護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん

文字の大きさ
16 / 20

16.盛者必衰

しおりを挟む
「全く酷いものです」

王城の執務室の窓から、この国の宰相が王都を眺める。

視界には、長い時間をかけて追求されてきた美しい建築物や、公共用の道路や噴水などの施設が、次々と壊されているところが見えていた。

「美を愛でる心もないとは、つまらない生き物ですね」

王城は、王都の中心部の高台にあり、城下を展望出来た。

「千年の歴史が、一瞬で滅びる様など、そうそう見れるものではありませんが」

この国は、聖女の大きな力で、歴史の流れに取り残されているとも言える。

魔大陸時代の大災害で、聖女の結界のない全ての国が一度滅んだ。

そしていつのまにか、世界のあちらこちらで再び国が興き、新しい歴史が創り出されている。

「滅びるべくして、滅びるということなんでしょうね。
長年研究されていた魔導技術や魔術式の技術も一緒になくなってしまうのは惜しい気がしますが、熟していない人類に、過ぎた技術や知識は危険ですし」

窓から外を見ている宰相の耳には、近づいてくる破壊音が聞こえていた。

「そろそろですか」

先程、遂に魔獣が城内に入り込んだとの知らせを受けた。
力の強い魔獣が、何もかもを壊しながら歩き回っているのだろう。
柱や壁が壊され、天井が崩れはじめたようだ。

「王国とともに」




***




 
第一王子は、逃げていた。

城の奥にある謁見の間の、重い扉を開いて中に入る。
東の離宮へと繋がる抜け道がある国王の執務室へ向かうためだ。

謁見の間に入ると、玉座に誰かが座っているのに気がつく。

第一王子が気がついたことに、玉座に座るものも気がついたようで、

「アレフよ」

と声を発した。

この国で、第一王子を名前で呼び捨てに出来る者は一人しか存在しない。
第一王子の父親であり、この国の王であった。

「陛下?なぜここに!」

「城下が何やら騒がしくてな、離宮から隠し通路でここまで来たのじゃ。
また随分とボロボロになったのう」

返り血を浴び、石を投げつけられたために、汚れが酷く、全身傷だらけだった。

「ここは危険です!はやくお逃げ下さい!」

第一王子が、焦って声を上げるも、国王はいつものようにのんびりとした動作で、肩肘をつき、玉座の上から王子を見下ろしている。

「大結界が消えたのは知っている。王妃は前聖女だからの。なぜ消えたかも暗部の者に聞いた」

「仕方なかったのです!」

離宮にいながら、なぜそんなに詳しいのだと、心は荒れ狂ったが、頭ではきっちり言い訳をせねばとフル回転させている。

「まあ良い。今更論じてもどうにもならぬ」

まあ良いと言われ、少しホッとする。

「陛下!早く逃げなければ!」

少し心に余裕ができたため、父親を心配している体を装う。

「どこにも逃げ場などありはせぬよ」

なぜこの有事に、のんびりした態度でいるのかわからない。
早く逃げなければ、平民がまた襲ってくるのだ。

「陛下の執務室から、東の離宮へ行きましょう!」

「離宮か」

「王妃殿下は、結界の魔法を使えるのではありませんか?」

結界さえあれば助かるのだ。
ジルヴァラは、いつもぼーっとしながらも、この国全体を覆う結界を維持していた。
前聖女である王妃殿下もそれくらいは出来るに違いない。


「私はもう結界魔法は使えませんよ」

謁見の間から続く、国王の執務室から、王妃殿下が現れた。

「王妃殿下!なぜここに!」

相変わらず、神々しい美しさを持つ王妃である。たしか30歳くらいの筈だが、どうみても20代にしか見えない。

やはりジルヴァラとは違うと、どうしても比べてしまう

「東の離宮は魔獣に侵入されました。私は教会に行き、大結界を再起動するためにここに戻ってきました。
ですが、それはもう手遅れのようですね」

「な、なぜ」

「血に濡れた術式など使い物にならないからです」

結界魔法は難しく、簡単に発動させてしまうジルヴァラと違い、聖女としては標準的な魔力量の持ち主だった王妃は術式がなければ発動することが出来なかった。

「あああああ!」

絶望と後悔の念が第一王子を襲う。
結界を消滅させた原因を作ったのは自分。
多くの血で、再構築する可能性を無くしたのも自分。

絶望感でどうにかなりそうだった。

「そんな…そんな…し、知らなかったんだ…」

政権を持つものが何も知らないというのは、それだけで罪である。

その時、大きな音が謁見の間を襲い、壊されたドアから、見たこともない大きくグロテスクな人型の魔獣が入って来るのが見えた。

「終わりだな」

ローランド王国最後の国王の静かな声が謁見の間に響いた。



しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

平民を好きになった婚約者は、私を捨てて破滅するようです

天宮有
恋愛
「聖女ローナを婚約者にするから、セリスとの婚約を破棄する」  婚約者だった公爵令息のジェイクに、子爵令嬢の私セリスは婚約破棄を言い渡されてしまう。  ローナを平民だと見下し傷つけたと嘘の報告をされて、周囲からも避けられるようになっていた。  そんな中、家族と侯爵令息のアインだけは力になってくれて、私はローナより聖女の力が強かった。  聖女ローナの評判は悪く、徐々に私の方が聖女に相応しいと言われるようになって――ジェイクは破滅することとなっていた。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

聖女ですが、大地の力を授かったので、先手を打って王族たちを国外追放したら、国がとってもスッキリしました。

冬吹せいら
恋愛
聖女のローナは、大地の怒りを鎮めるための祈りに、毎回大金がかかることについて、王族や兵士たちから、文句ばかり言われてきた。 ある日、いつものように祈りを捧げたところ、ローナの丁寧な祈りの成果により、大地の怒りが完全に静まった。そのお礼として、大地を司る者から、力を授かる。 その力を使って、ローナは、王族や兵士などのムカつく連中を国から追い出し……。スッキリ綺麗にすることを誓った。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。

藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。 伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。 セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。 そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに…… 婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。 そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】 聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。 「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」 甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!? 追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。

義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います

成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。

〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?

藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。 セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。 あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。 呪い…解いてもいいよね?

処理中です...