14 / 14
Epilogue
しおりを挟む
「前に薬のおまけで発光薬もらったでしょう。あれ、無くさないようにって上着の内ポケットに入れたままだったんだよね。忘れてたよ」
青年がけらけらと笑えば、錬金術師に額を叩かれていた。頭に包帯を、顔にガーゼを貼り付けたその病人を叩きつけるなんて、容赦がない。そんな二人の様子を見ながら本屋の店主は笑い、二人の前に温かい飲み物が入ったマグカップを置く。本屋にはその場で本を読む用の机と椅子があり、そこに二人は座っていた。
謎の地震が発生するようになってから数日が経ったが、あのドラゴンの死骸が崖下に鎮座するようになってからその地震もおさまったようだ。街はあっという間に日常に戻り、今は誰も地震の心配をしていない。今日は雲一つない、至って平和な日だった。
「でも、なんで僕助かったんだろう。あれは絶対終わったと思ったのに」
言えば錬金術師は、青年の頭の上に分厚い本を落とした。痛い、と青年はうめく。
「次勝手な真似したら許さないからな」
ソッポを向いてマグカップを傾けている。なんだと思いながら青年がその本を開けば、自分が終わりまで書いたはずの物語に自分じゃない文字が書き加えられていることに気づいた。
『火を消すために、雨が降った』
『ドラゴンの背に乗った青年は、奇跡的に生き残った』
……と。
元々書かれていたEndという文字には斜線が引かれてあり、改めて最後に終わりを書き殴られている。
青年がまた笑うと、錬金術師は彼を睨みつけた。
「語彙力のなさ」
「黙れクソガキ」
あははと声を出して笑い、また錬金術師の機嫌を損ねた。
「……あ、そういえばおじいさん、本のお金踏み倒すところだった。ごめんね。今度持ってくるから」
言えば店主は首を横に振って、優しげな顔で青年を見る。
「あの地震がおさまったのはお前のおかげなんだろう? それくらいなんてことないさ」
青年が笑うと、店主は錬金術師にも目をやる。
「お前がいなければ成せなかったことでもある。セラを救ってくれたこともな」
「……二度とやんねぇ」
「うはは、拗ねてる」
言えばまた青年の額をべちりと叩いた。
錬金術師は飲み干したマグカップを机に置いて、席を立った。
「あれ、帰っちゃうの?」
「最近個人用の治療薬の依頼が多いんだよ。名が流行るのは書き手だけでいいっつーの……」
錬金術師は後ろ手を振って、店を出て行ってしまった。そして青年は店主に小声で尋ねる。
「ねぇ、やっぱりあの人の瞳の色変わったと思いません? 前あんなんじゃなかったよ」
「そう感じなくもないが、いかんせんあの態度だからな」
店主の言いように青年は噴き出して笑った。
「あれ、なんだか楽しそう。セラさん! 本の感想持ってきましたよ」
入り口に、淡い青の表紙をした本を抱える少女がいる。店主は青年を一度見てから、また別の飲み物を用意しようと奥に下がっていった。青年は少女を手招きし、先ほどまで錬金術師が座っていた席へと案内する。
そうして時々そうするように、書き手と読み手の想いの交流会がはじまった。
拾った命を抱きしめながら
与えられた呪いを噛み締めながら
僕は今日も、紙に世界を書き続ける。
俺は今日も、奇跡を作り続ける。
『翡翠の炎』~幻影の手紙~ 終
青年がけらけらと笑えば、錬金術師に額を叩かれていた。頭に包帯を、顔にガーゼを貼り付けたその病人を叩きつけるなんて、容赦がない。そんな二人の様子を見ながら本屋の店主は笑い、二人の前に温かい飲み物が入ったマグカップを置く。本屋にはその場で本を読む用の机と椅子があり、そこに二人は座っていた。
謎の地震が発生するようになってから数日が経ったが、あのドラゴンの死骸が崖下に鎮座するようになってからその地震もおさまったようだ。街はあっという間に日常に戻り、今は誰も地震の心配をしていない。今日は雲一つない、至って平和な日だった。
「でも、なんで僕助かったんだろう。あれは絶対終わったと思ったのに」
言えば錬金術師は、青年の頭の上に分厚い本を落とした。痛い、と青年はうめく。
「次勝手な真似したら許さないからな」
ソッポを向いてマグカップを傾けている。なんだと思いながら青年がその本を開けば、自分が終わりまで書いたはずの物語に自分じゃない文字が書き加えられていることに気づいた。
『火を消すために、雨が降った』
『ドラゴンの背に乗った青年は、奇跡的に生き残った』
……と。
元々書かれていたEndという文字には斜線が引かれてあり、改めて最後に終わりを書き殴られている。
青年がまた笑うと、錬金術師は彼を睨みつけた。
「語彙力のなさ」
「黙れクソガキ」
あははと声を出して笑い、また錬金術師の機嫌を損ねた。
「……あ、そういえばおじいさん、本のお金踏み倒すところだった。ごめんね。今度持ってくるから」
言えば店主は首を横に振って、優しげな顔で青年を見る。
「あの地震がおさまったのはお前のおかげなんだろう? それくらいなんてことないさ」
青年が笑うと、店主は錬金術師にも目をやる。
「お前がいなければ成せなかったことでもある。セラを救ってくれたこともな」
「……二度とやんねぇ」
「うはは、拗ねてる」
言えばまた青年の額をべちりと叩いた。
錬金術師は飲み干したマグカップを机に置いて、席を立った。
「あれ、帰っちゃうの?」
「最近個人用の治療薬の依頼が多いんだよ。名が流行るのは書き手だけでいいっつーの……」
錬金術師は後ろ手を振って、店を出て行ってしまった。そして青年は店主に小声で尋ねる。
「ねぇ、やっぱりあの人の瞳の色変わったと思いません? 前あんなんじゃなかったよ」
「そう感じなくもないが、いかんせんあの態度だからな」
店主の言いように青年は噴き出して笑った。
「あれ、なんだか楽しそう。セラさん! 本の感想持ってきましたよ」
入り口に、淡い青の表紙をした本を抱える少女がいる。店主は青年を一度見てから、また別の飲み物を用意しようと奥に下がっていった。青年は少女を手招きし、先ほどまで錬金術師が座っていた席へと案内する。
そうして時々そうするように、書き手と読み手の想いの交流会がはじまった。
拾った命を抱きしめながら
与えられた呪いを噛み締めながら
僕は今日も、紙に世界を書き続ける。
俺は今日も、奇跡を作り続ける。
『翡翠の炎』~幻影の手紙~ 終
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。
子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。
――彼女が現れるまでは。
二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。
それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる