シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜

ミコガミヒデカズ

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第5章 佐久間修、ここにあり!

第70話 秘密だから秘密なんです

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保険委員メディック保険委員メディック保険委員メディック、みんながあわててるぅ~♪オラはすごいぞ、保険委員メディックなんだぞ!おっおおおぅっ♪」

 どこかで聞いた事があるような、春日部の方で有名な幼稚園児が口ずさんでそうな歌だ。やたらマイペースな…そんな感じの人がやってきた。ちなみに背は高くない、小柄である。

「おう、原野か。ちょっとメグをてやってくれ」

 バレーボール部のキャプテンがそう声をかけその場所を譲った。具体的には粟原さんの左側から僕が正座した状態で抱き抱えており、やってきた保険委員メディックまたはマネージャーとも呼ばれていた原野さんが反対側の…粟原さんの右側にやってくると彼女もまた膝をつき姿勢を引くした。すると当然僕と彼女の頭の高さも同じくらいになる。

 原野さんは先程からなんとも緊張感のないマイペースな雰囲気であったが粟原さんを抱えている僕に視線を移すとその表情をさらに崩す、具体的には『にへら~』という効果音が似合いそうな口元がゆるみっぱなしの笑顔である。

「おおう!?なんたるイケメン~。オラ、原野穂亥美はらのほいみ~。ねえねえ、おにぃさんおにぃさん…長ネギ食べれるぅ~?」

 ぽかり!

 バレーボール部のキャプテンが原野さんの脳天に拳を落とした。

「ギャプッ!!」

「はぁ~らぁ~のぉ~ッ!!メグを看てやれって言ったよなぁ~!?」

 落とした拳をそのままグリグリと原野さんの頭にやりながら低い声を出すキャプテン、うーん…怒ってらっしゃる。

「お…おおう…。三早江みさえキャプテン…」

「ふざけてないで早くメグを看てやれ」

「オ、オラ、マジメに見てたのにぃ…。このイケメン君を…」

「あ゛?」

「みっ、看ますっ!オラ、マジメにメグちゃんを看るんだゾッ!」

 そう言うと原野さんは粟原さんの脈を取り始めた。それにしても…野原穂亥美のはらほいみさんか…、なんだろう名字もそうだが名前も…ツッコミたくなると言うか何と言うか…。だが、そんな僕の心中とはうらはらに粟原さんを看る様子は意外とまともだ。手慣れていると言っても良い。

「う~ん、大丈夫そうなんだゾ。それと、さっきまでのメグちゃんのしていた会話やりとりと関連付けて考えるとこれは…」

「「「「これは…?」」」」

 自然と周囲の声がユニゾンした、ちなみに僕もその一人。そんな中、原野さんは間違いない結論を導き出したと言わんばかりに胸を張った。ちなみにその胸は平たい。

「これはきっと…、想像妊娠だゾ!!(キリッ)」

「「「「はぁ!?」」」」

 またもや綺麗にユニゾンする周囲の声、ちなみに僕も…(以下略)。

「とりあえず大丈夫ダイジョブそうだからオラ、メグちゃんを起こしちゃうゾ」

 そう言うと原野さんは膝枕状態の粟原さんの上半身を起こさせ自らの片膝を彼女の背中の中心…丁度鳩尾の裏側あたりだろうか…そこにあてがう。さらに粟原さんの両手首を背後から手に取ると後ろにぐいっと引いた。いわゆる活を入れると言うやつか、なかなかに大胆な行動だった。

「うっ…、こ、ここは…?」

 すると気絶していた粟原さんが目を覚ました。凄いな原野さん、どうやら腕は確かなようだ。

「気がついたか?粟原《あわはら》」
「「「「メグぅ~っ!!」」」

 バレーボール部のキャプテン…三早江さんだったっけ、その彼女と周囲の女子達が意識を取り戻した粟原さんに声をかける。

「知らない青空だ…」

 粟原さんが呟く。

「「「いや、青空は知ってるっしょ」」」

 呟く粟原さんに皆のツッコミが入る、そして質問タイムが始まる。

「つーかさ、メグ。妊娠してたの?」
「パパはやっぱ…佐久間君なん?」
「い、いつ…やっちゃったの?」
「ば、場所は…?」
「ど、どんな風に(ごくり)…?」

 次々と女子生徒達が質問していく、だが粟原さんはキョトンとした表情を浮かべながら口を開いた。

「え…えっと…妊娠、今さっき…?」

「「「「はぁ?」」」」

 周りの女子生徒達は何言ってんだと言わんばかりの雰囲気、粟原さんはきょろきょろと周りを見回した。僕と視線が合った。

「こ、ここで…」

 粟原さんは頬を赤らめながら呟いた。

……………。

………。

…。

 話を要約するとこうだ。

 牛丼屋さんに向けて出発をした僕達は学校の正門を出て敷地沿いの歩道を歩いていた。僕を守るようにして女子生徒達が周囲を囲んで歩いていた訳だが粟原さんの手の甲と僕の手の甲がわずかに触れたらしい。

