開いた。
「う…。さ、さ…くま…くん…。佐久間君の隣を…歩いてたら…、足元が…よく…見えなくて…つまずいて…。それを…佐久間君が…。さっ、佐久間君が…助けてようと…して…私を…。わ、私をッ、両腕でッ…ううっ!!」
粟原さんは無事に思い出しつつあるようだ。
「そ…、そしたら…だ…抱きしめられて…今も…こうして…」
「い、いや、その…抱っこはしてますが抱き『しめて』はいない…かな…」
うん、救助の為に腕は伸ばしたのは間違いないけど…そう思って僕は訂正したのだがご本人はそれどころじゃないようで…。
「そ、そんな…ふうに…されたら…わ、わたし…わたしっ!!うっ、ううっ!?」
なにやら様子がおかしい、ものすごく鬼気迫るといった感じだ。
「粟原さんっ!?」
大丈夫だろうか、思わず声をかけると粟原さんは再び口を開いた。
「う…、うま…」
「うま?」
うま…かあ。馬の女の子とか今の世の中も人気なんだろうか?
「生まれるぅ~!!」
そう叫ぶと粟原さんは幸せそうな顔をして瞳を閉じる。そして同時にその手から抜けて『ぱた…』と地面に落ちた。
一方で周りの女子生徒達は大騒ぎだ。
「お、おい。なんだよ…。生まれるって…。まさかメグの奴…、デキてたのか?」
「「「「ええっ!!?」」」」
周囲の生徒達から驚きの叫びが上がる。
「い、いや、それはないよ!メグは今まで男の人に会った事ないって言ってたし…」
「人工受精もまだだよな?」
「うん。ウチの高校、新生児保育施設無いしそれは無いっしょ!」
「だいたいメグはまだ16になってないし!」
蜂の巣を突いたような騒ぎとはこの事か、女子が複数集まり話題が生まれるとたちまちこのような事になるのは今も昔も変わらない事のようだ。
「…と、すると?」
一人の女子生徒がこちらを見た、クラスメイトの多治見さんだ。
「メグ…、もしかして今日の…どこかのタイミングで…さ、佐久間君と…」
「んんっ!?僕?」
えっ?なんでいきなり僕の名前が出てくる?しかし、戸惑う僕を他所に一人の女子生徒が呟いた。
「メグ…、階段登ってたんだ…。大人の…」
「ああっ!だから赤ちゃんが…」
「いつの間に…メグ、恐ろしい子…」
「いきなり今日の今日で…。やるなあ、メグ…さすが速攻が得意なだけある…」
ざわざわとバレーボール部の面々が色々な事を言っている。
「って事は、お腹の子のパパは佐久間君かあ…」
「ええっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出た、だけどおかしい。そうはならない。
「い、いやいやいやっ!それは、ないですよ!」
僕は否定の声を上げる。
「粟原さんと会ったのは今日が初めてですよ。だ、だから赤ちゃんが生まれるなんて事は…」
「あっ、ホントだー。別に赤ちゃんが出てきたりはしてないよー」
見れば一人の女子生徒が粟原さんのスカートをめくって顔を中に突っ込んでいる。えっ?女子生徒同士だとそんなやりとりしちゃうの?
「そ、そーだよねー!だいたい、メグはずっとアタシ達と一緒だったじゃん!」
「た、たしかに!そんな『うらやまけしからん』事なんかさせないっ!」
「だ、誰だよー。パパは佐久間君とか言ったのは?まったく、処女妄想乙!」
「しょっ、しょしょしょしょッ、処女ちゃうしッ!!」
わーわー!ぎゃーぎゃー!バレーボール部、大騒ぎ。
「あー、もーっ!!お前ら静かに!いつまでもこーしちゃいられない。メグを起こすぞ!保険委員、保険委員の原野はいるか!?バレーボール部のマネージャーもやってる…嵐を呼ぶ女…、出てこいや!」
ついに半ばキレてしまったのか業を煮やして…といった感じでバレーボール部のキャプテンが粟原さんを介抱する為に一人の女子生徒を呼ぶ。だけど嵐を呼ぶ…って何?そんなあやしい枕詞が形容としてつくっていったいどんな人なんだろうか?
□ ◼️ □ ◼️ □ ◼️ □ ◼️ □
次回予告。
倒れた粟原さん。
原因は…知識不足?
そんな時、バレー部の女子生徒が色々教えてやるという話になり…。
その時、修は女子というものの触れちゃいけない何かにニアミスする。
次回、第70話
『秘密だから秘密なんです』
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