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May
5月10日(金) 方言
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「博多弁って、方言の中ではかなり人気らしいな」
お昼休み。別名、ごはん休憩。
いくつかのグループが形成され、各々が机を囲んでお箸を進める時間帯。
いつものように、そら・私・詩音・畔上くんを交えた四人で口をモグモグと動かしていれば、これまたいつものように何気なく話題が振られる。
「へぇ、でも博多弁って言われても、他の方言と比べてあんまり特徴ない気が……」
「だ、だよね。ポロッと出ることはあっても、基本的には標準語で話す方が多いと思う」
反応する二人をよそに、私はモシャモシャと購買で買った菓子パンを摘んでいた。
お母さんが寝坊したためにこんな昼食であるのだが、少しはおかずが欲しくなってくる。
特に、そらのお弁当に光っているその唐揚げなんか……。
「そうだよな、皆が思うほど福岡県民って方言は使わないんだよ。でもまぁ、そんな中でも一般的に知られてるのは『〇〇とーと』とかか?」
「あぁ、『今何しとると?』『テレビ見とーと』みたいなやつか」
「『とっとーと? とっとーと』ってCMもあるしな」
「如水庵のやつだな」
話題に花が咲き始める中、欲求は心の中でドンドンと大きくなっていく。
ヤバい……本当に食べたくなってきた。
「……『〇〇たい』っていうのも言う気がする、と思う」
「確かに、それも多いね。俺たちはあまり使わないけど、年配の人に多いかな。『今、忙しいったい』みたいに」
「そらー、お弁当分けて」
「……だな。まぁでも、語尾関連は大阪なんかと比べると弱いけど」
おー、サンクス。
私の視線を読んだのか、欲していた唐揚げをお箸でつまんで口へと運んでくれる。
んー……うまうま。
お礼に私の菓子パンをあげてやろう。
「弱いっていうか、割とどこでも通じるような言葉だからな」
「逆に、福岡だけでしか通じない方言ってあるかな……?」
「うーん」と考え込む三人。
その内の一人は、私が差し出した一欠片のパンを咀嚼していた。
「…………。……アレだな。有名なのは『おっとっと取っとって言っとったのに、何で取っとってくれんかったと?』ってやつ」
「あー、それな。確かに色んなところでネタになってる。――なら、『直す』もそうだよな」
「こっちでは『仕舞う』って意味でよく使うよね」
「…………ねぇ、そら。もういっこ」
袖を引っ張り、さらにお願いしてみれば、今度は玉子焼き。
……うむ、これもフワフワで美味しい。
「てか、かなた。お前もかたれよ。文系得意なんだし、寝ぼけた時は博多弁使ってるんだから分かるだろ?」
「えぇー……」
面倒だなぁ。
……ていうか、寝ぼけた時って何? 私、そんな覚えないんだけど。
「おかず」
ぐっ…………。
そのために、お返しとしてパンをあげてたのだが、それじゃダメだったか。
「……そらがさっき使ってた『かたる・かたらせる』。それがそもそも方言」
標準語で言うところの『仲間に入る・仲間に入れる』という意味だ。
それを三人に伝えてあげると、皆一様に驚きの声を上げた。
「は? マジ……?」
「へぇー、初めて知った」
「かなちゃん、他にはどんなのがあるの?」
意外と皆知らないんだな。
というのが、私の感想である。
特に成績トップの畔上くんや、読書好きのそらなんかは知っててもいい内容だと思うのだが……。
「ほか? 他は……『くらす』、『からう』、あと『パゲる』とかもそうだったはず」
ちなみに、それぞれが『殴る』、『背負う』、『壊れる』である。
「パゲる、は今でも使うな」
「くらす、も昔は親からよく言われたよ。特に怒られている時なんかは」
「ランドセルをからった子供、みたいに皆使ってるけどアレって方言だったんだね」
そして、これもまた同様に驚かれる。
まぁでも、特に『からう』なんかは方言っぽさのない字面だし、標準語だと思うのも無理はないかもしれない。
「けど、博多弁って言われるものの殆どは九州全域で使われていることが多いから、もう九州弁って名乗った方が良いかもだけど……」
だから、話の趣旨である『福岡でしか通じない方言』というものは存外ないのだ。
他にも、『ぶすくれる』なんて言葉もあるけど、それもまたどこかで同じように使われているのだろう、と思う。
「なるほどな。そう考えると、博多弁が珍しくないっていう俺たちの認識にも納得がいくな」
「ど、どういうこと……? 翔真くん、分かる?」
「福岡の言葉が九州の大部分に伝わっているのなら、それが全国的に広がっていると解釈しても仕方ない――ってことだろ?」
畔上くんがそう注釈を付けてあげると、そらはしたり顔で頷く。
「そういうこと」
ともすれば、いつの間にか時間は経っていたようでチャイムが鳴り響いた。
「お前らぁ、要らんもんはなおして早く授業の準備をしろ」
そんな低い声とともに入ってきたのは、少し強面な保健の先生。
だけれど、先程の話をしていた手前、私たちの意識は使われた方言の方へと向いてしまう。
