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第1章:村編
第3話『襲撃の夜、赤い未来と走る影』
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夕暮れが完全に落ちきる前、村の入口で座り込んでいた俺の胸の奥に、冷たい指が押し込まれたような違和感が走った。
(……赤が濃くなってる)
視界の端に浮かぶ “家系図UI”。
アーテル村──いつもは淡い青のはずのその欄が、今はじわじわと赤へ傾き始めていた。
嫌な汗が背中を伝う。
(何かが……来る)
立ち上がろうとした瞬間、遠くの森で金属がぶつかるような、低い音が鳴った。
次いで、ごう、と何かが燃え上がる匂いが風に運ばれてくる。
胸が跳ねた。
村長が焚き火の前に座っていたが、その気配に気づき、眉をひそめながら立ち上がった。
「ユウ……お前の顔、真っ青じゃないか。何が見えた」
「……村が赤い。すぐ、来る。全員、奥へ!」
声は裏返り、五歳児のか細い喉では命令にならない。
けれど、村長は一瞬だけ迷った後、深く息を吸い込んだ。そして俺の瞳を見て、決意の色を宿す。
「……鐘を鳴らせ! 全員集めろ!!」
高鳴る鐘の音が、村の静寂を切り裂いた。
家の扉が次々に開き、泣き出しそうな子どもを抱いた母親、鍬を握る男たち、老人たち──皆が混乱したまま集まってくる。
その瞬間。
森の暗がりから、いきなり“光の塊”が飛び出した。
否──松明だ。
火の粉を撒き散らしながら、弧を描いて飛んでくる。
どっ、と空気が裂ける音がして、村の外れの家の壁に直撃した。
藁と木材が燃えやすいのは分かりきっている。
一瞬で火が走り、橙色の光が村人全体の顔を照らした。
悲鳴。
動揺。
そして──未来が赤に沈む。
【死者予測:18~23名 → 41名】
(……増えた! 火で皆が動けない……!)
視界がチカチカ揺れ、頭痛が刺す。
森の中から、影がいくつも飛び出してくる。
盗賊だ。
松明を掲げて叫びながら、村の中心へ向かって走ってくる。
「オラァ──燃えろォ!!」
「女とガキを押さえろ!!」
地鳴りのような足音。
火の明かりに揺れる影。
村中に響く悲鳴。
(……止めないと、41人死ぬ……!)
「皆、こっち! 井戸の方へ! 家の裏は行っちゃダメ!!」
五歳児の叫びでは届かない──はずだった。
しかし、火の勢いと盗賊の勢いに怯えた村人たちは、俺の声の方向へ雪崩のように駆け出した。
【死者予測:41名 → 17名】
(まだ高い……!)
盗賊の前衛が家を蹴破りながら突進してくる。
松明の熱と煙が視界を刺激し、一瞬、誰がどこにいるのか分からなくなる。
土の匂いと焦げた木の臭いが混ざり、息が苦しい。
(落ち着け……まず“動き”を読むんだ)
未来視を強める。
家系図の端に、赤い線がいくつも伸びていき、その中で一つだけ“ねじれた分岐”が光った。
「あそこ通っちゃダメ!!」
俺は叫んだ。
その直後、盗賊の一人が松明を再び投げつけ、地面に転がった火が乾いた草を燃やした。
もし村人がそこに踏み込んでいたら、転倒して槍で突かれていた未来が見えた。
【死者予測:17名 → 9~11名】
胸が焼けるように痛い。
能力を使いすぎて、五歳児の体が悲鳴をあげる。
でも──止められない。
火の影が村人の背中を押すように揺れ、盗賊の影がその隙間を縫うように近づいてくる。
「ユウ!! 危ない!!」
リナの母親が叫ぶ。
振り返ると、斧を持った盗賊が踏み込んできていた。
村長が咄嗟に俺を抱き寄せて飛び退く。
斧が地面に叩きつけられ、土が跳ねた。
松明の炎が俺たちの影を大きく揺らす。
(未来が……真っ赤だ……!)
