僕たちはその歪みに気付くべきだった。

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痛みは人それぞれ

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「あっ……、お兄ちゃんお帰り……」

 高校生活も、2ヶ月目にして既にルーチンになりつつある。
 6限の授業まで極力目立たぬように無難にやり過ごせば、後は帰路につくだけだ。
 もっとも、今日については途中に遭遇するというイレギュラーもあったが……。
 とは言え、時間の流れはそんな些細な変化などちっとも考慮してくれない。
 目の前にぼんやりとした憂い事があろうとも、日々のルーチンは容赦なく襲ってくる。
 今日も今日とて、僕は僕の役割を粛々と果たしていくしかない。
 そんなことを思いながら、僕は家路を急いだ。

 家に着くなり、既に一足早く帰宅していた妹の風霞ふうかが出迎えてくる。
 オドオドと薄茶色のセミロングヘアをイジりながら、僕の顔色をうかがう様に挨拶をしてくるあたり、彼女も何か後ろめたさのようなものを感じているようだ。

「あぁ、ただいま。母さんから聞いた?」
「うん。すぐ行く感じ?」
「いや。兄ちゃん、夕飯作ってから行くから、風霞は先に行っててくれ」
「……そっか。分かった。じゃあ先に行ってるね」

 このところずっとこんな感じだ。
 あの事件以来、僕は風霞と距離を取っている。
 というより、なるべく彼女と一緒にいるところを他人に見られないよう、無意識に気を配っているフシがある。
 当然だ。万が一、風霞と一緒にいるところを能登たちに見られてしまえば、何がどうなるか分かったモンじゃない。
 だから、これでいい。
 僕は一足先に病院へと向かう風霞を見送ると、キッチンへと向かった。

 夕飯を作る、といっても所詮は高校生のだ。
 チャーハン、カレー、オムライス、等々。
 複雑な工程のいらない、と言ったらプロに怒られるかもしれないが、どうしても簡単な一品物のローテーションになってしまう。
 大凡、成長期ど真ん中の僕たちに許される所業ではない。
 そろそろレパートリーの一つも増やさなければ、僕たちの健康な明日は保証されない。
 
 僕は冷蔵庫を覗き込み、今日の役者となる食材を吟味する。
 豚肉に、玉ねぎに、キャベツ、か……。
 今日は生姜焼きにしよう。
 キャベツを付け合せにすれば、杜撰な食生活の免罪符にもなるだろう。
 早々とメニューを決め、食材を取り出そうとした時、ふと冷蔵庫のに目が吸い寄せられる。

「これは……」

 とある有名チェーン店の個包装されたシュークリームの上に、小さな紙の切れ端が添えられてあった。

『お兄ちゃんへ いつもありがとう』

 小学生の頃と変わらない、どこか弱々しく感じる丸文字でそう書かれてあった。
 その時、ふとホタカ先生から言われた言葉が頭を過る。

『キミがそうやって我慢することで、妹さんがどれだけ罪悪感を感じるか一度でも考えてみたことある!?』

 こういうこと、か。
 やはりホタカ先生の言うとおり、風霞なりに罪悪感を抱えているらしい。
 彼女の少ない小遣いの中から捻出したと思うと、むしろこちらが申し訳ない気持ちになる。

 でも……。僕への罪悪感が、彼女の痛みになっているのだとして……。
 それが分かったからといって、この先何が変わるというのか。
 生憎、僕と彼女の立場を入れ替えられるわけでもなければ、今より少しマシな生活を送れるようになるわけでもない。
 こうして風霞の想いを知ることによって、却ってやる瀬ない気持ちになってしまった。

 再び邪念が起こりそうな頭を抑えつけながら、僕は夕飯の支度に取り掛かった。
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