【完結】Spice up my life〜元カレが今カレに一目惚れしたら目の前で薔薇が舞い散るようになってしまったんですが

ていくみー

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Episode1:Welcome to the new world

1-14 どうした才造

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『……って感じで、さいぞー煽っといたわよ~。それで良かった?』

 あたしは莉子。桃が才造に電話をしている間、累くんと公園で待っていた。彼が必要以上に近寄ってこないようベンチの端に座り、寄ってきたらすぐに逃げられる体勢を取りながら。
 そして才造と話し終えた桃が、累くんに報告の電話をしてきて今に至る。累くんがスピーカー通話にしてくれたので、報告の内容はあたしにも全部聞こえた。

「バッチリだよ。ありがとう、桃ちゃん」

 累くんがにこやかにそう答えたので、あたしは全力でツッコむことにした。

「どのあたりがどうバッチリなの!!!? あたしが桃に愚痴ったこと、だいぶあることないこと盛られてるよねぇぇ!!? 累くんと比較なんてしてないけど!!!」
『でも、さいぞーとマンネリしてるってのは事実でしょ? そのくらい話盛って危機感持たせなきゃ、あのダサいぞうは変わんないわよ』

 もっともらしいことを言ってるけど、絶対才造をからかって遊んでるだけだ。

「でも桃ちゃん、大丈夫? それじゃ君と草田さんの関係にヒビが入ったりしない?」
『別にいいわよ。あたしはあいつに嫌われたところで痛くも痒くもないもの。何故なら、何の興味もないからよ』

 相変わらず歯に衣着せぬ女である。一周回って尊敬に値する。
 あたしが開いた口を塞げずにいると、桃は仕事に戻るからと言って通話を終了してしまった。いや、まず仕事抜けてまでこんなことに協力せんでいいのに。

 すると累くんはまたもニコニコしながら、クルリとあたしの方へ顔を向けた。

「そういうわけで莉子ちゃん、草田さんが待ち合わせにどういう顔で来るか楽しみだね♡」

 この笑顔が怖い。あたしはただただ青ざめた。





 日が暮れかけて、才造との約束の時間が近付いた。
 先程までいたのと同じ公園内の西の方へ移動し、比較的人通りの少ないベンチで才造を待つ。
 会ったらまず誤解を解かなきゃ――そう思い、どうやって切り出すかを考えた。
 そうしていると、地下鉄駅の出入口方向からこちらへ向かって来るまばらな人影の中に、才造の姿が見えた。背が高いのですぐに分かる。
 彼はあたしを見つけると早足でこちらへやって来て、ベンチの前に立った。

「おす」
「おす」

 いつもの挨拶の後、並んでベンチに座ったものの、うまく言葉が出てこなかった。才造もまた、いつになく神妙な面持ちで何か言いたげにしている。

「……あの、さいぞー。さっきの桃の……」

 とあたしが言いかけるとほぼ同時に、才造も言葉を発した。

「俺……莉子と別れたくない」
「へっ?」
「莉子が俺との関係に満足してないっていうのは何となく気付いてた……けど俺、地味だし、ネクラだし、クソダサいぞうだし、莉子以外の女の子と付き合ったことなんてないから、どうしたら莉子を喜ばせられるのか分からなくて……そっ、それで味気なくなってて、ごめん」

 まぁ、あたしが言いたかったのはそういうことなんだけど。

「うん……それは、まぁ」
「でも俺、これから努力するから……莉子をリードできるように頑張るし、よっ、夜の方も……てっ、テクニック磨くし……けんっ、研究もする……」
「う、うん。そう言ってくれるのは嬉しいけど……」
「俺っ……莉子のこと、すっ、すごいすっ、すきっ……好きすぎて……それで、嫌な思いさせたらどーしようとか、きらっ、嫌われたらどーしようとか、そんなことばっかり考えて、それで自分からどうしたいとか言えなくなってて……えっ、エッチもあんまりガッついたら引かれるんじゃないかと思っ……でも本当はもっと……そんで何を言いたいかって言うと、俺はもう、莉子のいない人生なんて考えられないから……」
「さいぞー……」

 あたしは不意にキュンとしてしまった。
 噛み噛みでキョドキョドのしどろもどろ。耳だけじゃなく、顔まで真っ赤。不器用だけど必死で一生懸命な才造の訴えは、あたしの胸にストレートに響いた。

 けど、そこから才造の話はなんか思っていたのとちょっと違う方向に向かい始めた。

「だから……もし莉子がそうしたいなら、大崎とヨリ戻してもいいから……!」
「……はい?」

 目が点になった。何故そこで累くんが出てくる?

「他の男と遊んでもいい。俺は二番手でも何でもいいから……だから俺のことも捨てないで、少しだけでも莉子のそばに置いといて……!」

 何故そうなる――!!!!!??
 あたしは思わず白目を剥いた。どうした才造。今、一体どういう思考回路になってる?

「いやあのね、あたしそんなこと言ってないし、そもそもさいぞーと別れたいなんて微塵も……」
「馬鹿げてるし、情けないし、みっともないのも分かってる……でも、誰に何て思われても俺は莉子と……」
「いや、だから!」
「莉子ちゃんが腐女子でも構いませんか?」
「それでも構わないから!」
「莉子ちゃんが、貴男と僕が絡むところを見たいと潜在的な願望を持っていても?」
「上等!! てめぇからテクニック盗んでやるくらいの…………え?」

 そこで才造はハタッと我に返った。途中から、もうひとり別の声が混じってきたことにようやく気付いたらしい。
 ベンチの後ろの茂みからガサッと音が鳴り、累くんが姿を現した。もちろん、デフォルトのニコニコ笑顔で。

「莉子ちゃん、聞いた? 草田さんオッケーだって♡」
「え……おま、え……なん……えっ?」

 一気に青ざめた才造が口をパクパクさせると、累くんはその茶髪を爽やかにかきあげながら、虫除けスプレーをスッとこちらに示して見せた。

「すみません。立ち聞きするつもりはなかったんですが、この公園に新種の毒アリが出没したと聞いたもので。それで万に一つ、通りかかった草田さんや莉子ちゃんが刺されるようなことがあっては一大事だと思って、駆除を試みていたんです。そうしたら偶然、お二人の声が耳に入ってきたものですから……アリの動画を撮ろうとしていたら、お二人の会話もたまたま入ってしまいまして」

 よくもまぁそんな息をするように出まかせが出てくるもんだ。わざわざそのためにスプレー用意したのか。用途違うと思うんだけど――って、それはどうでもいい。

「それはさておき、失礼ながらとにかくお話は聞かせていただきました。見たところ僕ら三人、どうやら利害が一致しているように思うんですが」
「りっ……利害って……?」

 まだフリーズして動けずにいる才造に代わって、あたしが累くんに尋ねた。

「だからね、僕は草田さんと莉子ちゃんの二人が大好きだから、推しカプの幸せを後押ししたい。そして草田さんは、愛する莉子ちゃんをより満足させて確固たる絆を手に入れたい。そのために、僕からテクニックを学びたい――そういうことですよね♡」

 怪しげな微笑み。それでようやく事態の重さを理解し始めた才造が慌てて反論した。

「そっ……そんなこと言ってない! そういう意味じゃ……!」
「おや、さっきハッキリおっしゃいましたよねぇ♡ 何だったら再生して確かめます?」
「ぐっ……」
「すみません、意地悪でしたね♡ そして莉子ちゃん――君の望みって何だっけ?」

 ギクッッッッ

 あたしは唇を噛み締め、ダラダラと冷や汗を流した。
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