最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

文字の大きさ
191 / 214

第180話

しおりを挟む
 現在マルスさんのお店には俺とジェスさんとマルスさんの3人だけで、奥の部屋に俺とジェスさんの2人が向かい合って座り、その間にマルスさんが居るというような状況だった。

 こうなったのはジェスさんが俺の宝石を欲しがったからで、マルスさんも以前からジェスさんがこの宝石を欲しがっていたことは知っていたらしい。

「詳しくお話を聞いても良いですか?」
「はい」

 ジェスさんが俺の宝石を欲しがったのは、亡くなった弟であるフォルスさんが命をかけたというこの宝石を、ただ持っていたいというシンプルな願いかららしい。
 サイズは全く違うが種類は同じだし、出来ることならば譲って欲しいのだとか。

「マルスさんはこの話を知ってたんですか?」
「はい、少し前にあの宝石と同じものを今加工しているというお話を雑談中にしまして。ですが、私はあくまでもユーマさんへこの宝石をお渡しすることがお仕事ですから、交渉はユーマさんへ直接行ってくださいとお願いするつもりでした。勿論ユーマさんが手放したくないということであれば、私の方からお断りしようとしていましたし。ただ、まさかこれ程タイミング良く来られるとは思いませんでした」
「運が良かった。私も実物を見たのは今日が初めてだったので」

 マルスさんはジェスさんに誰の宝石なのかは言ってなかったらしく、俺にジェスさんとの交渉を受けるかどうかはこっそり聞いてくれるつもりだったらしい。
 しかしジェスさんがタイミング良く現れたことによって、隠すことが出来なくなった。
 まぁジェスさんは優しい人だし、俺が本気で断れば諦めてくれるとは思うけど。
 
 ただ、それにしてもジェスさんはこの宝石を気に入ったのか、本当に譲って欲しそうな雰囲気だ。

「もしかしてこの宝石はジェスさんにとってフォルスさんの形見みたいな感じですか?」
「いや、そういうわけではないので、無理に譲ってくれようとはしなくて良いですよ。私には栞がありますから」

 そう言ってジェスさんは俺が見つけたあの栞を大事そうに見せてくれる。

 形見とかなら色々考えたけど、そうでないならこれは普通の交渉をして良いだろう。

「分かりました。では、この宝石をジェスさんに売るかどうかは、条件次第ということにしても良いですか?」
「はい。私もその条件を聞いてから、買い取るかどうかは決めます」

 と、ここから交渉が始まるぞ! って感じの雰囲気なのだが、少しジェスさんには待ってもらう。

「お、良かった。今丁度ログインしてきたっぽいな」

 俺はある人物にこのマルス宝飾店へと今から来れるかの確認を取る。

「流石にもうはじめの街からいけるボスは皆倒してるんだな」

 すぐに向かいますという返事が来たので、俺はジェスさんの待つ部屋に戻り、条件の1つ目を言う。

「この宝石をお渡しする条件1つ目は」
「……」
「今から来る俺の代理人とジェスさんには交渉を行っていただくというのでお願いします」
「はい?」



「お待たせしましたです!」
「あ、小岩さん急に呼び出してごめんね」
「いえいえ、ユーマさんに呼ばれるのであればどこでも行くです!」

 昨日変な空気でお別れしたが、今日は全くその雰囲気もないし、やっぱり一晩寝れば忘れるもんだな。

「じゃあ早速小岩さんに今からやってほしいことがあるんだけど」
「何でもやるです!」
「……俺の代わりに交渉して欲しいんだよね」
「交渉です?」
「色々分からないことは教えてくれる人が居るし、そこまで緊張しなくて良いから。俺も横で見てるし」
「わからないですけど、分かったです!」

 こうしてやる気満々の小岩さんを奥の部屋へと連れて行く。

「お待たせしました。うちのクランの小岩さんです」
「よろしくお願いするです」
「この店をやっているマルスと言います。今回の交渉にあたって分からないことは私にお聞きください」
「私はあなたと交渉するジェスです。よろしくお願いします」

 先程まで俺が座っていた椅子に小岩さんが座る。

「じゃあ今から小岩さんには俺の代わりに交渉をしてもらうんだけど、その内容を伝えるね。まずここにある宝石をジェスさんは買い取りたいらしくて、出来るだけ良い条件で小岩さんには売って欲しい。それは高く売るでもいいし、他の条件をつけるでもいいし、とにかく小岩さんのやりたいように、自由にやってみて」
「分かったです」
「事前情報として入れておくと良いのは、ジェスさんが公爵家の貴族だということ。この宝石を結構欲しがってること。あとは、そうだなぁ、俺に恩を感じてくれてるんだけど、今回はそれを忘れてって言ってるから、この交渉の場において、どっちの立場が強いとかは無いって思って良いよ。あとは隣にいるマルスさんに宝石の値段とか、気になる情報はその都度聞いてみて」

 そう言うと小岩さんは早速マルスさんに宝石のことをいろいろ質問している。

「もう一度言うけど、小岩さんの好きなようにやってね。俺の代理人ってよりも、本当に小岩さんが交渉をするならって考えてやって欲しい。それこそ今後情報屋をする時に役立つような条件を付けたっていいし」
「頑張るです」

 急に呼ばれていきなりやったこともない商品の取引を任されるというのは、小岩さんからしたら迷惑だっただろうか?
 いや、寝起きだからか分からないけど良い感じでいつもより緊張感がなさそうだし、タイミングとしてはバッチリだったかもしれない。

