雲みたいな親友へ

永遠みどり

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雲みたいな親友と

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 両手を真っ赤にさせて柚希が何とも言えない絶妙な変顔をしつつ、コトンと慣れた手つきでミルクたっぷりのそれを目の前の机に置いてくれた。湯気から香るにおいも相変わらず。

「はい、お待たせしました~。持ち帰り専用の紙コップですね~」
 「ははっ当たり前だろ。ってことで19時のタイムカードは……『タイムカードはもう切りましたぁ~』ふはっ、ナイス」

 目を閉じながら鼻をくんくんと動かしていると、なんちゃって店員のごとく声をかけてきたものだから、思わず喉をくつくつと鳴らしながらそう言った。それからまってましたと言わんばかりに腰エプロンのポケットからガサゴソとタイムカードを取り出してきた。

 腹を抱えながら若干過呼吸気味に笑いながらも、スマホの画面を光らせて見ると"喫茶"が終わる時間が迫っていた。本当はもう少し座りながら喋れたのなら良かったのだが……熱いコーヒーをズズッと一口先に啜ってから立ち上がる。それから急いで柚希の片腕を引いて外に出る。あと数分もすればたちまち、この場所も居酒屋へと様変わりしてしまうから。

──そして、柚希が着替えやら荷物やらを、店の外の裏の階段をのぼった先にあるらしい更衣室に向かって数分。見慣れた制服の上から薄茶色のコートを着ている柚希が現れた。ついでに何の前触れもなしに「今日もサッカーやってきたんだ?」と聞いてきたから俺は思わず肩を竦めてしまった。

「何を当たり前なことを……サッカー部だぞ」

 当たり前の事を答えただけに過ぎないのに、親友は何が面白かったのか目を細めながら空を見上げてケタケタと笑う。あまりにも楽しそうに笑うせいで俺もまた「はっはは」と笑ってしまった。

 店の外でばかみたい笑うのもほどほどに目尻に浮かんだ涙を指先で拭ってから一つ溜息を吐いく。軽くアイコンタクトしてから、軽快に歩き始めた柚希の後ろを歩くと一分も経たずにくるりとこちらを振り向いてきた。思わずぶつかりそうになったが、寸前でブレーキをかけられた俺はすごいと思う。

 「それにしても雲……いっぱい過ぎて見えないね」

 突然、立ち止まった末に放たれるのがその言葉でいいのかとさすがに手の甲をぷるぷると震わせ脇腹を軽く小突きつつ「一つはみえるけどな」といじわるをする。するとあほらしくも辺りをきょろきょろと見渡して「えっ!? ねぇ湊。どこにあるの!」と必死になる柚希の右肩を軽く押しつつ進む。それから必死にぶんぶんと振っている髪の毛を横目に 「自分でさがせ、あーほ」と言えばギョッとした顔で 「湊!ひどいよ~!」と抗議された。

 三歩うしろに居る俺にしか見えない答えを探しても見つかるわけがないから案の定、五分も経たずに諦めがついたようで、頬をふくらませつつも諦めはついたようだった。すると”良い”こと思いついたと言わんばかりの顔で提案をされる。

 「湊~せっかくだしスーパーついてきてよ」
 「お、? いいけど……柚希が作るのか?」
 「まぁね~。今日はおとーさん。病院帰りだからさ」
 「あ~ね」

 なんとなく予測済みであった提案だったから当たり前のように軽く返事をする。近所のスーパーよりも柚希の近所のスーパー事情のほうが詳しくなってきているきがするのは恐らくきっときのせい。

……それにしても柚希の父親が、最近あまり体調が良くないらしい。もともと病院通いが続いているのは事前に聞いていたし、その話題になると無意識に柚希の顔が曇ることは知っていたから、適当に目を逸らして自分のスマホに目を移す。

 『やっ「やっぱり柚希の家で食べてくわ」』

 俺が母親にメッセージを打ち込んでいる最中に、まるで読み上げ機能のような棒読みが飛んできて肩をビクンと揺らした俺は悪くない絶対に。

……ゆっくりと見上げると、あまりにも綺麗なジト目で俺を見ている。その視線から
逃げるようにいそいそと視線をスマホに戻せば、爆速で母親から返ってきていた鬼のスタンプ。そっとポケットにもどして観念したように片手で謝罪をしたがどうやら文句はあるらしい。「まだ、なにも言われてないし、良いともいってないんだけど~?」と言われた。

 片手でスマンスマンとポーズをしながら「明日、土曜日なんだし別にいいだろ」と軽く言ってのけると「手伝いくらいはしてよ……」とため息をつかれた。 だが、本当に嫌がっていないことくらい分かる。伊達に常習犯をしていないから。

 それから、手元に持っていた紙コップに口を付けてごくごくと飲み始めると、柚希はまだ口をつけていなかった自身のコーヒーを見て目をぱちぱちしている……もしかしなくても存在を忘れていたらしい。

 「飲んでから行くか……」
 「そうだね……途中のところににゴミ箱あるからそこで捨てようか」

 ちょうど近くに寄りかかるのには持ってこいな、壁があったから残りのコーヒーを飲みながらちょっとした会話をする。 とは言っても、気になる女の子の話などしていればあっという間にお互いの紙コップは寂しくなったから目的地へと足を向け始めた。
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