僕たちはその歪みに気付くべきだった。

AT限定

文字の大きさ
12 / 54

能登の痛み①

しおりを挟む
「ホタカ先生っ! だからどこ行くんですか!?」
「どこって一つしかないじゃん! のところだよ!」

 僕と小岩は、相談室から出ていったホタカ先生の後を追った。
 『廊下を走るな!』の大原則を華麗にスルーし、一切の迷いなく先を急ぐ姿は、いっそ清々しい。

 それにしても張本人、とは麻浦先輩のことか。
 しかし、それは流石に早急というものだ。
 彼がまともに取り合うとは思えないし、ましてやホタカ先生は非常勤講師のようなものだ。
 ほとんど外部の人間の彼女の言うことなど、真面目に聞くはずが……。

「あの……、そもそも麻浦先輩のクラス知ってるんですか?」

 僕が聞くと、ホタカ先生は何も言わずにその場に急停止する。
 
「あのさ、トーキくんにコイワくん。私、スゴイこと思いついちゃった」
「……はい?」
「えっと……、つまりはどんなこと、ですか?」

 小岩はおずおずと声を絞り出して聞く。

「アサウラくんをすっ飛ばして、バックにいる大人と接触する方法!」
「いや。そんなこと言われても……」
「だってさ。非常勤の私が聞いたところでまともに取り合ってくれないだろうし、何よりトーキくんが絡んでる時点でそれどころじゃないでしょ」

 今更ですか、という言葉を僕は何とか言わずに止める。
 そんな僕の努力などお構いなしに、ホタカ先生は不敵な笑みで僕を見つめてくる。
 
「そ・こ・で~。トーキくん、言ったよね? アサウラくんはとも関係があるんだよね?」
「いや……。言ってはないですね。なんか、一方的に悟られましたけど」

 ホタカ先生にその話を振られた時、僕は無意識的に視線を逸してしまう。
 そんな僕を、彼女は見逃してはくれなかった。

「あのさ、トーキくん。事件のこと、まだ話す気になれない?」

 ホタカ先生は眉尻を下げ、いつになく神妙な顔つきで聞いてくる。
 絶対に話したくない、というわけでもない。
 ただ、同情目当てではないにしろ、どうしても気が引けてしまう。

 もちろん、捜査の一環という建前なのだから、敢えて拒む理由もない。 
 いや、それとも……。
 僕は傷付いている、のか?
 昨日、風霞たちと話した時にも感じた。
 これを表に出さないことが、自分を保つための手段とでも言うのか?
 
「別に……、そういうわけでもないですけど。ていうか、ホタカ先生。ヤケににこだわりますね。普通に刑事事件なんだから、警察に丸投げした方が良いんじゃ」
「もちろん最後はね。でもまだダメ。キミにはちゃんと見届けてもらうから」
「……何をですか?」
「さぁ? それはお楽しみに、ね」

 本当に、謎だらけの人だ。
 第一、彼女の目的とは直接的には関係ないだろう。
 僕の更生だとか、そんな下らない理由ではないとすれば、他に何が……。

「さ! 本題に戻るけど、アサウラくんは一連の事件とも密接に関係している、ってことでいいんだよね?」
「まぁ、そうですね。というより、って言った方が……」
「そう! ポイントはそのってところだ! そこでトーキくんに問題です!」
「何ですか、また急に……」

「次の故事成語の意味を答えよ! 『孤掌こしょう鳴らし難し』」

 またしても、彼女の面倒臭い部分がカタチになって現れた。
 とは言え、これ以上余計な抵抗を挟むエネルギーもないので、僕は惰性的に彼女のペースに合わせる。
 
「そうですね……。まぁ、要するに一人では何も出来ないってとこですかね?」
「まぁそんな感じかな。そして、それは悪事を成すためであっても、例外ではないのだよ!」
「えっと……、つまり麻浦先輩に加担した人物を当たれ、ってことですかね?」

 僕がそう言うと、ホタカ先生は何も言わずにウィンクをしてくる。
 なんとも周りくどい人だ。
 であれば、そのくだりは本当に必要だったのか。
 しかし、これしきのことで一々呆れていたのではこれから先、進む話も進まない。

「だからさ! その子も児童ポルノの件に関与してるって考えるのが自然じゃない?」
「なるほど……。分かりました。まぁ現状分かってるところでは、一人心当たりがありますね」
「天ヶ瀬くん。ひょっとして能登くんのこと、かな?」

 小岩は、こわごわと質問してくる。
 僕はコクリと首を縦に振った。

 確かに能登もあの事件の一端を担っていると言って良い。
 と言っても、実のところ『共謀』というよりは、『従属』なのだろう。
 小岩と同じく何か弱みを握られたか。
 ただ、能登の場合は元々関係性があったようなので、前者の可能性が高い。
 まぁ飽くまで僕が知る範囲で、だが……。
 小岩の様子を見る限り、小岩と能登が直接的に繋がっているという線は薄そうだ。

「よし! じゃあそのノトくん? をおびき出して、洗いざらい吐いてもらおうか!」
「イチイチ言い方が物騒なんですよね……。これだから無敵の人は」
「まぁまぁ。で、でも、どうやって呼び出すんですか? 麻浦先輩もそうですけど、僕たちじゃまともに相手にしてくれない気が……」
「ふっふっふっ! それについては、お姉さんに名案があります!」

 小岩の質問に、ホタカ先生は自慢げに言う。
 彼女が何を考えているかは分からないけれど、これだけは確かだ。
 能登もまた、僕たちと同じように掌上にめぐらすのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

処理中です...