「じゃあそろそろいける?」
「お願いするです」
「こちらこそお願いします」

 この宝石をめぐる交渉は、どちらも感情的というよりは、割と静かな雰囲気で始まった。

「ジェスさんとお呼びして良いですか?」
「勿論です。私はユーマ様と同じく小岩さんと呼んでも?」
「それでお願いするです」
「では早速本題に入りますが、その宝石を私は買いたいと思っています」
「いくらでです?」
「1億Gでどうでしょうか」
「この宝石の価値は1億5000万Gです。オークションに出せば更に5000万、場合によっては2億5000万Gまで高くなるです」
「それは言い過ぎです。確かにオークションだと多少高く売れますが、基本的には相場よりも3000万G高くなれば良い方です。どうしてもこの宝石を欲しいと思う者がその場に2組以上居る状況でもない限り、そこまで値段が吊り上がることはありません」
「そうだとしても1億Gは安すぎるです」
「では1億3000万Gでどうでしょうか」
「相場よりも安く買うですか?」
「お金ではなく何か他の部分で2000万Gを補いたいですね」
「2000万G……」

 ジェスさんに言われて2000万G分の何かを小岩さんは必死に考えている。

「ジェスさんはどの国の貴族です?」
「王国です」
「王国の公爵家ということは、いつでも王様に会えるです?」
「いえ、そのようなことは出来ませんが、時間を決めて少し話をするくらいなら出来るような立場ですね」
「凄いです」
「ありがとうございます」

 俺も知らなかったけど、ジェスさんってそんなに凄い人だったのか。

「……決めましたです。自分が王国に行った時、商売をする時にジェスさんの力を借りたいです」
「具体的にお願いします」
「貴族の集まるパーティーに自分の商品を出して欲しいです。それか、自分がいくつかの商品をお渡しするので、気に入ったものがあれば公爵家の認めた商品として販売させて欲しいです」
「貴族のパーティーに小岩さんの商品を、というのは約束出来ませんが、私が気に入ったものであれば名前を出してもらって構いません」
「それともう1つ、自分がお渡しした商品の感想を教えて欲しいです」
「それは私が気に入った商品以外の感想もですか?」
「全く気に入らなかったものはいいです。気に入ったものと、何か改善して欲しいと思ったものは感想が欲しいです」
「分かりました。商品の数は5つ程度でお願いします。食べ物は出来れば避けていただけると助かりますね」
「分かったです」

 これでどうやら決まったっぽい。
 
 意識してかは分からないが、小岩さんは交渉が始まってから全くマルスさんに質問することはなかったし、自分の力だけで交渉を進めようとしたのは良かった。
 まぁ俺は全然こういう取引が得意な方ではないと思うし、上から目線で言えるような立場でもないが。

「お疲れ様。結果としては1億3000万Gと、公爵家との繋がりって感じかな?」
「途中からドキドキし始めて、わけが分からなくなったです」
「とても堂々としていて良かったですよ」
「私も見ているだけでしたが、良かったと思います」

 皆から小岩さんの今の取引は好評だった。
 何よりも良かったのが、貴族であるジェスさんの気分を損ねるような場面がほぼなかったのが良かったらしい。
 俺やマルスさんはジェスさんがどういう人か知ってるし、多少失礼があっても笑って許してくれると思っているが、貴族はそういう人ばかりではないため、小岩さんの強気過ぎず弱気過ぎずの絶妙な空気感が良かったのだとか。

「そもそも貴族との交渉など、相場より高く買い取ってくれることはほぼ確定していますから」
「あ、そうなんですか? 俺は貴族相手でも値段交渉をするって思ってましたけど」
「貴族にとって見栄は大事なんですよ。命より重いこともあります」
「じゃあ自分はもしかして大損したです?」
「いえいえ、今回はユーマ様に厳しくお願いしますと頼まれてやったことなので、全くそこは気にしなくて良いと思いますよ。私も少し慣れないことをしました」

 俺は事前にジェスさんへ、小岩さんとの交渉は出来るだけ自分が得をするようにお願いします、と頼んでおいたから、小岩さんは相場よりも安く売ることになったのだろう。
 実際ジェスさんとしては宝石を安く買うだけでなく、小岩さんの商品を5つ渡されて感想を言うだけだし、気に入った商品があればラッキーで、面倒臭かったら最悪全部気に入らなかったと言えばそれで終わりだ。もちろんジェスさんがそんなことするとは思ってないけど。

「少し今回のやりとりで気になったことをいいますね」
「お願いするです」

 こうして交渉が終わったあとはジェスさんから小岩さんにフィードバックをしてもらって、それを聞きながら俺とマルスさんも会話の途中で少し口を出すのだった。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

【完結】VRMMOでスライム100万匹倒して最強になった僕は経験値で殴るゲームやってます

鳥山正人
ファンタジー
検証が大好きな主人公、三上ハヤト。 このゲームではブロンズ称号、シルバー称号、ゴールド称号が確認されている。 それ以上の称号があるかもしれないと思い、スライムを100万匹倒したらプラチナ称号を手に入れた主人公。 その称号効果はスライム種族特効効果。 そこからは定番の経験値スライムを倒して最強への道かと思ったら・・・ このゲームは経験値を分け与える事が出来て、売買出来るゲーム。 主人公は経験値でモンスターを殴ります。 ────── 自筆です。

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

もふもふで始めるのんびり寄り道生活 便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり
ファンタジー
【書籍化!】第17回ファンタジー小説大賞『癒し系ほっこり賞』受賞作です。 (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~』です) ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。 最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。 この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう! ……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは? *** ゲーム生活をのんびり楽しむ話。 バトルもありますが、基本はスローライフ。 主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。 カクヨム様でも公開しております。

処理中です...