 その瞬間に粟原さんは大興奮しパニック、そして同時につまずいてバランスを崩してしまう。僕は気づかない程のかすかな接触だったんだけどそれが彼女の幸福感を一気に上昇させた。さらにはその倒れそうになった彼女をお姫様抱っこをするようにガッチリと抱き止めたもんだから幸福感は限界突破!!そして同時にこう思ったらしい。

「男の子に触れた!!妊娠しちゃう!」

 顔を真っ赤にして粟原さんは大真面目な様子で語った。その様子に一切ふざけている様子はない。

「あ、あのさ…、メグ。小学校六年生しょうろくの時にやんなかった?三学期にさ研修…、『おとなになるみなさんへ』だったっけ?そーいうの」

 女子生徒の一人が尋ねた。

「やってない…。私、六年の三学期って盲腸もうちょうが悪化して腹膜炎になって…。一か月くらい入院してた」

「「「あー、そん時だよ~研修。多分」」」

 女子生徒達が納得の表情を見せた。

「その研修で勉強するんだよ、一応さ」

「な、何を…?」

「赤ちゃんの作り方」

「えっ!?つ、作り方ッ?」

 慌てたように粟原さんがガバッと立ち上がる。

「あの様子だと…知らなそうだね」
「うん」

 事情を聞くとどうやら河越八幡女子高校はバレーボール強豪校らしく全国でも名の知れた存在らしい。そう言えば校舎の屋上からは『おめでとう!バレーボール部!8年連続全国大会出場』って垂れ幕がかかっていたっけ…。

 小さな頃から背が高く、バレーボールに並々ならぬ才能を示した粟原さんは周囲の勧めもありウチの学校を志望するようになったらしい。

 身長も今では187センチとなり、日本有数のスパイカーとして活躍している彼女はバレーボールに全てをかけて打ち込んできた。しかし逆に言えばバレーボール以外の事を捨てて取り組んできたとも言える。

 その為、学校の授業など触れたものは記憶にあるがそれ以外にはあまり触れようとはしない。それが小学校六年生の時に学ぶ男女の性差ちがいや生殖の事などを取り上げた研修も自身の入院中に終わってしまった事からあえて自分から学びにいこうとはしなかったらしい。バレーボールに全て打ち込んできた彼女はわざわざ時間を割いてまでバレーボール以外の…、その研修を受けようとは考えずに今日こんにちまで過ごしてきたのだそうだ。

 しかしそんな彼女の人生に僕という男子クラスメイトという存在が現れ、今までバレーボールひとすじに生きてきた彼女にとって部活以外に意識する存在が出てきたのだと言う。

 彼女の認識では夫婦間には自然と子供が生まれる、そのくらいの認識であったらしい。例えて言えば夫婦とか男女がすぐ隣にいればコウノトリが赤ちゃんを運んでくる…ぐらいの感覚で。つまり、彼女にはそういった事の知識が皆無だったのだ。

「メグ、とりあえず今夜はモコの部屋に集合。みんなの秘蔵物コレクションで勉強するトコから始めよーか」

 バレーボール部の生徒が粟原さんに提案をしている。

「えっ?勉強?」

 粟原さんは困惑している。
 
「うんうん!世界、変わるぜ?」

「でも、ちっと過激なんじゃね?エグいのあるし」

「「「それなー!」」」

 モコ…は確か太林素子さんのアダ名だったっけ?バレーボール部の生徒達が妙に張り切って粟原さんに声掛けをしている。

「エグいのって…何?」

 僕は会話の中に出てきた気になる単語に思わず呟いてしまった。それを聞いて周りの女子生徒達は焦り始める。

「ああ、ダメダメ!佐久間君には」

価値観せかいが変わっちゃうかも知れないから!」

「あ、そ、そう…価値観…変わっちゃうんだ…」

「「「「うんっ、だから秘密!秘密だから秘密なんですー!」」」」

 秘密なものは秘密、ごもっとも。…って言うか、価値観が変わる程のコレクションてなんなんだ!?そんな僕の思いをよそにバレーボール部の生徒達は盛り上がっている。

「あの~、オラ…そろそろイケメン君とお話し…」

 しても良い?と原野さんが遠慮がちに口を開いた。しかし、それを上回る大きな声でパンパンと手を叩きながらキャプテンの三早江さんが号令をかける。

「お前ら、配置に戻れー!移動再開だ!背の高い奴から佐久間君の周囲につけー!…あれ?原野、お前は背が高くないから外側だ、そ~と~が~わッ!」

 そう言うと三早江さんはヒョイと原野さんを引っ張ると円陣の外側に連れて行ってしまった。

「ええ~、オラまだ自己紹介もしてな…」

 不満を訴える原野さんの声が小さくなっていった。


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