村長が身を挺して庇ってくれたおかげで、斧はかすりもせず土に突き刺さっていた。
盗賊は低く笑った。
「ちっ……ガキから殺したほうが手っ取り早ぇか」
(……まずい!)
未来視が勝手に作動する。
家系図UIの村人アイコンがドロッと赤に沈んでいくのが見える。
【死者予測:9~11名 → 12名】
(上がった……! こいつの一撃で村長が……!!)
脳が焼けるほど痛むが、叫んだ。
「村長! 右に転がって!!」
五歳児の声。
普通なら聞き逃されるはずの小さな声。
だが、村長は反射で地面に身を投げた。
刹那、盗賊の斧が空を裂き、村長の頭があった位置を通過する。
斧が木柱に深々と刺さり、盗賊が体勢を崩した。
「あっ……!」
(今だ!)
「足!! 踏み込んで!!」
村長は迷わなかった。
転がった拍子に手についた“古い鋤”を掴み、そのまま片膝で踏ん張り盗賊の脇腹へ突き込んだ。
肉を裂く鈍い音。
盗賊の口から息が漏れ、炎で照らされた血が飛び散る。
「が……ああっ!!」
どさり、と倒れる。
未来が揺らぎ、
【死者予測:12名 → 7名】
(下がった……まだいける!)
倒れた盗賊の背後──三人の影が迫る。
今度は槍だ。
間合いが長い分、松明の光の外から突き出されると避けづらい。
槍の穂先が村人へ向くたび、赤い線がにゅるりと伸びていく。
(このままじゃ……届く!)
「家の影に入って!! 光に背中を見せないで!!」
俺の言葉に男たちが反射的に動き、壁の影に滑り込んだ瞬間──
槍の穂先は空を切り、盗賊のリーチは完全に殺された。
【死者予測:7名 → 5~6名】
少しずつ。
少しずつ未来が青へと戻っていく。
だが──
「……あそこ、屋根の上だ!」
盗賊の一人が叫んだ。
俺が見た未来の中で、最も“濃い赤”が走っていた場所だ。
屋根の上の弓兵。
(このままだと……三人死ぬ!)
村人は混乱し、誰も気づいていない。
「屋根見て!! 弓!! 気をつけて!!」
だが声では間に合わない。
一射目が放たれ、炎で揺らぐ空気を貫く。
そこに──
影が動いた。
鍛冶屋のオーグだ。
片目に古傷を持つ大男。
普段は無口で子どもには優しいが、戦うための体を持っている。
オーグは地面の石を一つ拾い、かすかに笑った。
「……腕が鳴るな」
そして、投げた。
鍛えた肩と指から放たれた石は、弓兵のこめかみを正確に撃ち抜いた。
弓兵が屋根の上でバランスを失い、転落する。
砂埃が上がり、弓が地面に転がる。
【死者予測:5~6名 → 2名】
(あとすこし……!)
だが、息が苦しい。
胸が締め付けられ、足が震える。
能力を使いすぎている。
五歳児の体には耐えられない負荷だ。
松明の炎が揺れるたび、視界が赤と黒でにじむ。
(……うご、け……)
村長が俺に駆け寄り、肩に手を置いた。
「ユウ……大丈夫か?」
その瞬間──
家系図UIの片隅がひどくゆがんだ。
赤い線が暴れ、一本だけ、暗い“ねじれ”が蠢く。
(……あの方向……誰かが……死ぬ!!)
「村長!! あっち!! 走って!!」
叫んだ瞬間、未来が開いた。
そこには──
汚れた布をまとい、泥だらけの少年が倒れ込んでいた。
(……ガルド!?)
松明の炎が、その震える肩を照らしていた。
泥の中で震えるガルドの腕を、粗末な縄がきつく締めつけていた。
足も手も自由がない。誰かに引きずられた跡が地面に続いている。
松明の炎に照らされたその姿は、まるで“捨てられた荷物”のようだった。
「う、あ……!」
声にならない悲鳴。
ガルドは俺の方を見た。
その瞳だけが、必死に助けを求めていた。
(間に合わない……!)
次の瞬間、家系図UIが強制的に開く。
【死者予測:2名 → 3名】
(ガルドが……殺される未来だ……!)
盗賊三人がこちらへ走ってくる。
その足取りには迷いがない。
「ガキもまとめて売るか? こいつはまだ使えるだろ」
「いや、隊長が“ユウ”ってガキを殺せって――」
ユウ。
俺の名前だ。
(……隊長が俺の名前を……? なぜ?)
考える余裕はない。
「村長!! ガルドを後ろへ!!」
村長は理解が早い。
迷いのない動きでガルドを抱え、その場から引きずり出す。
だが――盗賊の方が早い。
「おらああッ!!」
盗賊の一人が棍棒を振り上げる。
ガルドを狙っている。
(やめろ……やめろ!!)
未来視が急激に赤へ傾く。
【死者予測:3名 → 5名】
(だめ……防げない……! 誰か……!)
その時だった。
「お前ら……子ども狙いすぎだろ」
低い声。
横から飛び込んできた影。
オーグだ。
片腕を大きく振り回すと、盗賊の一人が吹き飛ぶ。
まるで巨岩にぶつかったような勢いだ。
「ガルドは……俺たちの村の子どもだ」
いつになく怒気を帯びた声。
普段は酒に弱くて、よく転ぶ優しい大男。
そんな彼の顔に、戦士の面影が戻っていた。
「おっさん……!」
思わず声が漏れそうになる。
(未来が……揺れた!)
【死者予測:5名 → 1~2名】
(救える……まだ全員……助けられる!!)
残った盗賊二人がオーグへ突っ込む。
だが、オーグは一歩も引かない。
「ユウ! そっち任せた!」
オーグの声に、背筋が震えた。
(任された……俺なんだ……!)
足が震えても、呼吸が浅くても、立たなきゃいけない。
未来を変えるって決めたんだ。
「ガルド……動ける!?」
「……う、うん……でも……」
ガルドは怯えている。
当然だ。
何日も殴られ、脅され、逃げても捕まり――その繰り返しだったらしい。
「大丈夫。絶対に死なせない」
そう言った瞬間、ガルドの赤かった未来色がわずかに薄くなった。
そこへ。
「…………いたぞ」
低く、湿った声が闇から響いた。
松明の炎が揺れ、森の入口を照らす。
一人の男が立っていた。
肩には盗賊特有の布鎧。
腕には汚れた包帯。
だが何より目を引いたのは――彼の瞳だ。
燃えるような怒りと、冷たい殺意が混ざっている。
隊長だ。
「ガキ……お前だな。ユウってのは」
背筋が凍りつく。
呼吸が止まる。
(どうして……名前を……)
「お前に邪魔されたせいで、うちの連中が何人もやられた。
……まずは、お前から殺す」
未来視が爆発した。
【死者予測:1~2名 → 7名】
(だめだ……隊長一人で……こんなに未来が……!!)
松明の赤が、村全体を血の色に染めていく。
(逃げられない……ここが……分岐だ……!)
喉が焼けるほどの恐怖。
でも、それ以上に胸の奥が熱くなった。
(ガルドも……村長も……オーグも……俺が守る!!)
俺は隊長を睨み返した。
「……来いよ」
五歳児の声とは思えないほど、低く、震えずに。
隊長の口元がゆっくりと釣り上がった。
「気に入った」
隊長が一歩踏み出すたび、未来が赤く塗りつぶされていく。
【死者予測:7名 → 9名】
(まずい……このままじゃ村が壊滅する!)
村長はガルドをかばうように前へ出た。
オーグは盗賊二人を押し返しているが、隊長の気配に気づき振り向く余裕がない。
隊長の視線は……完全に俺だけに向いている。
「ガキ。お前、何者だ?」
ゆっくりと棍棒を構える。
その動きは荒っぽいのに、無駄がまったくない。
(勝てない……正面からじゃ……!)
未来視がひび割れるように揺らぎ、別の分岐が浮かぶ。
――隊長の足が一瞬だけ止まる。
その背後に、大きな影。
(……オーグ!)
