俺をスランプに陥れたあの邪竜だけは死んでも許さない!

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第7話 王族術式

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 王との謁見が終わり、俺とフィリは他二人への報告のため、母屋へ戻ることにした。
 すると、クルーグやルイスの他、あまりにも見飽きた顔が一つあった。
 彼女は俺たちが居間へ入るなり、その鋭い目を吊り上げ、太々しい態度で話し出す。

「クソ兄貴、王様と謁見とか珍しいじゃん」
「あ? 何だお前? 居たのかよ」
「ここは私の家よ。なんなら生活費入れてるの私だし、アンタを追い出す権利もあんだけど」
「お願いします。やめて下さい。このタイミングで家まで追い出されたら、精神崩壊してしまいそうです」
「冗談だし……」

 この兄の俺に対してリスペクトの欠片もない彼女は、二つ下の妹のミュース。
 あの忌々しい邪竜に手痛くやられてからというもの、俺はコイツの世話になりっぱなしだ。
 それもそのはず、親父は既に他界しており、お袋に至っては……。
 いや、それを俺が言うのは反則だ。
 お袋がなってしまった原因は全て俺にある。
 ミュースは、俺が邪神討伐を中断してから大幅に減額されてしまった助成金の穴埋めのために働きに出てくれている。
 だから、俺は彼女に頭が上がらない。

「いや、お前にはいつも世話になってるしな。ホラ、これ。王からもらった餞別だ。生活費の足しにしてくれ」
「……別にそのくらい気にすんなし。いいからクソ兄貴はとっとと調子戻して邪神倒しやがれ。第一、そのお金これから旅で使うんでしょ?」
「いや、今回はネクロマンサー討伐のために召集されただけだからな。言ってみりゃ、一回限りのスポットワークだ。この餞別も多分だが、報酬兼ねてだろ。クルーグたちの分は別にしてあるから安心しろ。俺に余裕があるうちに受け取っとけ」
「だったら猶更受け取れないし。どうせいつか旅立つんだから、少しは手元に余裕残しときなよ。ホント、クソ兄貴はお金に無頓着なんだから」

 くそっ。
 正論ばかり言いやがって。
 少しは兄貴らしいことさせやがれ!

「それよりフィリのことは認めてくれたの?」

 兄妹同士のくだらないやりとりを掻い潜り、ルイスを本題を振ってくる。

「あぁ、許してくれたぞ。というより、あまり俺たちには関心がない、といった方がいいかもな。もうアイツらは暫定勇者どもに夢中だ。まぁ、王は一応気にかけているポーズはとっていたが」

 俺が投げやりに答えると、ルイスは呆れるように溜息をつく。
 クルーグは全力の苦笑いといったところか。

「……クソ兄貴、何か感じ悪い」

 分かっている。
 だがどうしてもこんな言い方になってしまう。
 つくづく実感する。
 あの一件は俺を大きく変えてしまった、と。

「いや、すまん……。言い方が悪かった」
「……で、〝アレ〟についてもちゃんと報告してきたんでしょうね?」

 術式についてだろう。

「したぞ。王宮の方で調査すると言っていた」
「そう……。ホントにどうなってんのかしら」

 俺が聞きたい。
 現状、術式の件にしろ死霊の騎士の練度にしろ、何かしら王宮と繋がりがあると考える方が自然だ。
 そもそも、ネクロマンサーは暫定勇者に討伐されていたはずだった。
 そして、カッセルは自らを〝次期〟ネクロマンサーであると称した。
 単純に暫定勇者パーティーが打ち漏らしたのか。
 もしくはカッセルの言う通り、後を継ぐ存在としてその身を起こしたのか。
 ……やめよう。
 これ以上考えたとて、分かるまい。
 今、俺たちが考えなければならないことは今後の方針だ。

「とりあえず、だ。俺とクルーグに関しては耐性を身につける必要がある。ルイス。術式について教えてくれるか」

「……まぁ、それはいいんだけど」

 それから俺とクルーグは、ルイスから術式の詳細を教えてもらった。

 ルイス曰く、スコトス・カストリアが編み出されたのは今から300年ほど前のことだそうだ。
 その頃、聖都の諮問機関では来るべき邪神復活に備え、術式の研究が盛んに行われていた。当時の国王も例外ではなく、それらの研究に積極的に国費を投入し、聖都の叡智を結集する。
 その結果、精霊族の力を利用した一つの有力な術式を生み出すことに成功する。人々は研究の成功に心から歓喜し、術式を完成させた王族や諮問機関を称えた。
 また、それと同時に術式の試験運用に向けて魔導士の選定も始まる。
 魔力量、フィジカル面など様々な観点を考慮し、遂に一人の才能溢れる魔導士が選出された。

