【完結】Spice up my life〜元カレが今カレに一目惚れしたら目の前で薔薇が舞い散るようになってしまったんですが

ていくみー

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Episode1:Welcome to the new world

1-2 元カレ累くんにフラれた話

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 累くんは何というか、イケてる男子たちの中でも特に目立っていた。

 品があって賢そうで、いかにも育ちが良さそうな上、思わず二度見するほど整った顔立ち。
 サラサラの黒髪に、アーモンド型の涼し気な瞳、スッと通った鼻筋、陶器のような白い肌に細い体――
 そして何より、光の粒をキラキラと撒き散らすような優しい笑顔。
 その上、人当たりが良くて気配りができる、中身まで紳士的な人ときたもんで。

「莉子ちゃん、グラス空いたね。何か頼む?」
「あっ、うん。自分で頼むから大丈夫……」
「いいんだよ、女の子は今日は何もしなくて」

 ズギャン!!!

 と、その微笑みにあたしは心臓を射抜かれてしまった。一度自己紹介しただけなのに、もう当たり前のように名前を呼ばれたことも効いて、まんまとやられた。

 誰に対してもそんな感じだったので、当然、女子グループの大半が彼に狙いを定めた。みんなが入れ代わり立ち代わり、彼に一生懸命話しかけたり、料理を取り分けたり、猛アピールを始めた。
 そんな中で、おのぼりさんのあたしなんぞが割って入るスキはなく――その様子を羨みながら横目で眺めつつ、他の男子たちと会話することにした。

「え、地元ですか? 周り畑しかないド田舎です。高校まで毎日片道1時間かけて自転車で通ってたんで、体力と足腰には自信あります。特技? 肥料の配合かな。得意料理? トウキビの塩茹でです。誰でもできるとか言っちゃダメですよ! 茹で加減と塩加減に絶妙なコツがあるんですから!」

 みたいなことを面白おかしく喋っていたら、意外と全員が話に食いついてきて盛り上がった。
 だけど何を勘違いしたのか、累くんはそれを他の娘とは違って気配りができると捉えたらしい。あたしを気に入ったようで、別れ際にこっそり連絡先を交換しないかと声をかけてきた。他の娘に聞かれてものらりくらりかわしていたようだけど。

 それから二人で会うようになり、何度目かのデートの後――奇跡的に彼の方から告白してくれた。
 夏のある日のことだった。

「莉子ちゃん、良かったら僕とお付き合いしてもらえませんか?」

 もちろんすぐに首を縦に振った。

「コンビニ無ぇ、ドラスト無ぇ、最寄り駅まで徒歩2時間、みたいなところから来た田舎者ですが……そっ、それでもよければ……!! あっ、テレビとラジオとWi-Fiはあったよ!?」

 そんな返事をすると、彼は腹を抱えて笑った。

 それからしばらく、あたしは天にも昇るような気持ちだった。
 累くんはいつでも穏やかで余裕があって、あたしと同じ歳とは思えないほど大人だった。お姫様のような扱いをされ、周りからも羨望の眼差しを向けられ、幸福の絶頂にいた。

 だけど、ひとつだけ気にかかることがあった。
 一緒に眠ると、彼は時折うなされることがあった。

「ごめんなさい、許してください……」

 顔を歪め、冷や汗をかきながら、そんなうわ言を呟くのだ。咄嗟にギュッと抱きしめて様子を見ていると、幸いすぐに落ち着いて寝息をたて始める。
 後日、何でもない時にそれとなく聞いてみると、彼は決まって可笑しそうにカラッと笑った。

「え、そんな寝言言ってた? あっ、この前一緒にたこ焼きを食べた後、大きなタコに捕まる夢を見た日かな?」

 決して弱みを見せない、その姿がどこかミステリアスで、なおさらあたしの心を惹きつけた。


 ――でも、そんな幸せは長くは続かなかった。半年ほど経ち、雪が積もった頃――彼は突然、あたしに別れてほしいと告げてきた。

「ごめんね。僕、同じ人とあまり長く付き合わないようにしてるんだ」

 少しだけ申し訳なさそうに、だけど手慣れた言い回しで彼はそう言った。

 何を言われたのか瞬時に理解できず、アホ面を浮かべることしかできなかった。頭を鈍器で殴られるような感覚とか、目の前が真っ白になるとか、言いようは色々あるのかもしれないけど。ただただアホな顔をしていたと思う。

