翡翠の炎ー幻影の手紙ー

柳椥

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Epilogue

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「前に薬のおまけで発光薬もらったでしょう。あれ、無くさないようにって上着の内ポケットに入れたままだったんだよね。忘れてたよ」

 青年がけらけらと笑えば、錬金術師に額を叩かれていた。頭に包帯を、顔にガーゼを貼り付けたその病人を叩きつけるなんて、容赦がない。そんな二人の様子を見ながら本屋の店主は笑い、二人の前に温かい飲み物が入ったマグカップを置く。本屋にはその場で本を読む用の机と椅子があり、そこに二人は座っていた。
 謎の地震が発生するようになってから数日が経ったが、あのドラゴンの死骸が崖下に鎮座するようになってからその地震もおさまったようだ。街はあっという間に日常に戻り、今は誰も地震の心配をしていない。今日は雲一つない、至って平和な日だった。

「でも、なんで僕助かったんだろう。あれは絶対終わったと思ったのに」

 言えば錬金術師は、青年の頭の上に分厚い本を落とした。痛い、と青年はうめく。

「次勝手な真似したら許さないからな」

 ソッポを向いてマグカップを傾けている。なんだと思いながら青年がその本を開けば、自分が終わりまで書いたはずの物語に自分じゃない文字が書き加えられていることに気づいた。


『火を消すために、雨が降った』
『ドラゴンの背に乗った青年は、奇跡的に生き残った』


 ……と。
 元々書かれていたEndという文字には斜線が引かれてあり、改めて最後に終わりを書き殴られている。
 青年がまた笑うと、錬金術師は彼を睨みつけた。

「語彙力のなさ」
「黙れクソガキ」

 あははと声を出して笑い、また錬金術師の機嫌を損ねた。

「……あ、そういえばおじいさん、本のお金踏み倒すところだった。ごめんね。今度持ってくるから」

 言えば店主は首を横に振って、優しげな顔で青年を見る。

「あの地震がおさまったのはお前のおかげなんだろう? それくらいなんてことないさ」

 青年が笑うと、店主は錬金術師にも目をやる。

「お前がいなければ成せなかったことでもある。セラを救ってくれたこともな」
「……二度とやんねぇ」
「うはは、拗ねてる」

 言えばまた青年の額をべちりと叩いた。
 錬金術師は飲み干したマグカップを机に置いて、席を立った。

「あれ、帰っちゃうの?」
「最近個人用の治療薬の依頼が多いんだよ。名が流行るのは書き手だけでいいっつーの……」

 錬金術師は後ろ手を振って、店を出て行ってしまった。そして青年は店主に小声で尋ねる。

「ねぇ、やっぱりあの人の瞳の色変わったと思いません? 前あんなんじゃなかったよ」
「そう感じなくもないが、いかんせんあの態度だからな」

 店主の言いように青年は噴き出して笑った。

「あれ、なんだか楽しそう。セラさん! 本の感想持ってきましたよ」

 入り口に、淡い青の表紙をした本を抱える少女がいる。店主は青年を一度見てから、また別の飲み物を用意しようと奥に下がっていった。青年は少女を手招きし、先ほどまで錬金術師が座っていた席へと案内する。
 そうして時々そうするように、書き手と読み手の想いの交流会がはじまった。
 


 
 拾った命を抱きしめながら
 
 与えられた呪いを噛み締めながら
 
 僕は今日も、紙に世界を書き続ける。
 
 俺は今日も、奇跡を作り続ける。



『翡翠の炎』~幻影の手紙~ 終
   
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