【完結】Spice up my life〜元カレが今カレに一目惚れしたら目の前で薔薇が舞い散るようになってしまったんですが

ていくみー

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Episode1:Welcome to the new world

1-7 あたしって腐女子でしたっけ?

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 その後カフェを離れ、才造とのデートを続けることにした。ファッションビルで彼の新しい服を見て回ろうということになっていた。外観の定期メンテナンスである。

 メンズアパレルのショップで、あたしは明るい色のタンガリーシャツを手に取って才造の体の前に当ててみた。

「これどうかなぁ。今履いてるパンツとも合うんじゃない?」
「いいね。草田さんなら何でも似合いそう。こっちのカットソーも良くない?」
「あ~、オシャレだねぇ。着回しできそうだし……って累くん、なんでついて来てんの? デートだっつってんじゃん」

 しばらく経って、あたしはようやくこの状況がおかしいことに気が付いた。

「いいじゃない、混ぜてよ。僕も草田さんの服、選びたい♡」
「今カレの服を元カレと一緒に選んでるって、超カオスなんですけど……」

 細かいことはあんまり気にしないタチのあたしだけど、さすがに意味が分からない。才造もはじめは何度も帰れと言っていたが、馬の耳に念仏なので、もはや風景の一部と捉えることにしたらしい。

 仕方がないのでショップを何店か見て回りながら才造を着せ替え人形にして遊んだり、ついでにあたしの買い物に二人を付き合わせたり、しばらく謎の時間が過ぎた。

 だいぶ歩き回ったので自販機でドリンクを買い、ベンチに座って休憩を取ることにした。

「草田さんってファッションセンスもいいなぁと思ってたんだけど、いつもこうやって莉子ちゃんが選んでたの?」
「そうだよ、今はね。昔は服もテキトーだったし、髪もボサボサでダッサいメガネなんてかけてさ。草田才造、クソダサいぞうって言われてたんだから」
「へぇ。そんなに?」
「ほらコレ見て。高校の時のさいぞー」

 あたしはスマートフォンを取り出し、モサモサ時代の才造が写った画像を累くんの目の前にバンッと突き出してみせた。

「えっ、これが!?」

 どうだ、今と全く違うだろう。あわよくば幻滅してくれないかな。

 累くんはしばらくの間、驚いたようにまじまじとそれを見つめていたが、やがて頬を緩めてニヘラッと笑った。

「この草田さんも可愛い……♡」
「マジか……逆効果だった」
「ねぇ莉子ちゃん、この写真僕にも送って?」
「え~……」
「何に使われるか分からんからやめてマジで」

 ただただ真の姿を晒されただけの才造本人が、無数の縦線顔でそう訴えた。

 休日のこの日、街の中心部にあるビルは大勢の買い物客で溢れていた。いびつな三人組のあたしたちの目の前を、沢山の人々が行き交う。楽しそうな学生グループや手を繋いで歩くカップルなど、ほとんどが若者だ。
 その人たちを眺めながら、累くんがしみじみと言い出した。

「昔、ここで莉子ちゃんとデートしたことがあったよね」
「あ~……そうだっけ?」

 と、才造の手前、あたしは忘れたフリをした。この人はなんでそんなことを言い出すかな。この状況で。

「あの時君と一緒に選んで買った腕時計。あれ、今でも持ってるんだ」
「えっ、捨てなよそんなの! なんでそんなモノ取っておいてんの!?」
「だって、莉子ちゃんとの思い出の品だから。着けるたびに君のことを思い出してたよ」
「思い出さなくていいよ、昔の女のことなんて! あたしは累くんにもらったアクセサリーとか全部捨てたからね!!」

 三人がけのベンチで真ん中に座ったあたしは元々才造寄りに腰を下ろしていたけど、そんな話をしているうちにさらに才造の方へ寄った。
 でもそんなことは気にも留めず、累くんはアハハと笑った。

「そっか、女性は恋愛ごとに思い出を上書き保存しちゃうって言うよね。男は新しいフォルダを作っちゃうけど。僕は一度好きになった人のことは忘れたくないけどなぁ。あの頃、今までの人生の中で一番幸せだったし」
「えぇ?」
「僕の家はちょっと複雑でね。子供の頃は親に振り回されて、色々我慢を強いられてきたから……」

 あたしと付き合っていた頃、彼は家族のことを何も話してくれなかった。触れてほしくないような、そんな素振りを見せたから、あたしも深くは追求しなかった。
 だから、彼が今になって急にそんなことを言い出したのが意外だった。
 本当は――全く興味がなかったといえば嘘になる。だけど今ここでそんな素振りを見せるときっと才造に嫌な思いをさせるので、あたしは関心のないフリをしながら累くんの話の続きを待った。

