29 / 60
Episode2:No spice,No life
2-10 ギブミーデリカシー【才造視点】
しおりを挟む
俺は草田才造。通称・クソダサいぞう。
俺なんぞにはもったいない恋人の莉子と最近同棲を始めたが、昨夜、ちょっとした諍いですれ違い、莉子が家を出て行ってしまった。
事の発端は、俺が会社の後輩の郡さんから言付かったものを莉子に渡した所から始まった。
「これ、会社の後輩がなんか莉子に渡してくれって」
特に何も考えず、俺が郡さんに言われた通りにメモの束を差し出すと、莉子は首を傾げた。
「え、何?」
「料理の自作レシピだと。作り方のコツとか書いといたって」
「えっ、何それ。なんで?」
「さぁ……よく分からんけど」
「分からんじゃないよ。誰、後輩って。累くんじゃなくて?」
「違う」
莉子はそのメモに手を出そうとはせず、口をへの字に曲げた。これは――あまり歓迎されていない?
「なんでさいぞーの後輩が、あたしにこんなもの渡してくるの?」
「なんか……『草田主任に体にいいものを食べてもらいたい』とか、そんなようなこと言ってたけど」
郡さんが言っていたことを馬鹿正直に伝えると、莉子はあからさまに不快そうな顔をした。
「……あたしが料理下手すぎるって言いたいわけ?」
「や、俺は別にそうは思わないけど」
「いいよ、正直に言ってくれて。下手なのは事実だから仕方ないけど、だからってこういうことされると……ちょっとカチンとくるわ」
「え……そう?」
思ってもいなかった反応に、俺は焦った。というより、これを渡すことによって莉子がどう感じるか、深く考えていなかった。
「ねぇ。その後輩って、女の子?」
「そうだけど……」
「さいぞーに気があるんじゃないの?」
「えっ? いや、それはないっしょ」
寝耳に水だ。何を言い出すのかと肩透かしのような感覚だ。
「累くんが教えてくれたの。同じチームの新人の子が、さいぞーに片思いしてるっぽいって。その人なんじゃないの?」
何だそりゃ。大崎が? 俺は軽くパニックに陥った。
「や、確かにこれくれたのはチームの新人だけど……でも、俺に……え? いや、まさか」
「さいぞーが気付いてないだけだよ。何か思い当たることないの?」
「そういえば……このメモと一緒に弁当ももらった。今日の昼用にって」
「弁当!? もらって食べたの!!?」
突然、莉子の声が大きくなった。それによって俺は少しずつ変な汗が出始めた。
「え、ダメ……だった?」
「それ確定でしょ! 絶対さいぞーのこと狙ってるって!!? あたしの弁当見て、当てつけだよねぇ!!!?」
「や、え? いや……そんな深い意味はないと思うけど……」
「鈍感か!!! もし、仮に深い意味がないとしても! 彼氏が他の女の子から手作りの弁当もらって食べるとか……なんかすっごい嫌なんだけど!!? その子、あたしの存在知ってるんでしょ!? 累くんがクギを刺しといてくれたって言ってたもん! 彼女がいるって分かった上で渡してくるその子もその子だけど、断わんないさいぞーもさいぞーじゃない!!!?」
こうして怒られて、俺はようやくそれが無神経なことだと気が付いた。俺はどうやらデリカシーというものが欠如しているらしい。
「や、そっか……そうだよな、ごめん。でも、もったいないし……」
「もったいないけど……だからってさいぞーが処理する必要ある!? すみませんでしたねぇ、弁当もマトモに作れない彼女で!!!?」
「や、莉子の弁当、普通に美味かったけど……」
フォローしたつもりだったが、余計に油を注ぐことになってしまった。