未来が見えた瞬間、喉が勝手に動いた。
「オーグ!! 今!! 後ろだッ!!」
盗賊と組み合っていたオーグが、こちらの声だけで状況を理解した。
振り返らず、相手を抱え、強引に地面へ叩きつけ、その勢いのまま隊長へ突っ込む。
「どけェッ!!」
オーグの体当たりが隊長を押し返した。
棍棒が地面に転がる。
【死者予測:9名 → 3名】
(いける……!)
隊長が体勢を立て直す。
だが、その隙はほんの一瞬。
「村長! 右!」
村長が即座に動き、倒れていた農具――鍬を拾い、隊長の腕を打ち払った。
「ぐッ……!」
【死者予測:3名 → 1~2名】
(あと少し……!)
隊長が後退しながら俺をにらんだ。
「……お前、子どもの癖に“見えて”るな」
その言葉に、肺が止まるほどの衝撃が走った。
(なぜ……わかる?)
隊長は口の端をつり上げ、血を吐きながら笑う。
「名を聞かせろ。ガキ」
「……ユウだ」
「覚えた。
――次は、お前から殺す」
そう言い残して、隊長は森の奥へ消えていった。
残りの盗賊たちも彼の後を追う。
村に静寂が戻った。
家系図がまばゆい青へと変わる。
【死者予測:1~2名 → 0】
(……守れた)
膝から力が抜け、地面へ座り込む。
胸が痛いほど脈打ち、視界がにじむ。
「ユウ……!」
ガルドが駆け寄り、小さな手で俺の腕をつかんだ。
その未来色は、もう赤ではなく、淡い青に変わっていた。
「……ありがとう。生きてて……よかった……!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら笑うガルド。
その姿を見た瞬間、家系図UIに新しい枝が生まれた。
『家系図更新:ガルド → “守護対象”に登録』
(守る理由が……また一つ増えたな)
だが――終わりではなかった。
視界の端。
村の中央にある祠の位置だけが、黒い霧に包まれて赤く脈打っている。
戦いは終わった。
でも、祠の赤は一度も消えていない。
夜風が村を吹き抜ける。
松明だけが静かに揺れ、祠の影を長く伸ばした。
(……赤が濃くなってる)
視界の端に浮かぶ “家系図UI”。
アーテル村──いつもは淡い青のはずのその欄が、今はじわじわと赤へ傾き始めていた。
嫌な汗が背中を伝う。
(何かが……来る)
立ち上がろうとした瞬間、遠くの森で金属がぶつかるような、低い音が鳴った。
次いで、ごう、と何かが燃え上がる匂いが風に運ばれてくる。
胸が跳ねた。
村長が焚き火の前に座っていたが、その気配に気づき、眉をひそめながら立ち上がった。
「ユウ……お前の顔、真っ青じゃないか。何が見えた」
「……村が赤い。すぐ、来る。全員、奥へ!」
声は裏返り、五歳児のか細い喉では命令にならない。
けれど、村長は一瞬だけ迷った後、深く息を吸い込んだ。そして俺の瞳を見て、決意の色を宿す。
「……鐘を鳴らせ! 全員集めろ!!」
高鳴る鐘の音が、村の静寂を切り裂いた。
家の扉が次々に開き、泣き出しそうな子どもを抱いた母親、鍬を握る男たち、老人たち──皆が混乱したまま集まってくる。
その瞬間。
森の暗がりから、いきなり“光の塊”が飛び出した。
否──松明だ。
火の粉を撒き散らしながら、弧を描いて飛んでくる。
どっ、と空気が裂ける音がして、村の外れの家の壁に直撃した。
藁と木材が燃えやすいのは分かりきっている。
一瞬で火が走り、橙色の光が村人全体の顔を照らした。
悲鳴。
動揺。
そして──未来が赤に沈む。
【死者予測:18~23名 → 41名】
(……増えた! 火で皆が動けない……!)
視界がチカチカ揺れ、頭痛が刺す。
森の中から、影がいくつも飛び出してくる。
盗賊だ。
松明を掲げて叫びながら、村の中心へ向かって走ってくる。
「オラァ──燃えろォ!!」
「女とガキを押さえろ!!」
地鳴りのような足音。
火の明かりに揺れる影。
村中に響く悲鳴。
(……止めないと、41人死ぬ……!)
