彼と彼女の365日

如月ゆう

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September

9月9日(月) 凱旋の道民

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 北海道からお便りが届いた。
 それは手紙でも、ましてやメールでもない。声という形で。

「――あっ、そらくん? 聞こえてるかな?」

「聞こえてる。久しぶり、七海さん」

 相も変わらずのハツラツ声。
 その第一声だけで息災だということは十二分に分かり、安心する。

「うん、久しぶりだね! 最後に話したのが夏休みが終わるギリギリ前くらいだったから……一ヶ月くらい?」

「おー……確かによくよく考えれば、そのくらい経つことになるのか……」

 しかし一ヶ月って……。
 時間の流れとは、なんとも早いものだ。

「そうなんだよねー……。そら君の方は、この一ヶ月で何かあった?」

「体育祭をやったぞ。つい一昨日に」

「おー、タイムリーだね!」

 本当にな。
 だが、裏を返せばそのせいで俺の方が忙しくなり、なかなか連絡を取れなかったわけだけど。

「優勝した?」

「まぁな。……って言っても、俺が特に何かやったわけでもないけど」

 出た種目は棒引きと学年の出し物のみ。
 しかも、前者は負けてしまったわけだから、文字通りの意味でお荷物でしか俺はなかった。

「でも、凄いよー! あーあ、僕のところは六月で終わっちゃったからなぁ……」

「それはまた……随分と早いな」

 六月といえば、俺たちの方では文化祭が行われる時期だが……。

「なら、もしかしてこれから文化祭か?」

「うん、当たり! 十一月にあるから、来月から準備期間に入るんだ」

 なるほど、つまりは俺たちの学校と行われる行事が逆なわけか……。
 まぁ、学校なんて腐るほどあるわけで、地域の特色と絡むこともあるわけだから、何もおかしいことはないな。

「…………で? そっちは夏休みが明けてからのこの一ヶ月で何かあったのか?」

 今度はこっちの番。
 近況報告も兼ねて同じ質問をしてみると、少し疲れたような声音が返ってくる。

「うん……まぁ、一応。五日から昨日まで、バドミントンの強化選手の合宿に行ってたよ」

「あー……そういや、前にも言ってたな」

「うん、それそれ。東京まで、ちょっとね」

 しかし、その様子から察するに大変だったのだろうな。
 オリンピックを期待されている人ばかりが集まる催しなのだし、当然といえば当然なんだが……。

 あと、俺個人としてはその合宿日が可哀想で仕方がなかった。

「――てことは、六日発売のあの新作ゲームはやれてないわけか……」

 何気ない一言。
 けれども、それは彼女の地雷だったようで、さらにワントーン声が低くなる。

「…………そうなんだ。帰宅した昨日だって、家に着いたのは夜だし、練習と移動の疲れですごく眠かったしで、今日ようやく学校から帰って来て遊べるんだよ?」

「そ、それは……なんと言うか、ご愁傷さま」

 音声通話だというのに、つい頭まで下げてしまった。
 でも、そうさせるだけの本気の声音であったと俺は思う。

「……そういえば、そらくんは発売日からずっと遊んでたよね。土曜も日曜も……今日も。体育祭があったって言ってたから、振り替え休日なのかな? 良いなぁ、羨ましいなぁ……」

 その指摘に、背筋がゾクりと震えた。

「な、七海さん……? 何で、俺のゲーム事情を知ってるんですか?」

 言い方が怖かった――というのもあるけど、それ以上に語っている内容が逐一当たっていたからである。

「そんなの、公式が出してるアプリからフレンドのオンライン状況を見れば一発だよ」

 えっ…………やだ、怖い。

 本人の名誉を守るために敢えて口には出さなかったけれど、やってる事がストーカーと変わりなかった。

 そういえば、俺と彼女が初めて出会った時も、俺の「バドミントンの大会に出る」って発言とその順位から顔と名前、所属学校を特定したって言ってたっけ……。

「だから、今も暇でしょ? 僕も入るから、抜け駆けした分だけちゃんとクエストに付き合ってね♪」

「…………はい」

「あっ、それから僕と二人でゲーム内のサークルも作ろ?」

「…………分かりました」

 こうして、カチャカチャとコントローラーの音を響かせながら二人仲良くゲームをする。

 持ち前の容姿と強さで人気を誇るバドミントン会の期待の星にして、無敗の女王――そんな彼女の知られざる怖い一面を知ってしまった俺であった。
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