 だが、彼はそれ以上は語らず、またニコッと得意の笑顔を浮かべた。

「まぁ、それが落ち着いたのでまたこうやってこの街に戻ってきたわけなんだけど」

 それ以上は話すつもりはないと、煙に巻くような笑顔だった。内心ちょっとだけガッカリしながら、あたしは表面上へぇ、と適当な相槌を打った。

「また新しい別の場所を選ぶこともできたんだけどね。でも、ここはいい思い出ばかりだったから。ここに来れば、また莉子ちゃんと巡り会えるかな……なんて都合のいいことを、心のどこかで考えてた」
「えっ?」

 思わずドキンとした。何言ってんのこの人。

 本音を言うと、あたしも彼にフラれた後、妄想しなかったわけじゃない。あの時あたしに別れを告げた本当の理由って、その家庭の事情とやらだったんじゃないだろうか。
 だとしたら、彼の本心は――

 と、ふと気が付くと、右隣から何やら不穏な空気が立ち込めていた。才造が、静かながらも何かをふつふつと燃やしている。

「じっ……事情はよく知らんけど……それ、また莉子を口説こうとしてるってこと……?」
「あれ草田さん、もしかして妬いてくれてます?♡」

 あたしはガクッとズッコケた。
 才造が怒るなんて珍しい。なのに累くんはそれをまるで意に介さず、なおも愉快そうにニコニコ笑っている。何なんだろうこの強メンタル。ホントどっかで頭でも打ったんじゃないだろうか。

「そっ、そうなんだけど……多分、お前が想像してんのと違う方向だと思う」

 怒るということに慣れていないからイマイチ迫力がないけど、たぶんこれが才造にとって精一杯の威嚇いかく。あたしは見かねて助け舟を出すことにした。

「もぉっ、累くんこのくらいにして! あたしたちこの後、二人でディナーの予約してるから!! もうついて来ないでよ!!」

 少し声を荒らげた。すると、彼はニコッと笑って思いのほかあっさりと引き下がった。

「そうなんだね、分かったよ。それじゃあさすがに仕方ないから、今日はこのあたりで失礼するよ。次は三人で予約よろしくね♡」
「なんで当然のように混じる気でいるの!!!? 意味分かんないィィィ!!!」

 累くんは最後まで楽しそうに笑いながらその場から立ち去ろうとした。でも、その前に――

「草田さん、明日またお会いしましょう」

 才造の前に跪き、彼の片手をスッと取ってそこに唇を寄せた。まるで紳士が淑女にするように。

 その瞬間だった。
 あたしの目の前で、ブワァッと無数の薔薇ばらの花びらが舞い上がった。

『草田さん……♡』
『やっ……やめろよ。俺には莉子が……』
『イケませんか? 僕、どうしても貴男のことが……』
『大崎………』
『キスしてください……一度だけでいいんです』
『……一度だけだからな』
『はい……♡』

 累くんに迫られて、困惑しながらも断りきれずに受け入れてしまう才造の姿――
 なぜかそんな光景が目の前に広がった。もちろん妄想である。

「………リコ。莉子?」

 才造に呼びかけられ、ハッと現実に戻る。

「なっ、何!!!!!!???」

 あまりにオーバーリアクションだったせいで、才造がビクッと驚いていた。

「なんか今っ……変な幻覚見えた!!!」
「幻覚?」
「なんか花びらがっ………えぇっ!!?」
「よく分からんけど莉子落ち着いて。とりあえず俺、この手を一刻も早く死ぬほど洗いたい」

 才造が累くんによって手にキスされたのは幻覚ではなかったらしい。顔の縦線がさらに増えている。ちなみに累くんは、あたしがトリップしている間に立ち去ったようだ。

 手を洗うためトイレに向かう途中、才造はなぜか決まり悪そうにあたしに向かって謝り始めた。

「なんか………ごめん」
「なんでさいぞーが謝るの?」
「や……なんか、俺がアイツに気に入られてしまったばかりに?」
「別にさいぞーのせいじゃないでしょ。あたしの方こそ……なんか、ごめん」
「莉子が謝んのもおかしくない?」
「や、そうだよね……」

 何となく微妙な空気。あたしも才造も、別に何もやましいことはしていないんだけど。

 けど――さっきのあの幻覚は一体なんだったんだろうか?
 いや、ナイナイナイナイナイナイ。いくら才造が気弱でも、男に押し切られるわけがない。だいたい才造はあたしのだ。譲るつもりなんてない。

 累くんが今でも無駄に姿形だけは美しいせいだ。そう思うことにした。いや理由になってないけど。
 あとアレだ。最近スマホでネットサーフィンをしていると、BLものの漫画の広告がよく勝手に出てくるからだ。一度うっかりタップして、無料配信分だけ読んじゃったりなんかしちゃったから。うん、それのせいだ。

 才造が入念に手洗いするのを待つ間、あたしは自分の中に芽生え始めた新たな一面を否定する材料を必死に探した。
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