僕たちはその歪みに気付くべきだった。

AT限定

文字の大きさ
11 / 54

小岩の痛み③

しおりを挟む
「は? て、ことはつまり……」
「うん……。轢き逃げ、しちゃったんだ」

 小岩が麻浦先輩に呼び出された日から、更に一週間前の話だ。
 その日、小岩は自転車で帰宅途中、一時不停止により、ある小学生と接触してしまう。
 予期せぬ事態に小岩は気が動転し、そのままその場を立ち去ってしまう。
 また運が悪いことに、その現場を麻浦先輩に見られていたらしく、それをネタに強請ゆすられてしまった、というのが事の真相のようだ。

「本当にごめん……、天ヶ瀬くん。僕の、僕のせいで……、キミの妹さんが取り返しのつかないことになってた、かも」

 そこまで言うと、小岩はその場で泣き崩れてしまった。
 僕が言うのも何だが、本当に勝手なヤツだと思う。
 第一、小岩がまず謝るべきはその小学生だ。
 そのクセ、こうして少しばかり大人から威圧されれば、膝を屈してしまうあたりは、やはり僕のよく知る小岩だ。
 所詮は、許しを請うためのパフォーマンスだ。
 本心では、僕からのおぞましい言葉を期待しているのだろう。

 『ついてなかったね』と。

 とは言え、僕も小岩のことを偉そうに論評できる立場にはいない。
 むしろ、数少ない友人の一人に対してこうして穿った見方をしてしまうあたり、彼よりも質が悪い。
 もし、僕が彼の立場だとしたら、どうしていたのだろうか。

 きっと僕も、背負いきれない責任を前に、被害者しぐさを決め込んだに違いない。
 あの日、ホタカ先生の前で晒してしまった醜態を思えば、容易に想像がつく。
 所詮、僕も利己的な人間だ。
 自分のキャパシティの許す範囲だけ都合の良く責任を背負い、いざ潰れそうになれば、誰かにそれを擦り付け、ボヤくのだろう。
 むしろそう考えれば、小岩の方が潔いとも言える。

 考えれば考えるほど惨めに思えてしまう……。
 僕と小岩。
 根本の部分が同じであるならば、その僅かに残った違いというのは何なのだろうか。


「それは、かな」


「っ!?」

 僕の心境を見透かしたかのように、ホタカ先生はニタニタと不気味にほくそ笑み、聞いてもいない質問に答えてくる。

「イキナリなんですか、アナタは……」
「ありゃ? 適当に言ったつもりなんだけど、まさかのビンゴ?」

 相変わらず底の知れない人だ。
 彼女は一体、どこまで僕のことを理解しているのだろうか。

 優先順位、か。
 それこそ僕と小岩は一緒だろう。
 結局のところ、僕たちを動かしているのは『我が身可愛さ』なのだから。

「……それで、これからどうするつもりなんだ?」
「分かってるんだ。麻浦先輩に言われなくても、そのうちバレちゃうって。だからさ。自首するよ……」

 小岩が轢いた小学生が、どれだけの怪我を負ったのかは知らない。
 事件からそれなりに時間も経っているし、警察の捜査も始まっているだろう。
 最悪の場合、逮捕もあり得る。
 それでも、小岩はこうして腹を括り白状した。
 
「天ヶ瀬くん。僕が偉そうに言えることじゃないんだけどさ。僕みたいになる前に、誰かに頼った方が良いよ。僕ね。天ヶ瀬くんの気持ち、ちょっと分かるんだ……」
「僕の気持ちが、分かる……?」
「あっ! ごめんっ! 偉そうなことを言うつもりはないんだ! だから、誤解しないで聞いて欲しい……。僕も一応兄貴だし、妹に面倒なことを押し付けたくない。それって自然な感情だと思う。だけどさ。ある時から、ソレって実は凄い傲慢なことかも、って思ったんだよ」

 ズキズキと僕の心の奥底に切り込むような小岩の話に、何も言えなかった。
 小岩はそんな僕に構うことなく、容赦なく言葉を浴びせてくる。

「別に、僕一人で気付いたわけじゃないんだ。妹に言われたんだよ。『兄さんのせいで、私が何もしないダメ人間みたいに思われる』って……」
 
 小岩の話を聞いて、確信してしまった。
 きっとどこの家庭も同じなのだろう。
 いつの間にか、僕や小岩がどこか突き抜けていて、あたかも特別かのように錯覚してしまったのかもしれない。
 ただ、それでも……。
 当事者として、そんな言葉だけでは割り切れない想いがあるのは確かだ。

「ふふ。よしよし! やってしまったことはしょうがない! 大丈夫! この国の人たちは反省する優しくしてくれるから。キミはいくらでもやり直せるはずだよ! そうでなくともキミはまだ若いんだしね!」
「は、はい……」
「いや、あの、ホタカ先生。小岩は一応ちゃんと反省してるんじゃないんですかね……」

 ホタカ先生は、僕の諌めなどものともせずに続ける。

「ちなみに確認なんだけどさ。コイワくんは、アサウラくんに言われて動いただけなんだよね?」
「は、はいっ。そうです……」

 なるほど。
 小岩自身は、麻浦先輩のバックにいる人間と面識があるわけではない、か。
 
「ふむふむ。そっか……。さて! そんなコイワくんに提案があります!」
「な、なんでしょうか?」
「まずはトーキくんへの罪滅ぼしとして、一つ協力してみる気はないかね?」
「は、はいっ。僕にできることなら……」
「よし! それじゃ決まり、ね!」
「あっ!? ちょっ!? どこ行くんすか!?」

 小岩の答えに満足そうに返事をしたホタカ先生は、一人で相談室の外に出ていってしまった。

「……ったく、あの人は。なんか悪いな」
「い、いやいやっ! それは僕の方だよ! でも、なんか意外だな」
「え? 何が?」
「いやっ! 天ヶ瀬くん、結構あの先生のこと信頼してそうだったから」
「どこをどう見たらそう見えるんだよ……」
「だって、天ヶ瀬くん。いつもよりリラックスしてるように見えるよ? 教室だとずっと窮屈そうにしてるから……」
「あの状況でリラックス出来るかよ……」
「そ、それもそっか! はは」

 全く笑えないのに、呑気な奴だ。
 そう言う小岩の方こそ、今日はいつになく遠慮がない気がする。
 普段は腫れ物に触るかのように、接してくるというのに。
 小岩の言うことが正しいのかは分からないが、どの道ホタカ先生に人生のペースを狂わされたことに変わりはないのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...