彼と彼女の365日

如月ゆう

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August

8月22日(木) 料理とは……

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「かき氷を作るから、そらちゃんもいらっしゃい」

 そうお呼ばれした俺は、すぐ隣に建つ幼馴染の家で食後のデザートを頂いていた。

 もう九月になるとはいえ、残暑の厳しい日々。
 クーラーの付けられた部屋の中で、テレビを見つつ食べる甘味は最高である。

「……で? なんで急にかき氷なんだ?」

 一緒にソファに座り、スプーンを口に運びながらテレビを見ているかなたに話しかけると、目線はそのままに彼女は答えてくれた。

「……一ヶ月くらい前に、校区の夏祭りがあったでしょ?」

「あー……あったな。確か、うちの親も盆踊りに参加してた」

「……そこで、私たちの地区はかき氷屋さんをしてたみたいなんだけど、シロップが余ったらしくて貰ってきたって。それを消費するための企画」

 なるほど……。
 しかし、余ったから各自で持ち帰り……なんて、あるある過ぎる。バーベキューで胡椒が余ったり、なのに肉だけはみんな持ち帰ろうとしたりな。

「てか、よくかき氷機なんて持ってたな。ウチにはないぞ」

「…………ん、私たちも持ってなかった」

「……………………は?」

 あれ、聞き間違いかな?

「……シロップを貰ったから、急遽買った。安物らしいけど」

 どうやら、聞き間違いではないらしい。
 思わず、開いた口が塞がらない。

「…………何やってるん……」

 後ろを振り向けば、件の人物は呑気に台所で食器を片付けている。
 全く何も気にした様子はなく。

「…………? そらちゃん、何かな? おかわり?」

「あっ……いえ、まだ残ってるんで」

「そう、欲しかったら言ってね。また作るから!」

 そんなやり取りを交わし、再び俺はテレビに向き直った。

 何で余計な出費までして、わざわざシロップを貰ったんだろう……。謎は深まるばかり。
 まぁ、美味いから別にいいんだけどさ。

 そうして、のんびりとした空気は戻る。
 しばらくの間、俺が黄色のレモン味、かなたが緑のメロン味を頬張りつつ過ごしていると、今度は彼女から話題が振られた。

「…………そういえば、かき氷のシロップって全部同じ味なんだっけ」

「あぁ、違うのは着色料と香料だけだな」

 割とみんな知っている話。
 しかし、この話を聞く度に俺は思うことがある。

「けどさ、とても同じ味だとは思えないわけで、それを香料だけやってのけてるって考えたらさ……料理でいちばん重要なことって香りなんじゃないか?」

 ――と、こんなことを。

 味だ、見た目だ、食感だと言われたりもするけれど、俺としてはやっぱり『料理は香り』だ。
 香りがよければ美味いし、悪ければ不味い。

「…………分からない。でも確かに、鼻が詰まると味を感じない――とは聞く」

「そう、そうなんだよ! それに、料理界最強のカレーさんも香辛料を効かせて香りで勝負してるしな」

 反対に、不味い理由の定番はといえば、『生臭い』や『青臭い』など、こちらも匂い関係のものばかり。
 シュールストレミングをご存知でない? パクチー、嫌いな人も多いだろ? 納豆が外人に嫌われているのは、そういうことだ。

「だから、俺は言いたい! きゅうり、てめぇは不味いんだ――と」

 以上が、俺の言いたかったことである。
 ご清聴いただき、ありがとう。

 満足し、再びかき氷の盛られた器に手を付ければ、隣で聞いてたかなたは半眼のまま呆れた様子でこちらを見てきた。

「…………そういえば、嫌いだったね……きゅうり」

「まぁな。あの独特の瓜臭さ、何と合わせようとも自分色に染め上げようとする侵食力、好きになれる要素が一つもない」

 いうなれば、奴は野菜界の侵略者プレデター
 生かしておけるか、ほぼ水分の塊め。

 そんな俺の憤慨に、しかし、何かを思い出すように彼女は言葉を紡ぐ。

「んー……でもさ、ピクルスやしば漬けは食べられるよね?」

「おう。美味いよな、しば漬け」

 あれは漬物界の中でもトップの実力者だ。
 具体的には、白菜の漬物と並ぶレベル。

「…………きゅうり嫌い、どこいったの……」

 もはや、白い目となった幼馴染の視線であるが――この話の趣旨を忘れてもらっては困るな。

 チッチッチッ、と指を振ってみせた俺は敢えて同じセリフをもう一度口ずさんだ。

「――だから、最初に言っただろ? 『料理は香りが全て』だってさ」
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