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第2章 奮闘する王子様
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馬車というのは中々揺れる。
「ヤバいって、死ぬって……」
「大丈夫。大丈夫ですよ!」
今日のお供は、会議で抜けられないクロードに変わってエドガーだ。青い顔になっていく太郎を、エドガーは懸命に介抱する。
「さ、着きましたぞ王子。」
恐らく、約束の時間丁度に到着する。門を抜けて、屋敷に入れば丁度少しその時間を過ぎる計算だ。畏まった侍者が大仰に一礼すると、釣られて頭を下げようとするのを、寸でのところで踏みとどまった。
目の前には、荘厳な門を構える、巨大な屋敷。
「すごいな……家……なんだよな。」
思わず、エドガーに耳打ちする。
「ええ、公爵邸ですからねえ……使用人もそれなりに居ますよ。」
改めて、規模の大きさに卒倒しそうになる。よく考えたら、これとは比べものにならないほどの『家』に、自分は住んでいるのだから。
「エドガーとクロードの家もこんなにでかいの?」
この世界では、屋敷の大きさが権威の象徴らしい。それは元の世界とあまり変わらない。金持ちは豪華な家に、貧乏人は貧相な家に。やめよう。考えると、無性に泣きたくなる。
「ええ、まあ。」
エドガーは、頭を掻きながら、小さく頷いた。
門番に事情を説明する。門番の視線は冷たい。玄関の前で、執事長に取り次がれる。やはり、視線は冷たい。そして、
「王子、お久しぶりですなあ。いいお天気で。」
「……」
今、公爵邸の書斎にいる。目の前にはもちろん、
「ははは、なあに、私もそろそろ登城しようと思っておりましたところ……」
公爵ーーつまるところ、エカチェリーナの父がいる。
「王子自らお出でいただけるとは、」
柔和で人格者、そして家族をとても大切にしているという、その人は
「思っておりませんでした故。」
笑っているが、目はずっと据わったままだった。
刺すような視線、凍てつくような空気。おかしい、今日は陽気な春の陽射しが差し込んでいるはずなのに。笑顔のまま表情が固定されている公爵の圧に、太郎どころか、
「……」
従者として付き添ったエドガーでさえ、気圧されている。
「まあどうぞ、お茶でも。」
いつの間にか、侍女たちに持って来させていたらしい紅茶を勧める。震える手でティーカップを持ち、零さないよう口に運ぼうとすると、
「毒などは入っていないが故、ご安心を。」
当然、娘に関する謂れなき噂も、耳に入っているのだろう。満面の笑みで、五寸釘を何本も刺される感覚に襲われる。汗が止まらない。何も言えないまま、時間だけが経ってしまう。滴る汗と共に、太郎は自分の計画性の無さを呪った。
「ヤバいって、死ぬって……」
「大丈夫。大丈夫ですよ!」
今日のお供は、会議で抜けられないクロードに変わってエドガーだ。青い顔になっていく太郎を、エドガーは懸命に介抱する。
「さ、着きましたぞ王子。」
恐らく、約束の時間丁度に到着する。門を抜けて、屋敷に入れば丁度少しその時間を過ぎる計算だ。畏まった侍者が大仰に一礼すると、釣られて頭を下げようとするのを、寸でのところで踏みとどまった。
目の前には、荘厳な門を構える、巨大な屋敷。
「すごいな……家……なんだよな。」
思わず、エドガーに耳打ちする。
「ええ、公爵邸ですからねえ……使用人もそれなりに居ますよ。」
改めて、規模の大きさに卒倒しそうになる。よく考えたら、これとは比べものにならないほどの『家』に、自分は住んでいるのだから。
「エドガーとクロードの家もこんなにでかいの?」
この世界では、屋敷の大きさが権威の象徴らしい。それは元の世界とあまり変わらない。金持ちは豪華な家に、貧乏人は貧相な家に。やめよう。考えると、無性に泣きたくなる。
「ええ、まあ。」
エドガーは、頭を掻きながら、小さく頷いた。
門番に事情を説明する。門番の視線は冷たい。玄関の前で、執事長に取り次がれる。やはり、視線は冷たい。そして、
「王子、お久しぶりですなあ。いいお天気で。」
「……」
今、公爵邸の書斎にいる。目の前にはもちろん、
「ははは、なあに、私もそろそろ登城しようと思っておりましたところ……」
公爵ーーつまるところ、エカチェリーナの父がいる。
「王子自らお出でいただけるとは、」
柔和で人格者、そして家族をとても大切にしているという、その人は
「思っておりませんでした故。」
笑っているが、目はずっと据わったままだった。
刺すような視線、凍てつくような空気。おかしい、今日は陽気な春の陽射しが差し込んでいるはずなのに。笑顔のまま表情が固定されている公爵の圧に、太郎どころか、
「……」
従者として付き添ったエドガーでさえ、気圧されている。
「まあどうぞ、お茶でも。」
いつの間にか、侍女たちに持って来させていたらしい紅茶を勧める。震える手でティーカップを持ち、零さないよう口に運ぼうとすると、
「毒などは入っていないが故、ご安心を。」
当然、娘に関する謂れなき噂も、耳に入っているのだろう。満面の笑みで、五寸釘を何本も刺される感覚に襲われる。汗が止まらない。何も言えないまま、時間だけが経ってしまう。滴る汗と共に、太郎は自分の計画性の無さを呪った。
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