【完結】Spice up my life〜元カレが今カレに一目惚れしたら目の前で薔薇が舞い散るようになってしまったんですが

ていくみー

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Episode2:No spice,No life

2-10 ギブミーデリカシー【才造視点】

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 俺は草田才造。通称・クソダサいぞう。

 俺なんぞにはもったいない恋人の莉子と最近同棲を始めたが、昨夜、ちょっとしたいさかいですれ違い、莉子が家を出て行ってしまった。
 事の発端は、俺が会社の後輩の郡さんから言付かったものを莉子に渡した所から始まった。

「これ、会社の後輩がなんか莉子に渡してくれって」

 特に何も考えず、俺が郡さんに言われた通りにメモの束を差し出すと、莉子は首を傾げた。

「え、何?」
「料理の自作レシピだと。作り方のコツとか書いといたって」
「えっ、何それ。なんで?」
「さぁ……よく分からんけど」
「分からんじゃないよ。誰、後輩って。累くんじゃなくて?」
「違う」

 莉子はそのメモに手を出そうとはせず、口をへの字に曲げた。これは――あまり歓迎されていない?

「なんでさいぞーの後輩が、あたしにこんなもの渡してくるの?」
「なんか……『草田主任に体にいいものを食べてもらいたい』とか、そんなようなこと言ってたけど」

 郡さんが言っていたことを馬鹿正直に伝えると、莉子はあからさまに不快そうな顔をした。

「……あたしが料理下手すぎるって言いたいわけ?」
「や、俺は別にそうは思わないけど」
「いいよ、正直に言ってくれて。下手なのは事実だから仕方ないけど、だからってこういうことされると……ちょっとカチンとくるわ」
「え……そう?」

 思ってもいなかった反応に、俺は焦った。というより、これを渡すことによって莉子がどう感じるか、深く考えていなかった。

「ねぇ。その後輩って、女の子?」
「そうだけど……」
「さいぞーに気があるんじゃないの?」
「えっ? いや、それはないっしょ」

 寝耳に水だ。何を言い出すのかと肩透かしのような感覚だ。

「累くんが教えてくれたの。同じチームの新人の子が、さいぞーに片思いしてるっぽいって。その人なんじゃないの?」

 何だそりゃ。大崎が? 俺は軽くパニックに陥った。

「や、確かにこれくれたのはチームの新人だけど……でも、俺に……え? いや、まさか」
「さいぞーが気付いてないだけだよ。何か思い当たることないの?」
「そういえば……このメモと一緒に弁当ももらった。今日の昼用にって」
「弁当!? もらって食べたの!!?」

 突然、莉子の声が大きくなった。それによって俺は少しずつ変な汗が出始めた。

「え、ダメ……だった?」
「それ確定でしょ! 絶対さいぞーのこと狙ってるって!!? あたしの弁当見て、当てつけだよねぇ!!!?」
「や、え? いや……そんな深い意味はないと思うけど……」
「鈍感か!!! もし、仮に深い意味がないとしても! 彼氏が他の女の子から手作りの弁当もらって食べるとか……なんかすっごい嫌なんだけど!!? その子、あたしの存在知ってるんでしょ!? 累くんがクギを刺しといてくれたって言ってたもん! 彼女がいるって分かった上で渡してくるその子もその子だけど、断わんないさいぞーもさいぞーじゃない!!!?」

 こうして怒られて、俺はようやくそれが無神経なことだと気が付いた。俺はどうやらデリカシーというものが欠如しているらしい。

「や、そっか……そうだよな、ごめん。でも、もったいないし……」
「もったいないけど……だからってさいぞーが処理する必要ある!? すみませんでしたねぇ、弁当もマトモに作れない彼女で!!!?」
「や、莉子の弁当、普通に美味かったけど……」

 フォローしたつもりだったが、余計に油を注ぐことになってしまった。

「見えすいたウソつかなくていいよ! もし、逆のことされたらどう思う!? あたしがさいぞー以外の男にご飯奢ってもらったりしてたら……」

 そこまで言いかけて、莉子はハタッと何かに気が付いたらしい。急に冷静になったようにトーンダウンした。

「……累くんにご飯作ってもらって食べてるな、あたし」

 それな。確かにそれはある。

「でも、それは俺もいる前でだけじゃないの?」
「そうだけど。でもさいぞーからすれば、累くんの存在が意味分かんないよね」
「まぁ確かに、それは言えてる」
「あたし、さいぞーのこと言える立場じゃないのか……」

 莉子がどんどん萎れるように小さくなっていく。

「いや、あのでも、それとこれとは話が……」
「累くんを受け入れてもらってるから、あたしもその後輩を受け入れなきゃいけない……?」

 いやちょっと待て。何故そうなる。俺はポカーンと口を開けた。

「いや……そんなこと一言も言ってないけど。俺、別にその後輩のこと好きじゃないし」
「あたしだって累くんが好きなわけじゃない。いや嫌いじゃないけど、恋愛感情じゃない」
「それは知ってる。いや、莉子落ち着いて。俺が言うのもなんだけど、話ズレてない? 何の話かよく分からんくなってきた」
「あたしも分かんない……」

 しばらく沈黙が流れた。俺も思考を整理するのに時間を要し、莉子もまた同じ様子だった。
 やがて、莉子がクルッと俺に背中を向けて外出用のバッグを手に取った。

「……ごめん。ちょっと頭冷やしたいから、今日は桃のとこ行く」
「え。今から?」
「あたしばっかり勝手なこと言ってると思う。でも、そのお弁当とこのメモはすっごく嫌だった……」

 泣きそうな顔でそう言い残し、莉子は出て行ってしまった。引き止めようと思ったが、何と声をかければいいのか分からなかった。





 ひどく情けないやら不甲斐ないやらで、俺も頭を整理しようとベランダに出て、しばらく夜風に当たった。満月が浮かぶ夜空の下で、俺は何故こうなったのか考えた。

 ――郡さんが差し出したものを俺が無防備に受け取ったことがそもそもの原因である。それは言い訳のしようもない。莉子が怒るのも当然だと思うし、何だったら嫉妬されているのが少しいい気分ですらある。

 でも――あの変態おおさきの存在が話をややこしくしている。

 気付いたら俺と莉子の生活にヌルッと入り込んで、当然のようにそこにいる。そんでなんか知らんが、体まで許して俺の新たな一面まで引き出されてしまっている。

 よく考えたらアイツ、一体何なんだ――?

 いや、気付くの遅くないか俺?


『ですから、単なるリコ才推しですって♡』


 不意に満月が奴の顔に見え、そう言われたような気がしてハッと我に返った。俺今意識飛んでた?
 直後、ハックショーーーーン!!! と、俺のでかいくしゃみが夜の住宅街に響き渡った。

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