「皆、こっち! 井戸の方へ! 家の裏は行っちゃダメ!!」
五歳児の叫びでは届かない──はずだった。
しかし、火の勢いと盗賊の勢いに怯えた村人たちは、俺の声の方向へ雪崩のように駆け出した。
【死者予測:41名 → 17名】
(まだ高い……!)
盗賊の前衛が家を蹴破りながら突進してくる。
松明の熱と煙が視界を刺激し、一瞬、誰がどこにいるのか分からなくなる。
土の匂いと焦げた木の臭いが混ざり、息が苦しい。
(落ち着け……まず“動き”を読むんだ)
未来視を強める。
家系図の端に、赤い線がいくつも伸びていき、その中で一つだけ“ねじれた分岐”が光った。
「あそこ通っちゃダメ!!」
俺は叫んだ。
その直後、盗賊の一人が松明を再び投げつけ、地面に転がった火が乾いた草を燃やした。
もし村人がそこに踏み込んでいたら、転倒して槍で突かれていた未来が見えた。
【死者予測:17名 → 9~11名】
胸が焼けるように痛い。
能力を使いすぎて、五歳児の体が悲鳴をあげる。
でも──止められない。
火の影が村人の背中を押すように揺れ、盗賊の影がその隙間を縫うように近づいてくる。
「ユウ!! 危ない!!」
リナの母親が叫ぶ。
振り返ると、斧を持った盗賊が踏み込んできていた。
村長が咄嗟に俺を抱き寄せて飛び退く。
斧が地面に叩きつけられ、土が跳ねた。
松明の炎が俺たちの影を大きく揺らす。
(未来が……真っ赤だ……!)
村長が身を挺して庇ってくれたおかげで、斧はかすりもせず土に突き刺さっていた。
盗賊は低く笑った。
「ちっ……ガキから殺したほうが手っ取り早ぇか」
(……まずい!)
未来視が勝手に作動する。
家系図UIの村人アイコンがドロッと赤に沈んでいくのが見える。
【死者予測:9~11名 → 12名】
(上がった……! こいつの一撃で村長が……!!)
脳が焼けるほど痛むが、叫んだ。
「村長! 右に転がって!!」
五歳児の声。
普通なら聞き逃されるはずの小さな声。
だが、村長は反射で地面に身を投げた。
刹那、盗賊の斧が空を裂き、村長の頭があった位置を通過する。
斧が木柱に深々と刺さり、盗賊が体勢を崩した。
「あっ……!」
(今だ!)
「足!! 踏み込んで!!」
村長は迷わなかった。
転がった拍子に手についた“古い鋤”を掴み、そのまま片膝で踏ん張り盗賊の脇腹へ突き込んだ。
肉を裂く鈍い音。
盗賊の口から息が漏れ、炎で照らされた血が飛び散る。
「が……ああっ!!」
どさり、と倒れる。
未来が揺らぎ、
【死者予測:12名 → 7名】
(下がった……まだいける!)
倒れた盗賊の背後──三人の影が迫る。
今度は槍だ。
間合いが長い分、松明の光の外から突き出されると避けづらい。
槍の穂先が村人へ向くたび、赤い線がにゅるりと伸びていく。
(このままじゃ……届く!)
「家の影に入って!! 光に背中を見せないで!!」
俺の言葉に男たちが反射的に動き、壁の影に滑り込んだ瞬間──
槍の穂先は空を切り、盗賊のリーチは完全に殺された。
【死者予測:7名 → 5~6名】
少しずつ。
少しずつ未来が青へと戻っていく。
だが──
「……あそこ、屋根の上だ!」
盗賊の一人が叫んだ。
俺が見た未来の中で、最も“濃い赤”が走っていた場所だ。
屋根の上の弓兵。
(このままだと……三人死ぬ!)