「君に悪いところがあるとか、そういうわけじゃないんだ。本当にごめんね」

 そんな言葉を残し、彼は颯爽とあたしの元から去った。何じゃそりゃあぁぁ。

 あたしにとっては初恋だった。それが突然終わりを迎え、地の底まで落ち込んだ。怒りすらも燃やす気力が起こらず、灰になったように日々をただ呆然と過ごした。

 さらに、累くんはその後すぐに大学をやめてこの街を去ったと風の噂で聞いた。家庭の事情だとか何とか。街で偶然顔を合わせたりすることもなくなるだろうと、ほんの少しホッとしたけれど、それ以上に空洞がますます広がった気がした。





 そんな時、あたしのそばにいてくれたのが同郷の友人たちだった。

 地元の村には進学先や働き口の選択肢が少ないので、高校の同じクラスの中にも、卒業後あたしと同じように街へ出てきた仲間が何人かいた。そのクラスメイトたちと、たびたび集まって遊んでいた。

 その中の一人が才造だった。

 そのみんなには彼氏ができた時点からのことを逐一報告して、さんざん惚気たり相談したりしていたので、失恋した時も飲み会を開いて慰めてもらった。
 でも、みんなの前では強がってしまい、弱音を吐いて泣いたりすることはできなかった。大丈夫、大丈夫と無理に笑い、いつものノリで冗談まで言っていた。そのうちもっといい男見つけるから~、とか何とか。

 その失恋記念パーティーのすぐ後のある日、突然、才造から大盛りの焼き鳥の画像がSINEで送られてきた。
 説明も何もないので、意味が分からず電話をかけると、彼はボソボソとこんなことを言った。

『スーパーで半額になってたのを買い占めてしまったんだが、こんなに食べきれない。どうしよう』

 食べに来いと言うことかと問うと、彼は素直にうんと頷いた。最初からそう言え。

 才造とは、街に出てきた時にお互い借りたアパートが偶然にもすぐ近くだったのだ。それもあって、あたしの実家から野菜がゴソッと送られてきた時におすそ分けをしたり、ご近所さんのような付き合いをしていた。

 何となく一人でいたくない思いもあって、あたしは才造のアパートを訪れた。
 才造と二人で焼き鳥を食していると、なぜかボロボロと弱音が出た。

「そんなフラれ方、ひどくない~~?? 遊ばれただけってこと~~~??? だったら最初からそう言ってよぉぉぉぉぉ」
「うん」
「先に言われてたらさぁ、付き合うの考え直したかもしんないじゃん? そしたらこんな無駄なショックもなかったわけじゃん? いやでも、あの時はもしそう言われてたとしても、OKしたかもぉぉぉぉぉぉ~~~舞い上がってたもんん~~~~~~~」
「うん」
「あたしの純情を返せよバカヤロォォオォォォォ~~~。しかもさぁ、もうそのへんでバッタリ会ったりすることもないなんて~~~ワンチャン復縁も無理じゃん~~~~~」
「うん」
「累くんのバカぁ~~~~~さいぞーのアホ~~~~~」
「うん」

 才造が焼き鳥食らいながらうんしか言わないマンになった。しかも、どさくさ紛れの八つ当たりまでサクッと聞き流してくれる。それが彼の通常運転。だけど、その時のあたしにはそれがありがたかった。

 その後もしばらく、才造はいつもと同じようにあたしに接した。気を遣う風でもなく、腫れ物に触る風でもなく。

『ヤマゾンプライズでシン・レヴァ見れるようになった』

 ある日、あたしたちが二人とも好きなアニメの配信が始まったと才造がSINEで知らせてくれた。でもあたしはヤマプラに登録していない。

『マジ? 見に行っていい?』
『スルメ買ってきて』
『おっさんか!』

 みたいなやりとりをしたり。またある日は

『これからチャーハン作る』
『食べる』
『莉子の分も作るとは言ってない』
『じゃあ連絡すんな!!!』

 って言いながら作ってくれたり。
 仲間内では一番ランクの高い大学の理工学部に進学した才造は、手先が器用で研究者気質。この時はチャーハン作りにハマっていて、究極の味を目指していた。

 そんな感じでしょっちゅう行き来して、ともすれば才造の部屋で無防備に寝落ちしてしまうこともしばしばだった。だけど、才造は決して手を出しては来なかった。
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