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 ー火の鳥朱雀の誕生ー

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 災いをもたらす魔物が消え去り、清々しい夜明けを迎えた神々たちは、広場に車座を作り直し、これからが本番だと満面の笑顔でまた酒を酌み交わしはじめた。

 アマテラスは、神々が宴を楽しんでいる広場の横を通りすぎて、天岩戸の脇の止まり木にいる長鳴鳥に近づいて行った。
 
 しばらく長鳴鳥の頭に右手かざすと、
「さぁ、行きなさい」
 と、西の方角に向けて指をさした。
 羽を広げてアマテラスを見ていた長鳴鳥は、ゆっくりと体を起こすと、空を見上げたまま止まり木を蹴って太陽に向かって飛び上がった。
 
 天高くまで舞い上がった長鳴鳥は、太陽の光を浴びて体を朱色に羽根と尾羽の先端を金色に染め変えて、
 さらに燃える翼を手に入れると、大いなる鳥朱雀へと生まれ変わった。
 
 朱雀は、八百万の神々がにぎやかに宴を続ける上空を時間をかけて一回りすると、速度をあげてアマテラスが指さしをした西へと飛んで行った。

 朱雀の羽根が一枚だけふわふわと降ってきて、アマテラスが隠れていた天岩戸に落ちると、しめ縄に変化して、アマテラスが二度と天岩戸に入れないように岩の扉に張り付いた。


 --- 朱雀が飛んで行った方角には、火の山阿蘇山があるんだよ。
 朱雀は阿蘇山の火口に入り、そこで炎をエネルギーに変える眠りについたんだ。
 

 それからね…。
 アメノウズメが持って踊った笹の葉に付いていた鈴、その鈴は光を放ちながら四方へと飛び散って行ったんだ。
 
 鈴の一つは、九州山脈の中ほどの深い谷に落ちたんだけども、そこからは水が湧き出て一筋の流れを作ると、沢を集めて日向灘へそそぐ川になったんだ。

 
 伊勢神宮の内宮を、五十鈴川という川が流れているのを知っている人は多いと思うけど、実は宮崎県の北部にもう一つ、五十鈴川があるんだよ。
 
 さっき話した、鈴が落ちて九州山脈の中ほどから流れて日向灘へそそぎ込む川。
 この川も五十鈴川なんだよ。
 
 しかし、不思議だねぇ。
 アマテラスを祀る伊勢神宮を流れる川も五十鈴川なら、アマテラスが天岩戸に隠れた高千穂の近くを流れる川も五十鈴川というのも…。

 その、五十鈴川なんだけどもね、
 いや、この話はまた後ですることにするよ。---

 
 八百万の神々たちは相変わらず、夜明けを喜んで騒いでいる。

 その様子を遠くから眺めていたヤトヨミは、舌打ちをした。
 (スサノオ様。スサノオ様が王になるためには、私も力をお貸しします)

 闇の女王ヤトヨミは、アマテラスの弟スサノオをそそのかして、アマテラスを永遠に天岩戸に封じ込め込めようと企んでいたのだ。

 しかし、ヤトヨミのもくろみは失敗に終わってしまった。

 ヤトヨミにおだてられてまんざらでもなかったスサノオは、八百万の神々たちから天上界を追放されてしまう。
 
 一方、闇の女王ヤトヨミは、闇が開けると忌々しさに体を震わせながら地底の奥深くに潜ってしまった。

 --- 闇の女王ヤトヨミは、とにかくアマテラスの存在をうとんでいたんだよ。
 暗黒の世界に、太陽の神アマテラスなんて邪魔なだけだからねぇ。

 ヤトヨミは、男神たちも掘れてしまうような美しい女だったんだ。
 スサノオがその気になるのも分かるよ。

 しかし、それは仮の姿さ。
 ヤトヨミの正体は、口は耳まで裂けて頭には八つのヤトヨミの首を持つ邪悪な怨霊なのさ。
 八つの首がクネクネと動き、鋭く光る赤い目が辺りを睨む…。 
 それはそれは、不気味な奴だよ。


 怨霊ヤトヨミは、これまでにも何度か時空を超え蘇ってきてるんだ。

 女王卑弥呼が統治していた邪馬台国…。
 卑弥呼はジャーマンだったんだよ…。霊能者だね。
 
 この時代に現れたヤトヨミは、皆既日食を起こして、卑弥呼には予知能力が無いと人々に見せしめて、女王の座から引きずり下ろして失脚させているんだよ。
 昼間に突然闇が始まるのだから、当時の人にとってはさぞや恐ろしい事だったろうねぇ。
 アマテラスの象徴である太陽を隠してしまうというのも、ヤトヨミらしいことだよ。

 それから、戦国時代。
 織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などの名だたる武将達が心惹かれる女になって蘇り、男達を惑わして裏切りと陰謀の乱世を作らせてもいたんだよ。
 
 特に織田信長には、側近中の側近の女に姿を変えて、神社仏閣を焼き払わせたりと酷いことをさせたりもしているんだ。
 しかし、その信長も本能寺の変で命を落としてしまうけれども、その本能寺の変の立役者明智光秀もヤトヨミが動かしていたんだよ。

 まだ、あるさ。
 坂本龍馬の暗殺にも、多くの命を犠牲にした戦争にしても、ヤトヨミは関わっていたんだ。

 すべては、とにかくこの世を征服したいがため、なのさ。


 そしてこの今、怨霊ヤトヨミが暗黒の底から目を覚ましてしまったんだ! ---
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