176 / 284
September
9月12日(木) 三枝先生の日常
しおりを挟む
「ん…………ん~……!」
秋も深まり、日の入りが少し早くなってきたと感じる時分。
座りっぱなしの仕事で凝り固まった身体をほぐすためにグッと背伸びをした私は、そんな声を上げる。
少しはしたないとは思いながらも、私以外には誰もいない職員室という珍しい機会に、ついつい気持ちが緩んでしまったのかもしれない。
とはいえ、現在時刻は午後の七時。
まだまだ教師が帰る時間としては早く、部活動の顧問だったり、他教室で会議をしたりとが偶然に重なっておきた産物なのだけど。
むしろ、どこの部活もそろそろ終わる頃合いなので、これから明日の用意――という先生も多いはず。
……かくいう私も、そうですし。
というわけで仕事、仕事。
手元へと視線を戻せば、まだ教師コメントの書き終えられていない今日の学級日誌が開かれた状態で置かれていました。
毎日、クラスの生徒の持ち回りで記録されるこの日誌。今日は学級委員でもある菊池さんの担当のようです。
生真面目な彼女らしく、綺麗な字で要点だけを分かりやすくまとめたソレは、お手本とも呼ぶべき出来栄え。
「……順番的に明日はかなたさんですか。あの子にもこれくらいの文量は期待したいのですけど……」
難しいでしょうね、と私は苦笑い。
そらくんたち以外に口数の少ない彼女ですが、それは文章であっても変わりません。
「さて、あと残っているのは――」
コメントをつけ終え、また一つ仕事を片付けたら、右隣の完了済みスペースへ日誌を退避させる。
そうして、やるべき仕事内容をまとめた付箋にチェックを入れ、他の残ったものを確認した。
「――七時半から会議で、授業の準備……あとは、テスト作成ですか」
再来週に控えた学期末テスト。
その準備をそろそろ始めておかなければ、仕事量的に後々辛くなるでしょう。また、先に作っておけば授業進行の目安にもなります。
なので、手を付けようとは思うのですが――。
「…………これは、帰るのが遅くなりそうですね」
ソっと私はため息を吐きました。
ゆうくんに連絡しなくてないけません。
と、そんな折、ポケットのスマホが震えます。
自動で映る画面、その通知欄にはメッセージアプリのマークがありました。
しかも、タイミングのいいことに送り主は件の彼。
『ゆうちゃん、今日は何時に帰ってくる?』
「ふふ……さすがゆうくん。内容まで完璧」
まるでテレパシーで繋がっているかのような間の良さに、少し嬉しく思いながら文字を入力していきます。
「『ごめん、いつもより遅くなる』――っと」
送信ボタンをタップすれば、文字はアプリ上へと流れ、すぐに既読の文字が。
『そっか……頑張ってね』
そんな文字とともに、熊さんがグッと拳を握るスタンプが送られ、励まされました。
けれど、それだけで私のやる気は十二分。
今日は三分の一まで作れたら御の字だと考えていましたが、これなら全部作り終えられるかもしれません。
「…………頑張りましょうか」
まずは、もうすぐ始まる会議から。
それまで、頭の中で問題の構造を練りつながら、私は時間と人を待つ。
秋も深まり、日の入りが少し早くなってきたと感じる時分。
座りっぱなしの仕事で凝り固まった身体をほぐすためにグッと背伸びをした私は、そんな声を上げる。
少しはしたないとは思いながらも、私以外には誰もいない職員室という珍しい機会に、ついつい気持ちが緩んでしまったのかもしれない。
とはいえ、現在時刻は午後の七時。
まだまだ教師が帰る時間としては早く、部活動の顧問だったり、他教室で会議をしたりとが偶然に重なっておきた産物なのだけど。
むしろ、どこの部活もそろそろ終わる頃合いなので、これから明日の用意――という先生も多いはず。
……かくいう私も、そうですし。
というわけで仕事、仕事。
手元へと視線を戻せば、まだ教師コメントの書き終えられていない今日の学級日誌が開かれた状態で置かれていました。
毎日、クラスの生徒の持ち回りで記録されるこの日誌。今日は学級委員でもある菊池さんの担当のようです。
生真面目な彼女らしく、綺麗な字で要点だけを分かりやすくまとめたソレは、お手本とも呼ぶべき出来栄え。
「……順番的に明日はかなたさんですか。あの子にもこれくらいの文量は期待したいのですけど……」
難しいでしょうね、と私は苦笑い。
そらくんたち以外に口数の少ない彼女ですが、それは文章であっても変わりません。
「さて、あと残っているのは――」
コメントをつけ終え、また一つ仕事を片付けたら、右隣の完了済みスペースへ日誌を退避させる。
そうして、やるべき仕事内容をまとめた付箋にチェックを入れ、他の残ったものを確認した。
「――七時半から会議で、授業の準備……あとは、テスト作成ですか」
再来週に控えた学期末テスト。
その準備をそろそろ始めておかなければ、仕事量的に後々辛くなるでしょう。また、先に作っておけば授業進行の目安にもなります。
なので、手を付けようとは思うのですが――。
「…………これは、帰るのが遅くなりそうですね」
ソっと私はため息を吐きました。
ゆうくんに連絡しなくてないけません。
と、そんな折、ポケットのスマホが震えます。
自動で映る画面、その通知欄にはメッセージアプリのマークがありました。
しかも、タイミングのいいことに送り主は件の彼。
『ゆうちゃん、今日は何時に帰ってくる?』
「ふふ……さすがゆうくん。内容まで完璧」
まるでテレパシーで繋がっているかのような間の良さに、少し嬉しく思いながら文字を入力していきます。
「『ごめん、いつもより遅くなる』――っと」
送信ボタンをタップすれば、文字はアプリ上へと流れ、すぐに既読の文字が。
『そっか……頑張ってね』
そんな文字とともに、熊さんがグッと拳を握るスタンプが送られ、励まされました。
けれど、それだけで私のやる気は十二分。
今日は三分の一まで作れたら御の字だと考えていましたが、これなら全部作り終えられるかもしれません。
「…………頑張りましょうか」
まずは、もうすぐ始まる会議から。
それまで、頭の中で問題の構造を練りつながら、私は時間と人を待つ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる