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江戸編
第13話 筆は猫になる⑥
しおりを挟む『ねえ筆。私が化けるのを見せたんだから、次はあんたの番じゃなくて?』
商人がわたしを箱に丁寧にしまったのを、猫又は取り出して床に置いた。
荷馬車が動き出した現在、わたしは猫又に詰め寄られていた。
なんだろう、そこはかとなくさっき商人に怒られたことの八つ当たりに感じるが。
『良かったですねえ猫又さん、干し魚やかつお節が食べ放題ですってよ』
とりあえずそう返してみた。猫又はふんっとひげを鳴らして、
『あの商人も、信用していいかどうかわからないけどねえ。たいがい、妖を利用しようと考えるやつにろくなのはいないのさ』
憎まれ口をたたく口調が、いつもよりやさしい気がする。
好物をもらうのは嬉しいらしい。素直ではない。
『…筆。ごまかしたって無駄だからね。私があんなに苦労して化け方を見せてやったのに、あんたまだしらばっくれるつもりかい?』
わたしは猫又が変化した姿を思い出す。
『そうですねえ。わたしも猫又さんが化けたような人間に、なってみたいものです』
猫又が変化した人間の女性は、とても美しかった。
わたしも彼女のように化けられたらと、そんな考えがよぎった。
けれどどういうわけか、猫又の気には触ったようだ。
『はあ?人間に化ける?あんた正気かい』
『正気ですとも。貴女が化けた人間が美しかったものですから、わたしも貴女のように化けてみたくなったんです』
猫又は少しだけ息を吐いた。
『あんたねえ。私はもともと猫に化けているから、仕方なく人間に化けたのさ。じゃなかったらあんな貧相な姿になんてなってないよ』
わたしは驚いた。
『そうなんですか?わたしには、すごくきれいに思えましたけど』
『そりゃあ私が化けたらきれいだろうさ。だけど人間なんて毛並みもないし、私たち猫みたいに爪も牙もないんだよ?そのせいでねずみも捕まえられないのさ』
それに見ただろう?あの人間たちの醜い姿を。
あんなのに化けるもんじゃあないよ。
猫又が言うのももっともだ。
だが、確かに彼女が変化した人間は美しかった。
そこまで言うほど、人間が劣っているとも思えない。
『じゃあ、わたしはなにに化けたらいいんでしょうか?』
わたしの問いに、猫又はよくぞ聞いてくれましたというように目を輝かせた。
『そりゃあ、あんた、化けるなら猫に決まっているでしょう!猫ほどいい化け先はないよ、なるなら猫さ』
次いで猫又は、猫がいかに素晴らしいかを語り始めた。
そこからは、長くなるので割愛したい。すごくすごく長かった。
猫又の話が終わったときに、わたしは話を切り出した。
なにに化けるかよりも、化ける方法があるかわからないのだ。
『それで、猫又さん。わたしの化け方についてなんですが』
『ああ、それねえ。私も化ける仕組みはよく知らないのよね。筆、なんか試してみなさいよ』
またこの方は無茶ぶりをする。
わたしは、なにかないかと考えた。
そこで一つ閃いた。
『猫又さん、貴女が化けるときの踊りと呪文なのですが』
『私が化けるとき?ああ、確かに踊るわね。あと歌も歌うわ』
『歌…?』
『なによ』
『いえなんでも』
『私の化け方は、猫又になりたてのときに教えてもらったものなのよ。なんでも、国中の猫又に代々伝わるものらしいわよ』
なるほど。だからあんなに変な…いや、変わった方法をとっているのか。
つまり、猫又に縁が深いものが化ける方法となっているわけだ。
ということは、わたしにもなにか縁が深いものがあれば、化けられるだろうか。
身体がないので、踊ることはできないが。
縁。そもそも縁とはなんだろうか。
縁とはたぶん、おのれに強いつながりがあるときをいう。
寺の坊主たちが檀家の人々に説法するとき、そんなことを言っていた。
これまでわたしは、深いつながりなど結んでいただろうか。
わたしを作った親方たちとの縁。
わたしに声をかけてくれた、猫又との縁。
今一緒に旅をしている、商人との縁。
そして、長年いた寺の坊主たちとの縁。
どれか、化ける手がかりになるものはないだろうか。
『寺での経験などで、なにか使えないでしょうか』
『寺?ああ、盆踊りとか?あんた、踊れないじゃない』
『でも、仏様の力を使ったりしたら、すごく上手に化けられないでしょうか』
猫又は、筆の口ぶりから、なにが言いたいのかを察して盛大に顔をしかめた。
そう、わたしに一番なじみのあるものだ。
できるなら、あれを試してみたい。
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