村人は混乱し、誰も気づいていない。
「屋根見て!! 弓!! 気をつけて!!」
だが声では間に合わない。
一射目が放たれ、炎で揺らぐ空気を貫く。
そこに──
影が動いた。
鍛冶屋のオーグだ。
片目に古傷を持つ大男。
普段は無口で子どもには優しいが、戦うための体を持っている。
オーグは地面の石を一つ拾い、かすかに笑った。
「……腕が鳴るな」
そして、投げた。
鍛えた肩と指から放たれた石は、弓兵のこめかみを正確に撃ち抜いた。
弓兵が屋根の上でバランスを失い、転落する。
砂埃が上がり、弓が地面に転がる。
【死者予測:5~6名 → 2名】
(あとすこし……!)
だが、息が苦しい。
胸が締め付けられ、足が震える。
能力を使いすぎている。
五歳児の体には耐えられない負荷だ。
松明の炎が揺れるたび、視界が赤と黒でにじむ。
(……うご、け……)
村長が俺に駆け寄り、肩に手を置いた。
「ユウ……大丈夫か?」
その瞬間──
家系図UIの片隅がひどくゆがんだ。
赤い線が暴れ、一本だけ、暗い“ねじれ”が蠢く。
(……あの方向……誰かが……死ぬ!!)
「村長!! あっち!! 走って!!」
叫んだ瞬間、未来が開いた。
そこには──
汚れた布をまとい、泥だらけの少年が倒れ込んでいた。
(……ガルド!?)
松明の炎が、その震える肩を照らしていた。
泥の中で震えるガルドの腕を、粗末な縄がきつく締めつけていた。
足も手も自由がない。誰かに引きずられた跡が地面に続いている。
松明の炎に照らされたその姿は、まるで“捨てられた荷物”のようだった。
「う、あ……!」
声にならない悲鳴。
ガルドは俺の方を見た。
その瞳だけが、必死に助けを求めていた。
(間に合わない……!)
次の瞬間、家系図UIが強制的に開く。
【死者予測:2名 → 3名】
(ガルドが……殺される未来だ……!)
盗賊三人がこちらへ走ってくる。
その足取りには迷いがない。
「ガキもまとめて売るか? こいつはまだ使えるだろ」
「いや、隊長が“ユウ”ってガキを殺せって――」
ユウ。
俺の名前だ。
(……隊長が俺の名前を……? なぜ?)
考える余裕はない。
「村長!! ガルドを後ろへ!!」
村長は理解が早い。
迷いのない動きでガルドを抱え、その場から引きずり出す。
だが――盗賊の方が早い。
「おらああッ!!」
盗賊の一人が棍棒を振り上げる。
ガルドを狙っている。
(やめろ……やめろ!!)
未来視が急激に赤へ傾く。
【死者予測:3名 → 5名】
(だめ……防げない……! 誰か……!)
その時だった。
「お前ら……子ども狙いすぎだろ」
低い声。
横から飛び込んできた影。
オーグだ。
片腕を大きく振り回すと、盗賊の一人が吹き飛ぶ。
まるで巨岩にぶつかったような勢いだ。
「ガルドは……俺たちの村の子どもだ」
いつになく怒気を帯びた声。
普段は酒に弱くて、よく転ぶ優しい大男。
そんな彼の顔に、戦士の面影が戻っていた。
「おっさん……!」
思わず声が漏れそうになる。
(未来が……揺れた!)
【死者予測:5名 → 1~2名】
(救える……まだ全員……助けられる!!)
残った盗賊二人がオーグへ突っ込む。
だが、オーグは一歩も引かない。
「ユウ! そっち任せた!」
オーグの声に、背筋が震えた。
(任された……俺なんだ……!)
