乙女ゲームの世界に池ポチャした

永遠みどり

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尖った女の子との出会い(1/2)

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――次に目を覚ますと、私は狭い部屋のような場所に居た。
 そして、ここ数日間で私の中の感覚が狂ってしまったのか先程から「ふっ、ふふ、ふ」と笑いが止まらない。

 なぜならば!

 ベットに寝ていたから!!!
 私が知っているフカフカとは随分とかけ離れ、毛布なんてないし、少し動くだけでミシミシと嫌な音はする。それでもあの環境を思うと、幸せのドーパミンを出さずにはいられない。

 だって、訳の分からない気持ちの悪い虫もネズミも、なんとも言い難い匂いも、ノイローゼになってしまいそうな四方八方から聞こえてくる呻き声もなにもない、幸せすぎる空間だから。

 「ふぅ……」

 それからしばらく、ベットを堪能した後に、勢いよくガバリと起き上がってみた。

 私が知っているところでいえば、ドラマでよくでてきた収容所……のボロボロ版、といった所だろうか? 今見える範囲だけでも石畳で出来た部屋なのは分かる。

 石壁には、人の顔の大きさくらいあるかないかの小さな窓が一定の感覚で幾つかあるだけで光の入り具合も少ない。そしてどうやら、扉は先程までいた場所と同じ作りのようだ。

 「……あッッッ」

 思わず、私はベットから立ち上がる。 私にとっての神アイテムを見つけたから。

―全身鏡だ。

それを見つけた瞬間、私はとても興奮した。これでも女の子なのよ?……自分で言ってて鳥肌が止まらない。まぁ、もちろん神アイテムだと思った理由はある。

 遠目から見てもかなりヒビ割れて、隅には蜘蛛の巣も張ってある。 だが、それでも今は関係ない。姿を確認する事が出来るのなら。

……この世界に来てから散々、子ども(少なくとも大人扱いはして貰えた記憶はない)と勘違いをされてきた。

 だから確認してみたい。 この世界に飛ばされたと同時にもしかしたら若返った可能性を。 もし若返ったとするのなら、いったいどれだけ、いつの頃の私まで肌が綺麗になっているのか、と。

 「やっぱり……それにしても」


 そして、その憶測は当たっていたと言って差し支えなかった。あまりにも、私の見た目が幼い。

 身長のせいだと言われたら確かにぐうの字も出ないくらいに低い自覚はある。だけど身長ゆえの若さではないし、肌が綺麗になった云々の話という訳でもない。あまりにも本気で若返っている。

 だって鏡の向こう側にいるのは、あまりにも中学生の頃の私だったから。顔つきと言えばいいのか、全体的に分かる。肌がきれいになったくらいじゃ、決してなるわけの無い体をしているから。

 「はは……は」

 こんな体じゃ、私が何言っても子供扱いされても仕方ないよ。いや、この体だったからこそ五体満足で生きて居られるのだから。

 「……かえりたいなぁ」
 「だったら早く処刑でもなんでもしてもらったら?ウィンストンさんも喜ぶよ、」


                              【……え?】


 扉の奥から、突然、私の言葉に返答が来ると思わなかった。それもかなり尖っている様子の、女の子の声だ。この世界に来て初めての女の子の声。

 戸惑いながら扉の方を見つめていると、1人の女の子がガチャリと音をたてて入ってくる。昔の舞台に出てきそうな、少し上品なメイド服……ぽいような黒いロングスカートに白いエプロン。

 浅葱色の髪の毛を、頭部の高い位置で結んでいる。うなじ辺りで揺れる、ポニーテール。それから小さな顔には不釣り合いなほどのキリッとした目。 吸い込まれるほど青々とした目をしている。

 「は?なに?みないでくれる?」

……ど見つめていたのが気に触ったようで、引き続き(何故か)暴言を吐きながら、かなりダルそうに私の近くまで歩いてきた。

 そして近寄ってきた彼女はおもむろに私になにか柔らかいものをぶん投げてきた。布の端が目に入って染みる。

 「いたぁッッッ」
 「反撃すれば? そしたら私、ウィンストンさんに言えるんだけど」

……その物言いがかなりムカついた。 ムカついたが、投げつけられたそれをよく見ると、それが……目の前の彼女と同じメイド服だと言うことに気付く。

 「ウーロン様の命令じゃなきゃこんな臭いとここないんだから、早く着替えて」
 「え、あ、うん」
 「返事すんな」

ッッッ……コメカミがピクピクと痙攣してしまうが、いまは抑える。抑えるんだ、私。目の前の子は中学生か、高校生くらい。 大人の私が耐えるべき。

 それにしても、この服も、ぜんぶ私よ神様、仏様、ウーロン様の計らいだと思うと少しだけ嬉しくなって、頬が緩んでしまった。

 すると、女の子は心底意味不明、と言ったような、人を虫かなにかの奇行を見るかのような視線で眉をひそめて、一言。

 「はぁぁぁめんどくさ……」

 (面倒くさいのはこっちだっつーの!)

 目の前の女の子がダルそうに、扉近くの壁に背中を預けたのを横目に、私はいそいそと着替えをはじめる。 

 「早く着替えて、あんたの髪の毛やんなきゃ行けないの」
 「え、あ、わかった」

 腕を組んで、片足をコツコツと地面に叩いて焦らしてくるから、急いで身につけていたものを脱ぎ始める。

 それにしても、どうやら異世界初の女の子との出会いは、好感度マイナス100スタート、らしい。せめて、もう少しお話出来る子なら良かったのに、と内心でゴチってしまったのはこの際仕方ないことだと思う。
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