 そして選定後、間もなくして実戦を想定した試験が行われたが、結論から言えばこれは失敗に終わる。
 それは、邪神と精霊族との間の関係性に起因している。
 というのも、精霊族の持つ多彩な能力、とりわけ黒魔法を無効化する力は邪神にとって何よりの脅威であった。そのため邪神は精霊族との間に不可侵協定を結び、1000年間に及ぶ中立関係を構築していた。
 無論、当時の聖都も精霊族と邪神との間に盟約が結ばれていたことは知っていたし、実際に始祖の英雄は単独で決戦に挑み、邪神に打ち勝っている。
 であれば、今さら精霊側を引き入れる必要もないとも思われる。
 だが邪神が復活するまでに、始祖の英雄と同等の力を持つ勇者が誕生する保証などどこにもない。
 聖都としても、独自で抑止力を築いておきたいと考えるのは自然だ。
 加えて、既に邪神が討伐されてから700年の歳月が流れていた。
 条約も無効であると踏むのも無理もない。
 実際、精霊側も聖都の申し出に応じたわけだ。
 だからこそ聖都は試験に踏み切ったのだが、結果としてこれが悪手となり、邪神軍の残党の逆鱗に触れることになる。
 試験後、術式を使用した魔導士は邪神軍の干渉による呪詛を受け、半身不随に。その後、二度と魔導士としての再起は叶わなかった。

 精霊族側にも激震が走る。
 そもそも未だに盟約が有効であれば、精霊族としても聖都の求めに応じるはずがないが、これについては精霊族の間でも見解が分かれており、聖都に協力するか否か意見が割れていた。
 だが、当時の精霊族の副族長が、聖都の申し出に独断で応じてしまった。
 当然のことながらこれは問題になり、その後精霊族の間では内紛が起こり、今に至るまで彼らの分断は続いている。
 そして、精霊族の後ろ盾を失った聖都は邪神軍の残党から強襲を受け、城下町は半壊状態となってしまう。
 聖都は苦肉の策として、術式の恒久的な封印、当時傘下にあった西方の島・マンデル地方の割譲を条件に講和を持ち掛ける。
 これにより聖都は一時的に危機を脱するが、同時に邪神軍に対抗する術を失ってしまった。

 とは言え、聖都は完全に術式を諦めたわけではなかった。
 聖都は講和後、術式を複数の上級魔法として分割し、周辺の国々の伝承術式として分散管理させることにより、邪神軍の目を欺くことに成功する。
 いつの日かほとぼりが冷めた頃、それらを結合し再び邪神に対抗できる術式を完成させる。
 それが聖都の狙いだった。
 その分割された術式の一つとして聖都が担ったのがスコトス・カストリア、ということらしい。
 スコトス・カストリアが選ばれた背景には、その特質がある。
 分割された他の魔法に比べると、消耗する魔力量も少なく、訓練を積んだ上級魔導士であれば十分に使いこなすことが出来る簡易な術式なので、邪神軍の警戒心をさらに緩められると、聖都は考えたからだ。
 まぁ言わば、目くらましだ。
 上級魔法とは言え、未完成の術式に手も足も出なかったと考えると情けないことこの上ない。
  いずれにせよ、これがスコトス・カストリア、ひいては王族術式についての真相ということだ。

「なるほどねぇ。イロイロと突っ込みどころがありすぎてどこから触れればいいやら……」
「王族も良かれと思ってやったんだろうけどね……」
「結果的に自分たちの国民だけでなく、精霊族にもマンデル地方にも被害を与えていることに変わりないわ。はっきり言って、聖都は相当恨まれてる……」

 ルイスの言っていることは事実だろう。
 しかし、果たして聖都だけが悪いのだろうか。
 確かに結果で見れば、聖都の行動は問題だったかもしれないが、そもそも術式の申し出を了承したのは精霊族の副族長だ。
 聖都としても、精霊族側の見解がまとまったと判断するのは当然だ。
 だからある意味、聖都は被害者とも言える。
 俺としては、どうもこの不可侵協定自体に作為的なものを感じてしまう。
 ルイスやクルーグも、恐らく腑に落ちていない。

