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第5章 佐久間修、ここにあり!

第68話 バレー部、大地に立つ

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 一年A組のクラスメイト大林さんに多治見さん、そして粟原さんのバレーボール部所属の三人による『僕のかつてのバイト先へ行ってみよう』という提案…。

 行くか行かないか、少し考えた僕は行ってみる事にした。懐かしさみたいなものもあった、それと同時にクラスメイトからのせっかくのお誘いだ。四月の入学式の日からこの学校に通い始めた訳じゃない、今日から通い始めた僕はいわば新参者しんざんものだ。A組に早く馴染む為にもクラスのみんなと接点を増やした方が良いだろう…そう思ったからなんだけど…。

 いざ、学校を出て徒歩圏内のかつてのバイト先に向かおうとした…それだけだった。それがフタを開けてみると…。

「どうしてこうなった?」

 ずらり…。

 ほぼ全校生徒が僕に同行している。その数、|一千人(せんにん)超である。なにこの大軍団、大名行列か?

 いや、大名行列だってこんなにはいないだろう。そしてすぐ近くではひとつの熱い戦いが行われていた…。

「「「「あいこでしょっ!!あいこでしょっ!!」」」」

 マスコミのカメラに僕を映させないと人間の壁を作る…そう意気込んだバレーボール部のみなさんによる白熱したジャンケンが繰り返されている。彼女達の主張によれば自分達の身長の高さを利して僕を中心に円陣を組み撮影を阻むのだという。そしてなぜここまで白熱しているかというと…。

「やったー!!私、左側ッ!」

 同じクラスの粟原さんが大きな声を上げながらガッツポーズをする。どうやら彼女が最後まで勝ち残ったようだ。そしてさらに右、前、後ろと固めていきさらに他のバレーボール部の人達がグルリと囲む。

 そんな僕をバレーボール部のみんなが囲む集団を先頭にほとんど全校生徒の大行列が昇降口を出てまずは学校の敷地から出る為に校門に向かう。なにやら周りはテンション高く、端的に言えばはしゃいでいる。そして僕達、生徒のものではない声も混じり始めた。もっとも、僕の周りは上背の高い女子生徒達に囲まれどうなってるのかは分からない。そしてよく通る会話するにしては大き過ぎる女性の声が僕に向けられる。

「あっ!出てきました、出て来ました!こちら河越八幡女子高校正門前、現場の庄司です!現在、未確認ですが河越八幡女子高校の新一年生『佐久間修』さんが外出するという情報を掴んだ我々は…」

「佐久間さーん、こちらテレビ夕日ゆうひです!お出かけですか、佐久間さーん?」

 いざ、学校の正門を出ようとするとたくさんのマスコミ関係者がカメラを向けているらしい。どこからか僕の外出する予定を嗅ぎつけた取材陣が待ち構えているようだ。

 かつて…十五年前の当時、牛丼屋さんでアルバイトをしていた事を話したらそのお店は今も続いている事を聞いたのをきっかけでちょっと見てみたいかもと言ったのがきっかけで放課後の外出となった。

「じゃ…、い…行こッ?い、今すぐすぐイこッ!?」

 一人の女子生徒が興奮した様子で出発しようと言ってきた。粟原あわはらさんだ。

 (はぁはぁと 呼吸を乱す 女子生徒)

 佐久間修、心の俳句…。

 彼女を見た僕は思わず心の中で一句んでしまった。それほどまでに…、今までに女の子との関わりがあまりなかった僕が冷静に様子を見ていられる事なんて無さそうなものだが相手側がここまで浮き足立っていると逆にこちらは落ち着いていられるもんだなと変なところで感心してしまった。

「えっ!?どうやら全校生徒で外出する模様です!」

「えー、ただいま佐久間修さんがいると思われる生徒達の一団が…」

 学校から歩いて数分、県道沿いの牛丼屋さんを少し見てくる程度の外出に生徒全員が同行したいだなんて…。たしかウチの学校は生徒数が880人くらいだっけ?そのほとんどの人がこの行列に加わり目的地を目指している。

「くそっ、男子の姿を映せない!生徒どもっ、邪魔だ!」

取材車バンをまわせッ!屋根に上がって上からッ、顔だけでも…せめて髪だけでも良いから映せッ!」

 マスコミ関係者達の大きな声が響く。

「やはりマスコミが多いッ!?」

 バレーボール部の誰かが周りの様子を見て上げた声に周りの生徒達に緊張感が走る。

 キキィーーッ!!!

