5 / 54
痛みは人それぞれ
しおりを挟む
「あっ……、お兄ちゃんお帰り……」
華の高校生活も、2ヶ月目にして既にルーチンになりつつある。
6限の授業まで極力目立たぬように無難にやり過ごせば、後は帰路につくだけだ。
もっとも、今日については途中厄介な伏兵に遭遇するというイレギュラーもあったが……。
とは言え、時間の流れはそんな些細な変化などちっとも考慮してくれない。
目の前にぼんやりとした憂い事があろうとも、日々のルーチンは容赦なく襲ってくる。
今日も今日とて、僕は僕の役割を粛々と果たしていくしかない。
そんなことを思いながら、僕は家路を急いだ。
家に着くなり、既に一足早く帰宅していた妹の風霞が出迎えてくる。
オドオドと薄茶色のセミロングヘアをイジりながら、僕の顔色をうかがう様に挨拶をしてくるあたり、彼女も何か後ろめたさのようなものを感じているようだ。
「あぁ、ただいま。母さんから聞いた?」
「うん。すぐ行く感じ?」
「いや。兄ちゃん、夕飯作ってから行くから、風霞は先に行っててくれ」
「……そっか。分かった。じゃあ先に行ってるね」
このところずっとこんな感じだ。
あの事件以来、僕は風霞と距離を取っている。
というより、なるべく彼女と一緒にいるところを他人に見られないよう、無意識に気を配っているフシがある。
当然だ。万が一、風霞と一緒にいるところを能登たちに見られてしまえば、何がどうなるか分かったモンじゃない。
だから、これでいい。
僕は一足先に病院へと向かう風霞を見送ると、キッチンへと向かった。
夕飯を作る、といっても所詮は高校生のおままごとだ。
チャーハン、カレー、オムライス、等々。
複雑な工程のいらない、と言ったらプロに怒られるかもしれないが、どうしても簡単な一品物のローテーションになってしまう。
大凡、成長期ど真ん中の僕たちに許される所業ではない。
そろそろレパートリーの一つも増やさなければ、僕たちの健康な明日は保証されない。
僕は冷蔵庫を覗き込み、今日の役者となる食材を吟味する。
豚肉に、玉ねぎに、キャベツ、か……。
今日は生姜焼きにしよう。
キャベツを付け合せにすれば、杜撰な食生活の免罪符にもなるだろう。
早々とメニューを決め、食材を取り出そうとした時、ふと冷蔵庫の隅に目が吸い寄せられる。
「これは……」
とある有名チェーン店の個包装されたシュークリームの上に、小さな紙の切れ端が添えられてあった。
『お兄ちゃんへ いつもありがとう』
小学生の頃と変わらない、どこか弱々しく感じる丸文字でそう書かれてあった。
その時、ふとホタカ先生から言われた言葉が頭を過る。
『キミがそうやって我慢することで、妹さんがどれだけ罪悪感を感じるか一度でも考えてみたことある!?』
こういうこと、か。
やはりホタカ先生の言うとおり、風霞なりに罪悪感を抱えているらしい。
彼女の少ない小遣いの中から捻出したと思うと、むしろこちらが申し訳ない気持ちになる。
でも……。僕への罪悪感が、彼女の痛みになっているのだとして……。
それが分かったからといって、この先何が変わるというのか。
生憎、僕と彼女の立場を入れ替えられるわけでもなければ、今より少しマシな生活を送れるようになるわけでもない。
こうして風霞の想いを知ることによって、却ってやる瀬ない気持ちになってしまった。
再び邪念が起こりそうな頭を抑えつけながら、僕は夕飯の支度に取り掛かった。
華の高校生活も、2ヶ月目にして既にルーチンになりつつある。
6限の授業まで極力目立たぬように無難にやり過ごせば、後は帰路につくだけだ。
もっとも、今日については途中厄介な伏兵に遭遇するというイレギュラーもあったが……。
とは言え、時間の流れはそんな些細な変化などちっとも考慮してくれない。
目の前にぼんやりとした憂い事があろうとも、日々のルーチンは容赦なく襲ってくる。
今日も今日とて、僕は僕の役割を粛々と果たしていくしかない。
そんなことを思いながら、僕は家路を急いだ。
家に着くなり、既に一足早く帰宅していた妹の風霞が出迎えてくる。
オドオドと薄茶色のセミロングヘアをイジりながら、僕の顔色をうかがう様に挨拶をしてくるあたり、彼女も何か後ろめたさのようなものを感じているようだ。
「あぁ、ただいま。母さんから聞いた?」
「うん。すぐ行く感じ?」
「いや。兄ちゃん、夕飯作ってから行くから、風霞は先に行っててくれ」
「……そっか。分かった。じゃあ先に行ってるね」
このところずっとこんな感じだ。
あの事件以来、僕は風霞と距離を取っている。
というより、なるべく彼女と一緒にいるところを他人に見られないよう、無意識に気を配っているフシがある。
当然だ。万が一、風霞と一緒にいるところを能登たちに見られてしまえば、何がどうなるか分かったモンじゃない。
だから、これでいい。
僕は一足先に病院へと向かう風霞を見送ると、キッチンへと向かった。
夕飯を作る、といっても所詮は高校生のおままごとだ。
チャーハン、カレー、オムライス、等々。
複雑な工程のいらない、と言ったらプロに怒られるかもしれないが、どうしても簡単な一品物のローテーションになってしまう。
大凡、成長期ど真ん中の僕たちに許される所業ではない。
そろそろレパートリーの一つも増やさなければ、僕たちの健康な明日は保証されない。
僕は冷蔵庫を覗き込み、今日の役者となる食材を吟味する。
豚肉に、玉ねぎに、キャベツ、か……。
今日は生姜焼きにしよう。
キャベツを付け合せにすれば、杜撰な食生活の免罪符にもなるだろう。
早々とメニューを決め、食材を取り出そうとした時、ふと冷蔵庫の隅に目が吸い寄せられる。
「これは……」
とある有名チェーン店の個包装されたシュークリームの上に、小さな紙の切れ端が添えられてあった。
『お兄ちゃんへ いつもありがとう』
小学生の頃と変わらない、どこか弱々しく感じる丸文字でそう書かれてあった。
その時、ふとホタカ先生から言われた言葉が頭を過る。
『キミがそうやって我慢することで、妹さんがどれだけ罪悪感を感じるか一度でも考えてみたことある!?』
こういうこと、か。
やはりホタカ先生の言うとおり、風霞なりに罪悪感を抱えているらしい。
彼女の少ない小遣いの中から捻出したと思うと、むしろこちらが申し訳ない気持ちになる。
でも……。僕への罪悪感が、彼女の痛みになっているのだとして……。
それが分かったからといって、この先何が変わるというのか。
生憎、僕と彼女の立場を入れ替えられるわけでもなければ、今より少しマシな生活を送れるようになるわけでもない。
こうして風霞の想いを知ることによって、却ってやる瀬ない気持ちになってしまった。
再び邪念が起こりそうな頭を抑えつけながら、僕は夕飯の支度に取り掛かった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる