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「よいしょ、っと……。おいジェイド、なんでまた急に依頼量が増えるんだ。しかも今までにないラインナップで……おい、聞いてるか?」
蒸留機がごぽごぽと音をたて、別で火にかけているフラスコがごぽごぽと音をたて、自分の耳周りは水が沸き立つ音でいっぱいだった。いつも材料採取依頼をしている冒険者がカウンターを覗き込んでくるまで、彼が帰還しかつ話しかけてきているという事実に気がつかなかった。
「あ、なに?」
「何じゃなくてよ。それ、治療薬じゃないのか? まるで魔女が依頼してくる素材ばっかり頼んできやがって」
冒険者は言いながら、カウンターの上に置いた木箱を指差す。立ち上がって箱の中を確認してみれば、見るだけで鼻で笑ってしまいそうになるだけの悍ましい材料が多く入っていた。数多くの黒い何か、数多くの白い何か。
「何がどうしたらこうなるんだ」
「あ⁉︎ お前が言ったんだろ、黒ヤモリが欲しいって」
そう言って冒険者は干からびて乾燥してしまったヤモリの尻尾を摘んで取り出す。それを俺に向かって突きつけてくるので、やめろとその手を叩いた。
「黒ヤモリじゃなくてクロマイトな」
「ん⁉︎」
「これはなにさ」
箱の中にあった白いキノコを取り出して冒険者に見せると、若干の冷や汗を掻きながら呟いた。
「……マジックマッシュルーム……?」
「ふッ……俺が言ったのはマジックシーム」
俺の言葉を聞くか否や、冒険者は頭を抱えてしゃがみ込んだ。謎のうめき声を上げながら。
「あぁああ、おかしいとは思ったんだ! なんでお前が呪術の類を研究しているのかって! くっそ、もしかしたら必要なのかもなんて考えなければよかった、聞くべきだった‼︎」
「ほうれんそうは大事だぞ~。あ、でもこの箱の中身全部魔女に貢いだらマジックシーム譲ってもらえるかもな。追加報酬払うから請け負ってくれないか? 魔女に取引材料が足りないって言われたら俺から払うように伝えてくれよ」
マジックシームとは、文字通り『魔法を繋ぎ留めておくための縫い糸』の様なものだ。裁縫で使うような細い糸というわけではないが、その紐で魔具を縛り付けておけば、その魔法が解放されることはないという、強力魔具の暴発防止剤、と言ったところだろうか。
頭を抱えたままだった冒険者は大きいため息をつきながら立ち上がる。そして重い足取りで荷箱を抱えた。
「はぁ、任務失敗の様なので追加報酬はいらんです……。魔女にも怒られたら俺から払っておきます……」
また重いため息を一つ吐き、とぼとぼと扉へ向かっていく。なんだか悪いことをした気分になるな。
「……あぁ、待て待て。じゃあおまけにこれつけといてくれ」
言って、その荷箱に薬瓶を一つ投げ込んだ。箱の中にはキノコが大量に入っていたから割れることはないだろう。なんだこれはというような目をするが、深く落ち込んでいるのか大して聞きもせずに店を出て行った。
しかし、マジックマッシュルームなんて久しぶりに見た。幻覚剤だったり高揚効果があったりするが、もしかしてその幻覚作用が今回の薬にいい働きをする可能性もあったか?……いや、幻覚と幻想は違う。あれは取り込むべきではない。
ま、いいかとまたカウンター内にある椅子に座った。今の冒険者とのやりとりをしている最中に薬品の蒸留は終わったようだ。かつフラスコの中も色が黄色から青に変わっている。ちょうどいいちょうどいい。
前にセラの元へ持って行った薬は、それぞれ一つずつ成分を偏らせて作ったものだった。その比率でこの効果が特出され、別の効果が薄くなる。その数ミリ単位の成分の差を吟味しながら、自分が今一番欲しい効果を効率よく発生させるために試行錯誤を繰り返して何度も試薬を作る……この工程が楽しいったらありゃしない。
目指すは、ただ一滴で触れることのできる幻影を役三十分現存させ続けることだ。嗅覚に作用するならそれもいい。大事なのはその幻想が一瞬で終わることなく、また永遠に続かないことだ。その物語へ入り込み、飽きさせずに終着まで導く。最初は宣伝用にある一説だけを具現化させればいいと思っていたが……それだと所詮宣伝のみだ。物語で人々を笑顔にさせる、というあいつの願いと少しずれてしまう。
それならば……と企んでいることを想像すれば、またにやりと笑ってしまった。
あいつはきっと俺の考えに同調するだろう。あいつがそういうやつだから。
「おいジェイドッ‼︎」
「あッッつお前ふざけんな湯溢しただろ‼︎」
突然蹴破られた扉の爆音と共に、先ほどの冒険者が声を張り上げて俺の名を呼んだ。そのタイミングで別の器に沸騰したての湯を移そうとしていたので、さすがに驚いて微量の湯が手にかかる。熱いと手を振りながら冒険者を見れば、先ほどまで持っていたその荷箱からはみ出るほどのマジックシームが詰められていた。
「あんたの薬渡したら魔女が目の色変えて喜んでたぞ……⁉︎ なんなんだあの薬⁉︎」
あぁ、それはただの惚れ薬なんだが……。
「ないしょ」
「なんでだよ⁉︎」
どうやら魔女は、自分で意中の人を射止めるために惚れ薬を作ろうものならあまりに自分の魔力を込めすぎてしまうために、効果が強くなりすぎて相手を意識不明にさせてしまうのだとか。だから時々使い魔まで寄越してどうにかならないだろうかと薬屋の俺に相談してきていた。そんな魔女が使えそうなもの、と適当に惚れ薬を作っておいて手元に置いてあったものを渡しただけでそこまで喜ぶのか。まぁいい、得をした。
何よりも、一つ試作で持っておけばいいと思っていたマジックシームがこんな大量に手に入ったのだ。お手柄だ、と断られた追加報酬を払い、俺も冒険者も満足気に笑いあった。
蒸留機がごぽごぽと音をたて、別で火にかけているフラスコがごぽごぽと音をたて、自分の耳周りは水が沸き立つ音でいっぱいだった。いつも材料採取依頼をしている冒険者がカウンターを覗き込んでくるまで、彼が帰還しかつ話しかけてきているという事実に気がつかなかった。
「あ、なに?」
「何じゃなくてよ。それ、治療薬じゃないのか? まるで魔女が依頼してくる素材ばっかり頼んできやがって」
冒険者は言いながら、カウンターの上に置いた木箱を指差す。立ち上がって箱の中を確認してみれば、見るだけで鼻で笑ってしまいそうになるだけの悍ましい材料が多く入っていた。数多くの黒い何か、数多くの白い何か。
「何がどうしたらこうなるんだ」
「あ⁉︎ お前が言ったんだろ、黒ヤモリが欲しいって」
そう言って冒険者は干からびて乾燥してしまったヤモリの尻尾を摘んで取り出す。それを俺に向かって突きつけてくるので、やめろとその手を叩いた。
「黒ヤモリじゃなくてクロマイトな」
「ん⁉︎」
「これはなにさ」
箱の中にあった白いキノコを取り出して冒険者に見せると、若干の冷や汗を掻きながら呟いた。
「……マジックマッシュルーム……?」
「ふッ……俺が言ったのはマジックシーム」
俺の言葉を聞くか否や、冒険者は頭を抱えてしゃがみ込んだ。謎のうめき声を上げながら。
「あぁああ、おかしいとは思ったんだ! なんでお前が呪術の類を研究しているのかって! くっそ、もしかしたら必要なのかもなんて考えなければよかった、聞くべきだった‼︎」
「ほうれんそうは大事だぞ~。あ、でもこの箱の中身全部魔女に貢いだらマジックシーム譲ってもらえるかもな。追加報酬払うから請け負ってくれないか? 魔女に取引材料が足りないって言われたら俺から払うように伝えてくれよ」
