9 / 35
1.波紋を描く、異色の水滴
6
しおりを挟む
脱衣所のほぼ機能していないボロボロの籠にバスタオルを置いて服に手を掛けると、そのまま腕を上げ───、
「い゛ッ…!?」
…………痛い。
あの男はどれだけ本気で殴ったんだ。いつもなら少し眉根を寄せる程度だというのに、こんな声が出る程だとは。
か、勘弁してくれ…
ゼェハァと痛みに呼吸が乱れる。それからシャツを脱ぐ時も、上半身を折り曲げてズボンをずり下ろす時も、裸になるまでも、都度全身がギシギシと悲鳴を上げていた。
「これが…もう暫く続くのか」
風呂場で髪を洗いながら考える。
Swisが会社で活躍すればするほど、西園寺の心に深く傷を残しその流れ弾が紫ヶ崎へ飛んでいく。それを分かっていて尚、いつも通りに会社へ行くつもりでいるのだ。紫ヶ崎本人だって当然これが異常であることは分かっている。
しかし、何より変わってしまうことが嫌だったのだ。
それなりに頭を洗い、次は身体へと手を伸ばして…一瞬、躊躇した。
何せ長年の不摂生が祟り元々線の細い身体は最早骨と皮のみ。そんな所に成人男性の蹴りや殴打が入っている状態で、病院にも行かずに毎日当たり前のように過ごせているのが奇跡のようだった。
「ぅあ゛…ッ」
恐る恐る泡の着いた手で触れる。あまりの痛みでびくりと身体が跳ねてしまった。そうなったらもう全身痛くて結局何処を触っても同じだと気付く。
その後何度も痛みに呻き声を上げていると、隣から「うるせぇ」という意が込められた壁ドンをくらってしまった。それからは声を押し殺しながら慎重に全身の泡を流すところまで終えた。
「っは、はぁ…はぁ………」
小さな浴槽の縁に身体を預け、声量に気をつけながら息を吐く。浴槽に張られた透明なはずのお湯が濁って見えた。
数分後か、数十分後か。のろのろと立ち上がりゆっくりと風呂場を出る。もうとっくに身体は冷えていた。
そろそろ仕事だし、寝ないと…
適当にタオルで全身を拭くと、部屋着に着替え布団に横になる。何年も着続けているのでもうボロボロでどこも擦り切れており、夏だというのにエアコン無しでも涼しい。冬になるとそれはもう震えが止まらないのだが。
さて寝ようと目を閉じれば、様々な光景が浮かんでは脳にこびりつく。そのどれもが紫ヶ崎を潰そうとする大きな岩のようで、くるしい。
目を開けてもう一度ぎゅう、と閉じる。
疲れているはずなのに、寝ろ寝ろ寝ろ寝ろと心の中で何度そう言っても、中々寝付けることはできなかった。そうして満足とは言い難い浅い浅い眠りについて、一瞬で朝になるのだ。
「い゛ッ…!?」
…………痛い。
あの男はどれだけ本気で殴ったんだ。いつもなら少し眉根を寄せる程度だというのに、こんな声が出る程だとは。
か、勘弁してくれ…
ゼェハァと痛みに呼吸が乱れる。それからシャツを脱ぐ時も、上半身を折り曲げてズボンをずり下ろす時も、裸になるまでも、都度全身がギシギシと悲鳴を上げていた。
「これが…もう暫く続くのか」
風呂場で髪を洗いながら考える。
Swisが会社で活躍すればするほど、西園寺の心に深く傷を残しその流れ弾が紫ヶ崎へ飛んでいく。それを分かっていて尚、いつも通りに会社へ行くつもりでいるのだ。紫ヶ崎本人だって当然これが異常であることは分かっている。
しかし、何より変わってしまうことが嫌だったのだ。
それなりに頭を洗い、次は身体へと手を伸ばして…一瞬、躊躇した。
何せ長年の不摂生が祟り元々線の細い身体は最早骨と皮のみ。そんな所に成人男性の蹴りや殴打が入っている状態で、病院にも行かずに毎日当たり前のように過ごせているのが奇跡のようだった。
「ぅあ゛…ッ」
恐る恐る泡の着いた手で触れる。あまりの痛みでびくりと身体が跳ねてしまった。そうなったらもう全身痛くて結局何処を触っても同じだと気付く。
その後何度も痛みに呻き声を上げていると、隣から「うるせぇ」という意が込められた壁ドンをくらってしまった。それからは声を押し殺しながら慎重に全身の泡を流すところまで終えた。
「っは、はぁ…はぁ………」
小さな浴槽の縁に身体を預け、声量に気をつけながら息を吐く。浴槽に張られた透明なはずのお湯が濁って見えた。
数分後か、数十分後か。のろのろと立ち上がりゆっくりと風呂場を出る。もうとっくに身体は冷えていた。
そろそろ仕事だし、寝ないと…
適当にタオルで全身を拭くと、部屋着に着替え布団に横になる。何年も着続けているのでもうボロボロでどこも擦り切れており、夏だというのにエアコン無しでも涼しい。冬になるとそれはもう震えが止まらないのだが。
さて寝ようと目を閉じれば、様々な光景が浮かんでは脳にこびりつく。そのどれもが紫ヶ崎を潰そうとする大きな岩のようで、くるしい。
目を開けてもう一度ぎゅう、と閉じる。
疲れているはずなのに、寝ろ寝ろ寝ろ寝ろと心の中で何度そう言っても、中々寝付けることはできなかった。そうして満足とは言い難い浅い浅い眠りについて、一瞬で朝になるのだ。
387
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました
大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年──
かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。
そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。
冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……?
若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる