コピーキャットの仮面

釜借 イサキ

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 最近、巷を騒がせる失踪事件がある。被害者は、若くて綺麗な女性。
 辺境の交番に勤務している自分には関係の無いことだとばかり思っていた。扱うのは失踪事件と言っても、認知症のじいさんばあさんがいなくなったとか、そんな事。
 発端は通報だった。勤務している交番に、近隣の住民から腐敗臭がする廃墟があるという情報が入ったのだ。直後、現場に直行した交番勤務の巡査が向かったのは、薄暗い路地裏に佇む1軒の廃墟だった。元々は精肉店だったと思われる其処に向かうと、外からでもあからさまに分かるような、文字通りの異臭を放っていた。不快感を隠せずに顔を顰めると、巡査は懐中電灯を点灯させると、恐る恐るその扉を開く。
「ったく……何だってんだよ」
扉を開けた瞬間、異臭は密度を増して巡査に襲いかかる。
「くっせえ……」
眉間に皺がよった顔は、不快感を露わにしている。
 ここには特に異変を感じ取ることは出来ないが、
「何だ? このドア……」
中程まで歩いてゆくと、少し分かり難いものの、大きな扉に取っ手がついているのが分かる。それと同時に、異臭の出元もそちらの方角であることが分かる。
 重い金属製の取っ手を取り、徐に扉を開けると異臭の濃度が急激に増す。それと共に、声にも成らない悲鳴が、建物をつんざく。
「ーーっ!」
巡査の手から零れ落ちた懐中電灯は目の前の溜め池の跡地に向かって転がってゆく。腰を抜かした巡査は、力無く座り込む。懐中電灯の灯りに照らされて、一瞬浮き出たのだ……顔の無い・・・・ヒトの体が。
 力の入らない足を懸命に動かし、懐中電灯を拾い上げる。戦慄く手を必死に支えながら先ほどの方を光で照らす。
「……」
厭な脂汗が、ゆっくりと背中を伝う。そこにあるのは、紛れもなく顔の皮を剥ぎ取られた・・・・・・・・・女性、だったモノだ。半分以上が腐敗しており、血は固まって床にこびり付いている。
「もしもしっ……」
異臭に対する不快感も忘れて、胸ポケットに忍ばせていた携帯電話で職場に電話する。うまく回らぬ呂律で懸命に説明し、要件を理解して貰えるまでに、一体どれだけの時間を費やしただろう。
 荒んだ路地裏に明々とした灯りが集まったのは、それからどれだけ時が経ったときだったか……
 幾重にも重ねられた緋いサイレンの色が、事件の深刻さを物語る。幾年もの間血に染まった廃墟は、白日の下に晒される。それを嗤う様に、黒衣を纏ったカラスたちは不気味な音色を奏でていた。
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