「クルマが来たッ!飛び乗れッ、上から撮るんだッ!」

「させないッ!!第二隊列っ、密集ッ!」

 車の急ブレーキの音とマスコミ関係者らしき声、そしてそれに対抗しようとする女子生徒の声。

「分かった、キャプテンッ!」

「だいにっ!」

 バレーボール部の皆さんが呼吸を合わせてただちに隊列を変化させる。同じクラスの大林さんや粟原あわはらさんらをはじめとした女子バレーボール部所属から選抜された特に高身長の子が僕の周りにつく。丁度、僕を中心に密集した円陣を組む感じになる。

「見よッ!これぞ河越八幡女子高校はちじょバレー部に代々伝わる男子絶対防御陣形、方円ほうえんの高い壁ッ!!」

「あっ、上から狙っても姿がっ!!?」

「クソデカ女どもっ、どけッ!邪魔だ!」

 周囲から怒声が飛ぶ。

「長かった…。いつか来る…、いつか来ると信じていた男子との出会い…。その貴重な我々との時間の邪魔を、何より嫌がってるのに撮影しようとするのならッ!!」

「アタシ達は佐久間君を守る不壊の盾ッ!これぞ排球流はいきゅうりゅう守備陣よ!」

 カメラを構えるマスコミ関係者から戸惑う声や怒声が発せられ、それに対抗しようとする女子生徒達の声があたりに響く。僕の姿が映せない…か、それもそのはずだよね。僕よりもはるかに背の高い女子生徒達がより近くに集まってるんだから…。

 僕の周りに出来た女子生徒達の壁、壁、壁。視界がふさがり今の僕の周りには右も左も背の高い女の子達の背中しか見えない。当然マスコミのテレビカメラからも僕の姿がとらえられなくなる訳で…。 

「え、映像撮影れないッ!」

「こ、こっちも…」

「佐久間君の姿が女子生徒達に完璧にブロックされて…」

 カメラクルーらしき人達の声が次々と上がる。

「へへ~ん、完璧にブロックされてるって~?」

「ウチらバレー部なんだからさ~」

「ブロックなんて上手いに決まってんじゃん!ボールだって、カメラからだってさぁ!」

「さあ、このまま行くよっ」

「「うんっ」」

 背の高い女の子達が密集しながらも中心に絶妙な位置関係を保つ事で周りからの視線をブロックする事に成功。当然、テレビカメラが僕を写す事が出来なくなる。

「くっ、これじゃ夕方のニュースに映像《え》を流せない!」

 撮影隊から悲鳴が上がった。

「ふふふ、大成功~!」

「良い気味!」

 反対に僕の周囲のバレー部の生徒達はテンション爆上がり真っ最中。しかもそれはだんだんと熱を帯び、拍車をかけていく。

「ってーか、ウチらヤバくね?」

「うん、ヤバいッ!」

「お、男の子と…、佐久間君と街を歩いてるよ~」

「バレー部やってて良かった…。いや、身長高くて良かった…」

 周りの女子達の声に力がこもり始める。

「うん、背が高いせいで小さい時から服とかサイズ大きくなっちゃって可愛いのあんま無かったし…」

「身長伸びると足もデカくなるからアダ名が『ビッグフット』って言われたりするし…」

「アタシ、『ゴリ子』…」

「劇だと男役しかねーし…」

「まだ良いじゃん!私、背が高い木の役だよ!木以外が来たかと思ったら今度は竹だったし。うっうっうっ…」

 嗚咽を洩らす子まで現れた。

「「「「そんなウチらがッ!!」」」」

 グワっ!!バレー部の生徒達が拳を握りしめて感動していた。

「ア、アタシ…、寮に帰ったら今日の事…日記に書くんだ…」

「それなんてフラグ?」

「「「あはははは~」」」

 周りの女子生徒達からそんな明るい声も聞こえた。最初は聞いてるこちらも悲しくなってくる『高身長女子あるある』だったけど…。

「それにしても…良かったのかな?テレビ局の人…。後でバレーボール部のみんなが悪く報道されなきゃ良いんだけど…」

 僕は不安を口にすると耳につけているイヤホンに大信田さんや多賀山さんからの通信が入った。

「良いんだよ、ああいうのは」

「プリティ、あれは君をと盗撮しているだけだ。それで金を得て飯を食っていくやからなどお前が気にしてやる必要も無い」

 二人は事もなげに吐いててる。その二人以外にも色々な物音が聞こえる、なにやら現場が騒がしい。

「そうだぜ、コイツら反対車線にクルマ横付けしてシュウを撮ろうとしたからな。ただいま絶賛一斉取り締まり中だ」

「一社がクルマを横付けしたら他の報道局も負けてられないと言わんばかりにやり始めたんですわ!この機会に過熱しすぎな報道側にお灸を据えてやる為にも徹底的にやれと県警上層部うえからも指示が出てますわ!」

「そーいう事だぜ、シュウ!」

「美晴さん、尚子さん…」

「ああっ!?護衛につく皆さんが現場にいたのでは佐久間様の身辺が手薄に…。誰か行かなければ…、私が…」

 棒読みな説明口調、これは久能さんかな。

「待て久能!ガラ空きにする訳ねーだろ。浦安やっさん達がついてる。だからお前は現場だ、げー、んー、ばっ!!」

 喧騒と大信田さんの声がイヤホンから聞こえてくる。河越八幡女子高校はちじょから出発したばかりだけどあっちでもこっちでも異常な盛り上がりを見せる放課後のひとコマだった。



  ◼️  □  ◼️  □  ◼️  □  ◼️  □


 次回予告。

 『う、生まれるゥッ!!』

 お楽しみに。

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