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雲みたいな親友は
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──中に入れば、入店と同時に"カランコロン"と揺れる鈴の音が迎えてくれる。何となく目を閉じて余韻を感じているとコツコツと歩いてくる気配。薄く目を開ければ予想通りそこには制服のズボンで、ワイシャツの上から黒いエプロンを身に着けている見慣れた顔の店員が居た。
「いらっしゃ……あっ、な~んだ。湊かぁ」
「なんだとは、失礼な」
「へへへ。今誰もいないので好きな席どうぞ~」
入店早々に随分と間延びした挨拶と失礼をかましてきたこの店員こそが、親友の清水柚希。俺と同じクラスの何の共通点もない親友である。強いて言えば最近隣の席になった事で何かと授業中に相談することが増えたことだろうか。
そして俺は柚希のことを内心で羊雲みたいな人間だと思っているから。生まれつき人よりも少し色素の薄い髪色をもっているし、実際ふわふわとしている髪の毛が店の明かりに照らされると一目瞭然。こげ茶色に透ける柔らかな髪の毛が、つい数十分前に見上げた羊雲を思い出さずにはいられない。
いつもどこかマイペースで、ぼけっとしている柚希。
だからつい放っておけずに、世話を焼いてしまうのは仕方ないと思っている。 そもそも悲しいことに、それが妹や弟がいる俺……長男の性とやらかもしれない。 因みに、目の前の柚希はどこか末っ子気質があるくせにバリバリの一人っ子であることについては納得しかねている。
そんな事を考えていると、俺を手招きしてカウンター席の方に案内してきたので、大人しく後ろをついて歩いて座った。
「で、今日で何日め??」
「え~そんな働いてないよ……6日目?」
「ばかか?」
「え~まぁでも、お店のおばあちゃんのお手伝いみたいなものだから、楽しいし」
席に座って、おもむろにメニューを取り出しつつ、目の前に立っている彼の目を見ずにぶっきらぼうに質問すれば、そんな答えが返ってきたから思わず暴言を吐いてしまったのは仕方ない。どこまでいっても目の前の男のバイト戦士具合に呆れるしかない。
「お前の事情は分かるけどさ、お前が無理したらお父さんの方が泣くんじゃないの」
「……あの人は泣くだろうね。泣き虫だから」
思わず「ははっ」と笑ってしまう。 自分の父親のことを泣き虫だなんて、息子に言われてるその構図がどこか面白おかしい。でも確かに、何度か柚希の父親とは顔を合わせた事があるが、目を充血させないあの人を想像する方が難しいかもしれない。なんて思いながら俺はピースの形を作った手を柚希の顔の前に突き付けた。
「じゃあ、コーヒー2杯ください……ミルク多めで」
「……またそうやって」
「ん? なにか?」
「はいは~い」
どこか呆れた様な、なんとも言えない返事をしながら、ふわふわと髪の毛を揺らしてカウンターの中に戻った親友を横目に俺はカバンの中のスマホを取り出す。
「げっ」
開いて早々、確認したスマホの通知に変な声を出さずにはいられなかった。母親からのメッセージだったから。
『部活終わったの?』だとか『夜ご飯は?』とか『早く帰ってきなさい』だとか、とにかく本当に口うるさい俺の母親。
多分、半年くらい前の俺ならば『うるせぇばばぁ』なんて反抗期そのもののような返事をしていたことは間違いない。
だけど、今の俺はため息をつきながら『柚希と飯食ってから帰るわー。夜ご飯はいる!』とだけ送ってそそくさとカバンにしまって終わり。暴言吐かないだけ偉いね、俺。なんて自分自身を立てつつ思い出すのは数か月前。
──俺と柚希が出会ってまだ2ヶ月経ったか、経っていないか位の頃の事だ。
「いらっしゃ……あっ、な~んだ。湊かぁ」
「なんだとは、失礼な」
「へへへ。今誰もいないので好きな席どうぞ~」
入店早々に随分と間延びした挨拶と失礼をかましてきたこの店員こそが、親友の清水柚希。俺と同じクラスの何の共通点もない親友である。強いて言えば最近隣の席になった事で何かと授業中に相談することが増えたことだろうか。
そして俺は柚希のことを内心で羊雲みたいな人間だと思っているから。生まれつき人よりも少し色素の薄い髪色をもっているし、実際ふわふわとしている髪の毛が店の明かりに照らされると一目瞭然。こげ茶色に透ける柔らかな髪の毛が、つい数十分前に見上げた羊雲を思い出さずにはいられない。
いつもどこかマイペースで、ぼけっとしている柚希。
だからつい放っておけずに、世話を焼いてしまうのは仕方ないと思っている。 そもそも悲しいことに、それが妹や弟がいる俺……長男の性とやらかもしれない。 因みに、目の前の柚希はどこか末っ子気質があるくせにバリバリの一人っ子であることについては納得しかねている。
そんな事を考えていると、俺を手招きしてカウンター席の方に案内してきたので、大人しく後ろをついて歩いて座った。
「で、今日で何日め??」
「え~そんな働いてないよ……6日目?」
「ばかか?」
「え~まぁでも、お店のおばあちゃんのお手伝いみたいなものだから、楽しいし」
席に座って、おもむろにメニューを取り出しつつ、目の前に立っている彼の目を見ずにぶっきらぼうに質問すれば、そんな答えが返ってきたから思わず暴言を吐いてしまったのは仕方ない。どこまでいっても目の前の男のバイト戦士具合に呆れるしかない。
「お前の事情は分かるけどさ、お前が無理したらお父さんの方が泣くんじゃないの」
「……あの人は泣くだろうね。泣き虫だから」
思わず「ははっ」と笑ってしまう。 自分の父親のことを泣き虫だなんて、息子に言われてるその構図がどこか面白おかしい。でも確かに、何度か柚希の父親とは顔を合わせた事があるが、目を充血させないあの人を想像する方が難しいかもしれない。なんて思いながら俺はピースの形を作った手を柚希の顔の前に突き付けた。
「じゃあ、コーヒー2杯ください……ミルク多めで」
「……またそうやって」
「ん? なにか?」
「はいは~い」
どこか呆れた様な、なんとも言えない返事をしながら、ふわふわと髪の毛を揺らしてカウンターの中に戻った親友を横目に俺はカバンの中のスマホを取り出す。
「げっ」
開いて早々、確認したスマホの通知に変な声を出さずにはいられなかった。母親からのメッセージだったから。
『部活終わったの?』だとか『夜ご飯は?』とか『早く帰ってきなさい』だとか、とにかく本当に口うるさい俺の母親。
多分、半年くらい前の俺ならば『うるせぇばばぁ』なんて反抗期そのもののような返事をしていたことは間違いない。
だけど、今の俺はため息をつきながら『柚希と飯食ってから帰るわー。夜ご飯はいる!』とだけ送ってそそくさとカバンにしまって終わり。暴言吐かないだけ偉いね、俺。なんて自分自身を立てつつ思い出すのは数か月前。
──俺と柚希が出会ってまだ2ヶ月経ったか、経っていないか位の頃の事だ。
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