思いのほかありふれた言葉であったという事実を感じ、互いに顔を見合わせ、ほくそ笑むのであった。
お昼休み。別名、ごはん休憩。
いくつかのグループが形成され、各々が机を囲んでお箸を進める時間帯。
いつものように、そら・私・詩音・畔上くんを交えた四人で口をモグモグと動かしていれば、これまたいつものように何気なく話題が振られる。
「へぇ、でも博多弁って言われても、他の方言と比べてあんまり特徴ない気が……」
「だ、だよね。ポロッと出ることはあっても、基本的には標準語で話す方が多いと思う」
反応する二人をよそに、私はモシャモシャと購買で買った菓子パンを摘んでいた。
お母さんが寝坊したためにこんな昼食であるのだが、少しはおかずが欲しくなってくる。
特に、そらのお弁当に光っているその唐揚げなんか……。
「そうだよな、皆が思うほど福岡県民って方言は使わないんだよ。でもまぁ、そんな中でも一般的に知られてるのは『〇〇とーと』とかか?」
「あぁ、『今何しとると?』『テレビ見とーと』みたいなやつか」
「『とっとーと? とっとーと』ってCMもあるしな」
「如水庵のやつだな」
話題に花が咲き始める中、欲求は心の中でドンドンと大きくなっていく。
ヤバい……本当に食べたくなってきた。
「……『〇〇たい』っていうのも言う気がする、と思う」
「確かに、それも多いね。俺たちはあまり使わないけど、年配の人に多いかな。『今、忙しいったい』みたいに」
「そらー、お弁当分けて」
「……だな。まぁでも、語尾関連は大阪なんかと比べると弱いけど」
おー、サンクス。
私の視線を読んだのか、欲していた唐揚げをお箸でつまんで口へと運んでくれる。
んー……うまうま。
お礼に私の菓子パンをあげてやろう。
「弱いっていうか、割とどこでも通じるような言葉だからな」
「逆に、福岡だけでしか通じない方言ってあるかな……?」
「うーん」と考え込む三人。
その内の一人は、私が差し出した一欠片のパンを咀嚼していた。
「…………。……アレだな。有名なのは『おっとっと取っとって言っとったのに、何で取っとってくれんかったと?』ってやつ」
「あー、それな。確かに色んなところでネタになってる。――なら、『直す』もそうだよな」
「こっちでは『仕舞う』って意味でよく使うよね」
「…………ねぇ、そら。もういっこ」
袖を引っ張り、さらにお願いしてみれば、今度は玉子焼き。
……うむ、これもフワフワで美味しい。
「てか、かなた。お前もかたれよ。文系得意なんだし、寝ぼけた時は博多弁使ってるんだから分かるだろ?」
「えぇー……」
面倒だなぁ。
……ていうか、寝ぼけた時って何? 私、そんな覚えないんだけど。
「おかず」
ぐっ…………。
そのために、お返しとしてパンをあげてたのだが、それじゃダメだったか。
「……そらがさっき使ってた『かたる・かたらせる』。それがそもそも方言」
標準語で言うところの『仲間に入る・仲間に入れる』という意味だ。
それを三人に伝えてあげると、皆一様に驚きの声を上げた。
「は? マジ……?」
「へぇー、初めて知った」
「かなちゃん、他にはどんなのがあるの?」
意外と皆知らないんだな。
というのが、私の感想である。
特に成績トップの畔上くんや、読書好きのそらなんかは知っててもいい内容だと思うのだが……。
「ほか? 他は……『くらす』、『からう』、あと『パゲる』とかもそうだったはず」
ちなみに、それぞれが『殴る』、『背負う』、『壊れる』である。
「パゲる、は今でも使うな」
「くらす、も昔は親からよく言われたよ。特に怒られている時なんかは」
「ランドセルをからった子供、みたいに皆使ってるけどアレって方言だったんだね」
そして、これもまた同様に驚かれる。
まぁでも、特に『からう』なんかは方言っぽさのない字面だし、標準語だと思うのも無理はないかもしれない。
「けど、博多弁って言われるものの殆どは九州全域で使われていることが多いから、もう九州弁って名乗った方が良いかもだけど……」
だから、話の趣旨である『福岡でしか通じない方言』というものは存外ないのだ。
他にも、『ぶすくれる』なんて言葉もあるけど、それもまたどこかで同じように使われているのだろう、と思う。
「なるほどな。そう考えると、博多弁が珍しくないっていう俺たちの認識にも納得がいくな」
「ど、どういうこと……? 翔真くん、分かる?」
「福岡の言葉が九州の大部分に伝わっているのなら、それが全国的に広がっていると解釈しても仕方ない――ってことだろ?」
畔上くんがそう注釈を付けてあげると、そらはしたり顔で頷く。
「そういうこと」
ともすれば、いつの間にか時間は経っていたようでチャイムが鳴り響いた。
「お前らぁ、要らんもんはなおして早く授業の準備をしろ」
そんな低い声とともに入ってきたのは、少し強面な保健の先生。
だけれど、先程の話をしていた手前、私たちの意識は使われた方言の方へと向いてしまう。
思いのほかありふれた言葉であったという事実を感じ、互いに顔を見合わせ、ほくそ笑むのであった。
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