足が震えても、呼吸が浅くても、立たなきゃいけない。
未来を変えるって決めたんだ。
「ガルド……動ける!?」
「……う、うん……でも……」
ガルドは怯えている。
当然だ。
何日も殴られ、脅され、逃げても捕まり――その繰り返しだったらしい。
「大丈夫。絶対に死なせない」
そう言った瞬間、ガルドの赤かった未来色がわずかに薄くなった。
そこへ。
「…………いたぞ」
低く、湿った声が闇から響いた。
松明の炎が揺れ、森の入口を照らす。
一人の男が立っていた。
肩には盗賊特有の布鎧。
腕には汚れた包帯。
だが何より目を引いたのは――彼の瞳だ。
燃えるような怒りと、冷たい殺意が混ざっている。
隊長だ。
「ガキ……お前だな。ユウってのは」
背筋が凍りつく。
呼吸が止まる。
(どうして……名前を……)
「お前に邪魔されたせいで、うちの連中が何人もやられた。
……まずは、お前から殺す」
未来視が爆発した。
【死者予測:1~2名 → 7名】
(だめだ……隊長一人で……こんなに未来が……!!)
松明の赤が、村全体を血の色に染めていく。
(逃げられない……ここが……分岐だ……!)
喉が焼けるほどの恐怖。
でも、それ以上に胸の奥が熱くなった。
(ガルドも……村長も……オーグも……俺が守る!!)
俺は隊長を睨み返した。
「……来いよ」
五歳児の声とは思えないほど、低く、震えずに。
隊長の口元がゆっくりと釣り上がった。
「気に入った」
隊長が一歩踏み出すたび、未来が赤く塗りつぶされていく。
【死者予測:7名 → 9名】
(まずい……このままじゃ村が壊滅する!)
村長はガルドをかばうように前へ出た。
オーグは盗賊二人を押し返しているが、隊長の気配に気づき振り向く余裕がない。
隊長の視線は……完全に俺だけに向いている。
「ガキ。お前、何者だ?」
ゆっくりと棍棒を構える。
その動きは荒っぽいのに、無駄がまったくない。
(勝てない……正面からじゃ……!)
未来視がひび割れるように揺らぎ、別の分岐が浮かぶ。
――隊長の足が一瞬だけ止まる。
その背後に、大きな影。
(……オーグ!)
未来が見えた瞬間、喉が勝手に動いた。
「オーグ!! 今!! 後ろだッ!!」
盗賊と組み合っていたオーグが、こちらの声だけで状況を理解した。
振り返らず、相手を抱え、強引に地面へ叩きつけ、その勢いのまま隊長へ突っ込む。
「どけェッ!!」
オーグの体当たりが隊長を押し返した。
棍棒が地面に転がる。
【死者予測:9名 → 3名】
(いける……!)
隊長が体勢を立て直す。
だが、その隙はほんの一瞬。
「村長! 右!」
村長が即座に動き、倒れていた農具――鍬を拾い、隊長の腕を打ち払った。
「ぐッ……!」
【死者予測:3名 → 1~2名】
(あと少し……!)
隊長が後退しながら俺をにらんだ。
「……お前、子どもの癖に“見えて”るな」
その言葉に、肺が止まるほどの衝撃が走った。
(なぜ……わかる?)
隊長は口の端をつり上げ、血を吐きながら笑う。
「名を聞かせろ。ガキ」
「……ユウだ」
「覚えた。
――次は、お前から殺す」
そう言い残して、隊長は森の奥へ消えていった。
残りの盗賊たちも彼の後を追う。
村に静寂が戻った。
家系図がまばゆい青へと変わる。
【死者予測:1~2名 → 0】
(……守れた)
膝から力が抜け、地面へ座り込む。
胸が痛いほど脈打ち、視界がにじむ。
「ユウ……!」
ガルドが駆け寄り、小さな手で俺の腕をつかんだ。
その未来色は、もう赤ではなく、淡い青に変わっていた。
「……ありがとう。生きてて……よかった……!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら笑うガルド。
その姿を見た瞬間、家系図UIに新しい枝が生まれた。
『家系図更新:ガルド → “守護対象”に登録』
(守る理由が……また一つ増えたな)
だが――終わりではなかった。
視界の端。
村の中央にある祠の位置だけが、黒い霧に包まれて赤く脈打っている。
戦いは終わった。
でも、祠の赤は一度も消えていない。
夜風が村を吹き抜ける。
松明だけが静かに揺れ、祠の影を長く伸ばした。
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評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
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大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
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【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
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疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
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アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
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没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
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優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
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第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
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前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
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物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
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