マジックシームとは、文字通り『魔法を繋ぎ留めておくための縫い糸』の様なものだ。裁縫で使うような細い糸というわけではないが、その紐で魔具を縛り付けておけば、その魔法が解放されることはないという、強力魔具の暴発防止剤、と言ったところだろうか。
頭を抱えたままだった冒険者は大きいため息をつきながら立ち上がる。そして重い足取りで荷箱を抱えた。
「はぁ、任務失敗の様なので追加報酬はいらんです……。魔女にも怒られたら俺から払っておきます……」
また重いため息を一つ吐き、とぼとぼと扉へ向かっていく。なんだか悪いことをした気分になるな。
「……あぁ、待て待て。じゃあおまけにこれつけといてくれ」
言って、その荷箱に薬瓶を一つ投げ込んだ。箱の中にはキノコが大量に入っていたから割れることはないだろう。なんだこれはというような目をするが、深く落ち込んでいるのか大して聞きもせずに店を出て行った。
しかし、マジックマッシュルームなんて久しぶりに見た。幻覚剤だったり高揚効果があったりするが、もしかしてその幻覚作用が今回の薬にいい働きをする可能性もあったか?……いや、幻覚と幻想は違う。あれは取り込むべきではない。
ま、いいかとまたカウンター内にある椅子に座った。今の冒険者とのやりとりをしている最中に薬品の蒸留は終わったようだ。かつフラスコの中も色が黄色から青に変わっている。ちょうどいいちょうどいい。
前にセラの元へ持って行った薬は、それぞれ一つずつ成分を偏らせて作ったものだった。その比率でこの効果が特出され、別の効果が薄くなる。その数ミリ単位の成分の差を吟味しながら、自分が今一番欲しい効果を効率よく発生させるために試行錯誤を繰り返して何度も試薬を作る……この工程が楽しいったらありゃしない。
目指すは、ただ一滴で触れることのできる幻影を役三十分現存させ続けることだ。嗅覚に作用するならそれもいい。大事なのはその幻想が一瞬で終わることなく、また永遠に続かないことだ。その物語へ入り込み、飽きさせずに終着まで導く。最初は宣伝用にある一説だけを具現化させればいいと思っていたが……それだと所詮宣伝のみだ。物語で人々を笑顔にさせる、というあいつの願いと少しずれてしまう。
それならば……と企んでいることを想像すれば、またにやりと笑ってしまった。
あいつはきっと俺の考えに同調するだろう。あいつがそういうやつだから。
「おいジェイドッ‼︎」
「あッッつお前ふざけんな湯溢しただろ‼︎」
突然蹴破られた扉の爆音と共に、先ほどの冒険者が声を張り上げて俺の名を呼んだ。そのタイミングで別の器に沸騰したての湯を移そうとしていたので、さすがに驚いて微量の湯が手にかかる。熱いと手を振りながら冒険者を見れば、先ほどまで持っていたその荷箱からはみ出るほどのマジックシームが詰められていた。
「あんたの薬渡したら魔女が目の色変えて喜んでたぞ……⁉︎ なんなんだあの薬⁉︎」
あぁ、それはただの惚れ薬なんだが……。
「ないしょ」
「なんでだよ⁉︎」
どうやら魔女は、自分で意中の人を射止めるために惚れ薬を作ろうものならあまりに自分の魔力を込めすぎてしまうために、効果が強くなりすぎて相手を意識不明にさせてしまうのだとか。だから時々使い魔まで寄越してどうにかならないだろうかと薬屋の俺に相談してきていた。そんな魔女が使えそうなもの、と適当に惚れ薬を作っておいて手元に置いてあったものを渡しただけでそこまで喜ぶのか。まぁいい、得をした。
何よりも、一つ試作で持っておけばいいと思っていたマジックシームがこんな大量に手に入ったのだ。お手柄だ、と断られた追加報酬を払い、俺も冒険者も満足気に笑いあった。
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