「……で、肝心な耐性について教えてもらっていないんだが」
「それなんだけど……、ちょっと問題があるの」
「どういうことだ?」
「マルクとクルーグはあんまり詳しくは知らないとは思うけど……、3ヶ月前に諮問機関の一つの神薬研究室が廃止になったことは知ってる?」
「あぁ、何だか大臣が得意気に騒いでた記憶があるな。コストに見合わないお荷物部署を潰したって」
「そう。でも、そこは術式に唯一対抗できる特効薬の開発をしていた機関なのよ」
「はっ!? 何だそれ!? だったらコストとか呑気な事言ってられねぇーだろ!」
「アタシに言わないでよっ! 邪神討伐に関することは全部王と一部のブレーンだけで決めてるのよ! アタシみたいな末端の番頭が首突っ込めるわけないでしょ!」

 なるほど。だから王や大臣は俺が術式の話を持ち出した時に、何も言わなかったのか。
 しかし、それなら猶更分からない。
 確かに実質的に使われることのない術式の耐性など、平時であればまるで意味がない。
 だが、スコトス・カストリアが聖都にとって目くらましのような位置づけだとすれば、今回のように敵に渡る可能性も十分にある。
 であれば、それなりのリスクヘッジはあって然るべきだろう。
 それを見す見す聖都自らの手で放棄するとは、考えにくい。
 やはりこの件、何か裏がある。

「そりゃそうだろうな。じゃあ何でルイスには耐性があるんだ?」
「アタシが番頭に志願した半年前は、まだ研究室があったから入職と同時に特効薬を支給してくれたの。あの時はアタシも必要性がイマイチ分からなかったけど」

 やはりそうか。
 つくづくつまらん意地を張っていたことが悔やまれる。

「でも、それだと困るね……。僕とマルク君は」
「そこでフィリ。あなたの出番よっ!」

 そう言いながらルイスは、フィリを指差す。

「へっ!? わ、わたし、ですかっ!?」

 指名されたフィリだけでなく、クルーグもぽかんとした表情を浮かべている。
 恐らく俺もそんな顔になっている。

「そうよ! あなたエンゲルの街出身って言ったわよね? 実は同僚から聞いた話だと、王宮を追放された神薬の研究員がエンゲルの街に匿われているらしいの。勇者のマルクや聖都の番頭のアタシが行ったら、確実に警戒されるわ。だから、あなたが行って話をつけて欲しいのよ。少なくとも、アタシたちよりは話を聞いてくれると思うわ」
「なるほど……。分かりましたっ! そういうことでしたら、お安い御用です! 仰せの通りに致しましょう!」

 ルイスの話を聞いたフィリは得意気な笑みを浮かべながら、胸を張ってみせる。

「いよっ! さすが期待の新人! 頼りにしてるわよ!」

 そんなフィリを乗せるため、ルイスはここぞとばかりに調子づかせる。

「……分かった。ここは一先ずフィリに任せるしかないな。ただ、俺はまだ釈然としていない」
「マルクの言いたいことは分かるわ。でも、現状エビデンスがないんだから、いくら主張しても無駄よ。まずはネクロマンサーを倒さないと何も始まらないわ。今ここでコトを荒立てて見なさい。それこそ、アンタの大好きな大臣から小言の応酬よ」

 確かに……。
 これ以上あの大臣に皮肉を言われようものなら、理性が崩壊しかねない。
 さすがに王の御前で暴力沙汰は、勇者と言えどもアウトだろう。

「そうだな。よし、フィリ! 御国のために死んでこい!」
「えっ!? 私、そんな危険な仕事頼まれてるんですかっ!?」
「フィリ。短い間だったけど、楽しかったわ。まだまだあなたとは話したいことが沢山あったから本当に残念ね」
「ルイスさんも便乗しないで下さいっ! あと、それならせめてもう少し残念そうに言ってもらえませんか!?」
「ハハハ……。フィリちゃん、悪いけどよろしくね」
「そんな!? クルーグさんまで……」
「ちゃんとエンゲルまでは一緒に行くから安心しろ……。お前の役目は交渉だ」

 決して奴らを甘く見ていたわけではない。
 むしろ、こうして鈍った体を押して出てきた以上、勇者としての職責を果たせない可能性すらあると危惧はしていた。
 だが、いざこうして無様な醜態を晒してしまうのは、やはり堪えるものだ。
 いや、それにしてもフィリが想像より良い働きをしてくれていることには驚かされる。
 もはや、このパーティーのお荷物は俺か。
 そんな軽い自己嫌悪に浸りつつ、俺たちはエンゲルの街へ向かうのだった。
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