「見えすいたウソつかなくていいよ! もし、逆のことされたらどう思う!? あたしがさいぞー以外の男にご飯奢ってもらったりしてたら……」
そこまで言いかけて、莉子はハタッと何かに気が付いたらしい。急に冷静になったようにトーンダウンした。
「……累くんにご飯作ってもらって食べてるな、あたし」
それな。確かにそれはある。
「でも、それは俺もいる前でだけじゃないの?」
「そうだけど。でもさいぞーからすれば、累くんの存在が意味分かんないよね」
「まぁ確かに、それは言えてる」
「あたし、さいぞーのこと言える立場じゃないのか……」
莉子がどんどん萎れるように小さくなっていく。
「いや、あのでも、それとこれとは話が……」
「累くんを受け入れてもらってるから、あたしもその後輩を受け入れなきゃいけない……?」
いやちょっと待て。何故そうなる。俺はポカーンと口を開けた。
「いや……そんなこと一言も言ってないけど。俺、別にその後輩のこと好きじゃないし」
「あたしだって累くんが好きなわけじゃない。いや嫌いじゃないけど、恋愛感情じゃない」
「それは知ってる。いや、莉子落ち着いて。俺が言うのもなんだけど、話ズレてない? 何の話かよく分からんくなってきた」
「あたしも分かんない……」
しばらく沈黙が流れた。俺も思考を整理するのに時間を要し、莉子もまた同じ様子だった。
やがて、莉子がクルッと俺に背中を向けて外出用のバッグを手に取った。
「……ごめん。ちょっと頭冷やしたいから、今日は桃のとこ行く」
「え。今から?」
「あたしばっかり勝手なこと言ってると思う。でも、そのお弁当とこのメモはすっごく嫌だった……」
泣きそうな顔でそう言い残し、莉子は出て行ってしまった。引き止めようと思ったが、何と声をかければいいのか分からなかった。
◇
ひどく情けないやら不甲斐ないやらで、俺も頭を整理しようとベランダに出て、しばらく夜風に当たった。満月が浮かぶ夜空の下で、俺は何故こうなったのか考えた。
――郡さんが差し出したものを俺が無防備に受け取ったことがそもそもの原因である。それは言い訳のしようもない。莉子が怒るのも当然だと思うし、何だったら嫉妬されているのが少しいい気分ですらある。
でも――あの変態の存在が話をややこしくしている。
気付いたら俺と莉子の生活にヌルッと入り込んで、当然のようにそこにいる。そんでなんか知らんが、体まで許して俺の新たな一面まで引き出されてしまっている。
よく考えたらアイツ、一体何なんだ――?
いや、気付くの遅くないか俺?
『ですから、単なるリコ才推しですって♡』
不意に満月が奴の顔に見え、そう言われたような気がしてハッと我に返った。俺今意識飛んでた?
直後、ハックショーーーーン!!! と、俺のでかいくしゃみが夜の住宅街に響き渡った。
俺なんぞにはもったいない恋人の莉子と最近同棲を始めたが、昨夜、ちょっとした諍いですれ違い、莉子が家を出て行ってしまった。
事の発端は、俺が会社の後輩の郡さんから言付かったものを莉子に渡した所から始まった。
「これ、会社の後輩がなんか莉子に渡してくれって」
特に何も考えず、俺が郡さんに言われた通りにメモの束を差し出すと、莉子は首を傾げた。
「え、何?」
「料理の自作レシピだと。作り方のコツとか書いといたって」
「えっ、何それ。なんで?」
「さぁ……よく分からんけど」
「分からんじゃないよ。誰、後輩って。累くんじゃなくて?」
「違う」
莉子はそのメモに手を出そうとはせず、口をへの字に曲げた。これは――あまり歓迎されていない?
「なんでさいぞーの後輩が、あたしにこんなもの渡してくるの?」
「なんか……『草田主任に体にいいものを食べてもらいたい』とか、そんなようなこと言ってたけど」
郡さんが言っていたことを馬鹿正直に伝えると、莉子はあからさまに不快そうな顔をした。
「……あたしが料理下手すぎるって言いたいわけ?」
「や、俺は別にそうは思わないけど」
「いいよ、正直に言ってくれて。下手なのは事実だから仕方ないけど、だからってこういうことされると……ちょっとカチンとくるわ」
「え……そう?」
思ってもいなかった反応に、俺は焦った。というより、これを渡すことによって莉子がどう感じるか、深く考えていなかった。
「ねぇ。その後輩って、女の子?」
「そうだけど……」
「さいぞーに気があるんじゃないの?」
「えっ? いや、それはないっしょ」
寝耳に水だ。何を言い出すのかと肩透かしのような感覚だ。
「累くんが教えてくれたの。同じチームの新人の子が、さいぞーに片思いしてるっぽいって。その人なんじゃないの?」
何だそりゃ。大崎が? 俺は軽くパニックに陥った。
「や、確かにこれくれたのはチームの新人だけど……でも、俺に……え? いや、まさか」
「さいぞーが気付いてないだけだよ。何か思い当たることないの?」
「そういえば……このメモと一緒に弁当ももらった。今日の昼用にって」
「弁当!? もらって食べたの!!?」
突然、莉子の声が大きくなった。それによって俺は少しずつ変な汗が出始めた。
「え、ダメ……だった?」
「それ確定でしょ! 絶対さいぞーのこと狙ってるって!!? あたしの弁当見て、当てつけだよねぇ!!!?」
「や、え? いや……そんな深い意味はないと思うけど……」
「鈍感か!!! もし、仮に深い意味がないとしても! 彼氏が他の女の子から手作りの弁当もらって食べるとか……なんかすっごい嫌なんだけど!!? その子、あたしの存在知ってるんでしょ!? 累くんがクギを刺しといてくれたって言ってたもん! 彼女がいるって分かった上で渡してくるその子もその子だけど、断わんないさいぞーもさいぞーじゃない!!!?」
こうして怒られて、俺はようやくそれが無神経なことだと気が付いた。俺はどうやらデリカシーというものが欠如しているらしい。
「や、そっか……そうだよな、ごめん。でも、もったいないし……」
「もったいないけど……だからってさいぞーが処理する必要ある!? すみませんでしたねぇ、弁当もマトモに作れない彼女で!!!?」
「や、莉子の弁当、普通に美味かったけど……」
フォローしたつもりだったが、余計に油を注ぐことになってしまった。
「見えすいたウソつかなくていいよ! もし、逆のことされたらどう思う!? あたしがさいぞー以外の男にご飯奢ってもらったりしてたら……」
そこまで言いかけて、莉子はハタッと何かに気が付いたらしい。急に冷静になったようにトーンダウンした。
「……累くんにご飯作ってもらって食べてるな、あたし」
それな。確かにそれはある。
「でも、それは俺もいる前でだけじゃないの?」
「そうだけど。でもさいぞーからすれば、累くんの存在が意味分かんないよね」
「まぁ確かに、それは言えてる」
「あたし、さいぞーのこと言える立場じゃないのか……」
莉子がどんどん萎れるように小さくなっていく。
「いや、あのでも、それとこれとは話が……」
「累くんを受け入れてもらってるから、あたしもその後輩を受け入れなきゃいけない……?」
いやちょっと待て。何故そうなる。俺はポカーンと口を開けた。
「いや……そんなこと一言も言ってないけど。俺、別にその後輩のこと好きじゃないし」
「あたしだって累くんが好きなわけじゃない。いや嫌いじゃないけど、恋愛感情じゃない」
「それは知ってる。いや、莉子落ち着いて。俺が言うのもなんだけど、話ズレてない? 何の話かよく分からんくなってきた」
「あたしも分かんない……」
しばらく沈黙が流れた。俺も思考を整理するのに時間を要し、莉子もまた同じ様子だった。
やがて、莉子がクルッと俺に背中を向けて外出用のバッグを手に取った。
「……ごめん。ちょっと頭冷やしたいから、今日は桃のとこ行く」
「え。今から?」
「あたしばっかり勝手なこと言ってると思う。でも、そのお弁当とこのメモはすっごく嫌だった……」
泣きそうな顔でそう言い残し、莉子は出て行ってしまった。引き止めようと思ったが、何と声をかければいいのか分からなかった。
◇
ひどく情けないやら不甲斐ないやらで、俺も頭を整理しようとベランダに出て、しばらく夜風に当たった。満月が浮かぶ夜空の下で、俺は何故こうなったのか考えた。
――郡さんが差し出したものを俺が無防備に受け取ったことがそもそもの原因である。それは言い訳のしようもない。莉子が怒るのも当然だと思うし、何だったら嫉妬されているのが少しいい気分ですらある。
でも――あの変態の存在が話をややこしくしている。
気付いたら俺と莉子の生活にヌルッと入り込んで、当然のようにそこにいる。そんでなんか知らんが、体まで許して俺の新たな一面まで引き出されてしまっている。
よく考えたらアイツ、一体何なんだ――?
いや、気付くの遅くないか俺?
『ですから、単なるリコ才推しですって♡』
不意に満月が奴の顔に見え、そう言われたような気がしてハッと我に返った。俺今意識飛んでた?
直後、ハックショーーーーン!!! と、俺のでかいくしゃみが夜の住宅街に響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる