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August
8月3日(土) 全国大会・シングルス・一日目・前編
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ついにこの時、この瞬間がやってきた。
今日から始まったシングルス戦。
その一日目は第三回戦まで行われ、明日で準々決勝以降を戦うことになっているわけだけども、順当に試合は進んでその最終戦に差し掛かろうとしている。
気負うことなく、淡々と勝ち上がってきた亮吾くんの今日の調子はだいぶ良いようで、ウチは彼に話しかけた。
「どうっスか、亮吾くん? 緊張してるっスか?」
「…………何だ、琴葉か」
「む……何だ、とは何スか。せっかく可愛いマネージャーが心配で声を掛けたというのに、つまらない反応っスねー」
だというのに、一瞥されるだけという素っ気ない反応を受けて、ひとりで少しふてくされてしまう。
「…………まぁ、それだけ楽しみにしてたってことでしょうけど……」
「…………ん? 何か言ったか?」
その問いだって、形式的なもので彼の意識は別にところへ向いていた。
中学からの出会いとはいえ、三年の間柄なのだ。それくらいは分かる。
だから、無視された意地悪として、違うことを言ってやれ。
「格好つけな亮吾くんが、珍しくビビってる――って言ったんスよ!」
舌を出し、バカにするようにそう言った。
ともすれば亮吾くんは、少しムッとした表情でちゃんとこっちを向いてくれる。
「勘違いするな、別にビビってるわけじゃない」
そして、掲示された対戦表へと向き直り、自分の名前からゆっくりと視線をトーナメントに沿うように持ち上げ――。
「ただ、やっとここまで来た――と思っていただけだ」
対戦相手を辿るように今度は視線を下げると、そこには、『畔上翔真』の文字があった。
彼が見ているのは、見えているのはそこだけ。
ウチという存在が映っていないのは少し寂しいけど、それは割り切って今度はこう問う。
「…………勝てるんスか?」
「…………勝つさ、それ以外はない」
この一年、その為だけに彼は頑張ってきた。
……そうおじいちゃんからは聞いている。
ウチが入学する前のことで、何が起きたかはこれっぽちも知らないことだけど…………でも、少なくとも四月からの彼の努力は見ている。
だから――。
「……そうっスか。なら、亮吾くん。少し屈んでください」
身長差のある彼を同じ高さに並ばせるべく、手招きをした。
「……………………? 何で?」
「そりゃ、おまじないっスよ。勝つための」
疑問符を浮かべながらも、渋々とお願いに従ってくれる亮吾くんの頭を、そっと優しく、両腕で包み込んだ。
「……頑張ってください」
――ウチにはこれぐらいしかしてあげられない。
でも、忘れないで。
誰よりも、何よりも君を一番に応援していることを。
「……あぁ、任せろ」
やはり彼も、緊張していたのだろうか。
いつもなら振りほどくであろうその行為を、静かに受け止めてくれた。
♦ ♦ ♦
観客席を上り、キョロキョロと当たりを見渡せば、すぐに目的の人物らを見つけることができる。
「どもどもっス、和白高校の皆さん。お久しぶりっスね!」
テンション高く声を掛けると、見知った数名――亮吾くんからライバル認定された蔵敷宙先輩、その幼馴染である倉敷宙先輩、そして宙先輩の名も知らぬ友達さん――がそれぞれ反応してくれた。
「あー……国立亮吾の………」
「…………あっ、琴葉……ちゃん」
「えっ……? ……………………あっ、九州大会の時の……」
思えば、まともな自己紹介はまだでしたっけ……。
なら、ここで名乗っておきましょう!
「明日原琴葉っス! 以後お見知りおきをー」
『…………どうも』
しかし、ノリが悪く挙って頭を下げるのみ。
……まぁ、一応は敵同士ですし、仕方ない反応っスかね。
ウチも別にそれ以上のことをしたわけではなく、観るなら知り合いと一緒に――と思っただけ。
だから、かなた先輩の隣に座れば一緒に目下で行われようとしている亮吾くんと畔上翔真の試合を眺める。
――どうか、勝ってくれますように。
そんな想いとともに始まった三回戦だけど、現実はかくも厳しいものかな。
願いも虚しく、亮吾くんは第一セットを奪われてしまった。
今日から始まったシングルス戦。
その一日目は第三回戦まで行われ、明日で準々決勝以降を戦うことになっているわけだけども、順当に試合は進んでその最終戦に差し掛かろうとしている。
気負うことなく、淡々と勝ち上がってきた亮吾くんの今日の調子はだいぶ良いようで、ウチは彼に話しかけた。
「どうっスか、亮吾くん? 緊張してるっスか?」
「…………何だ、琴葉か」
「む……何だ、とは何スか。せっかく可愛いマネージャーが心配で声を掛けたというのに、つまらない反応っスねー」
だというのに、一瞥されるだけという素っ気ない反応を受けて、ひとりで少しふてくされてしまう。
「…………まぁ、それだけ楽しみにしてたってことでしょうけど……」
「…………ん? 何か言ったか?」
その問いだって、形式的なもので彼の意識は別にところへ向いていた。
中学からの出会いとはいえ、三年の間柄なのだ。それくらいは分かる。
だから、無視された意地悪として、違うことを言ってやれ。
「格好つけな亮吾くんが、珍しくビビってる――って言ったんスよ!」
舌を出し、バカにするようにそう言った。
ともすれば亮吾くんは、少しムッとした表情でちゃんとこっちを向いてくれる。
「勘違いするな、別にビビってるわけじゃない」
そして、掲示された対戦表へと向き直り、自分の名前からゆっくりと視線をトーナメントに沿うように持ち上げ――。
「ただ、やっとここまで来た――と思っていただけだ」
対戦相手を辿るように今度は視線を下げると、そこには、『畔上翔真』の文字があった。
彼が見ているのは、見えているのはそこだけ。
ウチという存在が映っていないのは少し寂しいけど、それは割り切って今度はこう問う。
「…………勝てるんスか?」
「…………勝つさ、それ以外はない」
この一年、その為だけに彼は頑張ってきた。
……そうおじいちゃんからは聞いている。
ウチが入学する前のことで、何が起きたかはこれっぽちも知らないことだけど…………でも、少なくとも四月からの彼の努力は見ている。
だから――。
「……そうっスか。なら、亮吾くん。少し屈んでください」
身長差のある彼を同じ高さに並ばせるべく、手招きをした。
「……………………? 何で?」
「そりゃ、おまじないっスよ。勝つための」
疑問符を浮かべながらも、渋々とお願いに従ってくれる亮吾くんの頭を、そっと優しく、両腕で包み込んだ。
「……頑張ってください」
――ウチにはこれぐらいしかしてあげられない。
でも、忘れないで。
誰よりも、何よりも君を一番に応援していることを。
「……あぁ、任せろ」
やはり彼も、緊張していたのだろうか。
いつもなら振りほどくであろうその行為を、静かに受け止めてくれた。
♦ ♦ ♦
観客席を上り、キョロキョロと当たりを見渡せば、すぐに目的の人物らを見つけることができる。
「どもどもっス、和白高校の皆さん。お久しぶりっスね!」
テンション高く声を掛けると、見知った数名――亮吾くんからライバル認定された蔵敷宙先輩、その幼馴染である倉敷宙先輩、そして宙先輩の名も知らぬ友達さん――がそれぞれ反応してくれた。
「あー……国立亮吾の………」
「…………あっ、琴葉……ちゃん」
「えっ……? ……………………あっ、九州大会の時の……」
思えば、まともな自己紹介はまだでしたっけ……。
なら、ここで名乗っておきましょう!
「明日原琴葉っス! 以後お見知りおきをー」
『…………どうも』
しかし、ノリが悪く挙って頭を下げるのみ。
……まぁ、一応は敵同士ですし、仕方ない反応っスかね。
ウチも別にそれ以上のことをしたわけではなく、観るなら知り合いと一緒に――と思っただけ。
だから、かなた先輩の隣に座れば一緒に目下で行われようとしている亮吾くんと畔上翔真の試合を眺める。
――どうか、勝ってくれますように。
そんな想いとともに始まった三回戦だけど、現実はかくも厳しいものかな。
願いも虚しく、亮吾くんは第一セットを奪われてしまった。
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