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2-5 Competing Contradictions
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静かな湖畔の部屋で、PCの画面と格闘していた椎葉が一息ついたのは昼過ぎのことだった。
「やりやがった……」
と天井を仰ぐエンジニアの目の前には、新たに実装された学習データのコードが連なっている。
夜中の間に緊急メンテナンスを行ったことは、午前中に知らされた。それ自体、元々保守担当ではない椎葉にとって、珍しいことではない。しかし、それに乗じて新しいデータも実装されていたことが、履歴を辿って判明した。
その学習データは、EXC内での発言に対するもの。表向きは最適化だが、実態は取締りの厳格化だ。コーションが掛かるユーザーが急増する、と椎葉は思っている。
プロジェクトリーダーからの指示だとしても、AI開発現場のトップに何一つ知らされないことは問題だ。逆に言えば、椎葉には知らせる必要が無いと思われている。それは、美浜外しの予兆か。
このままでは、いずれユーザーからEXCに対する不満が噴出するだろう。特に課金ユーザーは、金と云う首輪が有るために離れにくい一方、課金するだけの価値が無いと判断すれば容赦無く離れる二面性を持つ。
エクシスの内部で起きている政治的な動きなど、顧客であるユーザーにはどうだっていいのだ。
リリースからロケットスタートを切り、半年も経たないうちに海外版の配信がスタート。勢いに乗るEXCが、MMOの大手の一角に名を連ねるのは時間の問題だ。だが、その攻勢に水を差しかねない。最悪、給与や賞与に影響が出なければ、それでいい。
椎葉はジャケットを羽織り、外出することにした。
河月湖にはビジターセンターが有り、歩いても10分ほどで行ける。すぐ近くで養殖された淡水魚と地元の野菜を使ったレストランが人気だ。
椎葉は遅いランチを堪能し、食後のコーヒーを啜る。
宿に戻れば、またディスプレイの奥の世界と戦うことになる。本来ならこうしている暇は無いのだが、AIエンジニアとして半分蚊帳の外ならば、少しのサボタージュぐらい問題無いだろう、と思っている。
「美浜か?」
と、突然低めの声に名を呼ばれ、椎葉はその方を振り向く。スーツを着た男は警察手帳を見せるが、眼鏡越しに映るのは4年前と変わらない面影だ。
「弥陀ヶ原?」
「……4年ぶりに会うのが、こう云う形とはな」
と、弥陀ヶ原と呼ばれた男は言った。
椎葉が泊まる部屋に入った弥陀ヶ原は、早速手帳を開いた。
椎葉に会う目的で一度エクシスに出向いたが、河月にいると云うことで追って来た。そしてランチタイムをビジターセンターで過ごしていると、椎葉を見掛けたと云うワケだ。
「久々に会ったのに、仕事の話題しか無いが」
「刑事とはそう云うものだろ?」
と椎葉は言う。
大学時代に交遊が有った2人だが、卒業と同時に連絡を絶った。互いに時間が無かっただけだが。
「新宮とは交遊が有ったようで」
と弥陀ヶ原は切り出す。
「正直、俺は自殺とは思っていないのでね」
「……警察は俺が殺したとでも」
「疑うのが仕事だ。お前じゃなければ、別に犯人がいる。心当たりは?」
と弥陀ヶ原は問う。
「知っていればとっくに話してる」
「だろうな」
と弥陀ヶ原は答える。
「お前と新宮がそれなりに仲がよかったことは、エクシスの連中から聞き出してある」
「それぞれが組んだシステムが、データベースサーバの双璧を成すからな。ただプライベートで会ったことは無い。奴がEXCをプレイしていることを知っていた程度だ」
と言い、椎葉はPCに目を向ける。弥陀ヶ原は問うた。
「ところで、栄光の剣を知っているか?」
その名前は、椎葉にとって初耳だ。
「何だ、それ?ゲームの話か?」
「違う。リアルで、そう名乗る集団がいる」
と刑事は答えながら、手帳の別のページを開く。
AIの普及によって社会がリセットされる、と言われて久しい。今まで社会のローエンドに甘んじてきた連中が、リセットに乗じてAIを武器に無双して社会で成り上がる。
一種のAI信仰と云えるものだが、それなりのスキルを持っていれば決して絵空事ではない。
「またかなり飛躍した……」
と呆れ気味の椎葉に、弥陀ヶ原は
「ただ」
と言葉を被せる。
「奴らはEXCに焦点を当てている」
「何?」
そう声を上げた椎葉の眉間に、皺が寄る。
「MMOの秩序を、アドミニストレータAIで維持している点を高く評価している。つまり、もっとAIが進化すれば、リアルでのそれも成し遂げられると云う話だ」
「馬鹿馬鹿しい」
と椎葉は一蹴した。
「AIを開発したのは俺だ。だが崇められるのは喜ばしい話じゃない」
「AIも機械的な判断と処理しかできないが、それでも学習機能を持っているから厄介だ。学習させる人間次第で、AIは無限の変化を見せる。最も公平に見えるが、最も不公平な存在だ」
と続けた椎葉に、弥陀ヶ原は
「何時かはそうなる日が来る、とは思う。だが当分先の話だ。それはそれで、一度は見てみたいと思うがな」
と言った。
椎葉と別れた弥陀ヶ原は車に乗り、スマートフォンを手にする。少しだけ他愛ない話もしていたが、互いに色々な意味で変わっていない。
「弥陀ヶ原です。美浜は新宮の件についてはアリバイ有り、そして剣の存在は知りませんでした」
と通話相手に話しながら、刑事はエンジンを掛ける。偶には自分に懐く少年の宿で宿泊したいが、如何せん今から東京に戻らなければならない。
「判った。気を付けて戻れ」
と言った常願は、臨海署の一室で印刷されたリストに目を通す。
……ローエンド層をAIによって救済する、その理念を掲げた集団のトップは大学生で、その補佐はエクシスのEXCプロジェクトリーダー。
つまり、栄光の剣を使って半ばEXCと自社AIを自画自賛しているようにも見える。
「仮にこいつらが関与していたとなると……」
と常願は呟いた。その話は、後輩刑事が帰ってきた後だ。
「ミッション・オデッセイ?」
「うん。今度パパと観てくるんだ」
少し高めの声が、ヘルメットを被った流雫の耳に響く。
アルスとの通話を終えた流雫は、ネイビーのロードバイクを走らせて河月駅に向かっていた。そして、駐輪場に着いたタイミングで彼のスマートフォンが鳴った。相手はミーティアだった。アルスと同様、日本にいる従兄弟と話せる時間を大体把握している。
ミッション・オデッセイ。昔流行った米国のSF映画で、最近リメイクされたことは知っていた。そろそろ日本でも公開される。
とある宇宙船での話。人間のクルーを統べるキャプテンは、オービターに搭載された最新の自律型AI。クルーに全面的に協力して宇宙でのミッションに従事するようプログラミングされていたが、同時にたった一つの質問には絶対に答えるな、と云う命令も書かれていた。
全て協力と一つだけの黙秘。人間なら例外として扱う程度の矛盾を、コンピュータ故に例外として処理できず、命令の競合ががAIに混乱と障害をもたらすことになる。
やがてAIは、この問題を解決する唯一の手段として、クルー全員の抹殺を目論む。協力する相手さえいなくなれば、黙秘する必要すら無くなるからだ。
AIの暴走に立ち向かう主役の手によって、機能を停止していくAIは、今までの記憶を吐き出しながら、コンピュータとしての死を迎える。そのシーンはあまりにも有名で、流雫も一度機内映画で観て複雑な思いに駆られた記憶が有る。
「ルナも観るの?」
ミーティアの問いに、
「そのうちかな?」
と答えた流雫は、しかし
「……待てよ……?」
と呟く。
……命令が無ければ、簡単な矛盾すら処理できない。それがコンピュータの宿命だ。
生成AIならば、片方の命令を無視するか、両方を取り入れた挙げ句予期しない出力結果をもたらすか、そのどちらかになる。それも出力させてみるまで判らない。
それがアドミニストレータAIなら、一体どうなる?
「どうしたの?」
とミーティアが問う。
「ちょっとね」
とだけ答える流雫に、従兄弟は
「ルナは笑ってていいんだよ?」
と言った。
ミーティアも、流雫の母アスタナ・クラージュ経由で流雫の過去を知っている。それがどう云うことなのかは、何となくしか判らないが。
ただ、何処か暗い影を引き摺っていることは判る。だから会えた時は、そう云う感情を忘れさせたい。
好きだから笑っていてほしい。流雫にだけは人懐っこいミーティアは、何時もそう思っている。
「僕はルナが好き!ルナには僕がいるよ!」
と、微笑みながら声を弾ませるミーティアに、流雫は
「僕も。サンキュ、ミーティア」
と返しながら、不意に澪を重ねた。
……流雫の全てを知り尽くした恋人、全力で慕う無邪気な従兄弟。その立ち位置は違えど、想いは同じだ。
目的の雑貨屋に入った流雫は、授業で使う細字のサインペンとノートを数冊選び、会計を済ませる。エスカレーターに乗ろうとする少年の目は、エグゼコードの限定グッズ売場を捉えた。
サイバースタイルの戦闘服ではなく、店の制服を着たキャラクターのイラストがグッズになっている。既に幾つかは完売しているが、その陳列棚に近付くシルバーヘアの少年の頭に、不意に先刻の疑問が蘇った。
……アドミニストレータAIが矛盾を抱えれば、恐らくはコーションやアラートの誤判定が多発する。それだけで済めばいいが、そうでなければ更なる混乱を何らかの形で生むだろう。どっちにしろ、EXCにとってはプラスではないハズだ。
しかし、もしそれが椎葉以外のエンジニアの、そして実装を命令した連中の想定内だとすれば。主力サービスの評判を落とすリスクを選んででも、実現させるべきだと睨んでいるのは何なのか。
今はとにかく帰ろう、と思った流雫の目の前に並ぶイラストは戦闘服のキャラクター。しかし、澪や詩応のようなシスターの衣装が無いことに気付く。
確かにEXCをプレイする中でも、ユーザーのアバターでシスターなのは他にいなかった。やはり悠陽のように戦士の方が原作に近いから……、……シスター?
流雫は、誰にも聞こえないように呟いた。
「……AIを神に仕立て上げたい……?」
「やりやがった……」
と天井を仰ぐエンジニアの目の前には、新たに実装された学習データのコードが連なっている。
夜中の間に緊急メンテナンスを行ったことは、午前中に知らされた。それ自体、元々保守担当ではない椎葉にとって、珍しいことではない。しかし、それに乗じて新しいデータも実装されていたことが、履歴を辿って判明した。
その学習データは、EXC内での発言に対するもの。表向きは最適化だが、実態は取締りの厳格化だ。コーションが掛かるユーザーが急増する、と椎葉は思っている。
プロジェクトリーダーからの指示だとしても、AI開発現場のトップに何一つ知らされないことは問題だ。逆に言えば、椎葉には知らせる必要が無いと思われている。それは、美浜外しの予兆か。
このままでは、いずれユーザーからEXCに対する不満が噴出するだろう。特に課金ユーザーは、金と云う首輪が有るために離れにくい一方、課金するだけの価値が無いと判断すれば容赦無く離れる二面性を持つ。
エクシスの内部で起きている政治的な動きなど、顧客であるユーザーにはどうだっていいのだ。
リリースからロケットスタートを切り、半年も経たないうちに海外版の配信がスタート。勢いに乗るEXCが、MMOの大手の一角に名を連ねるのは時間の問題だ。だが、その攻勢に水を差しかねない。最悪、給与や賞与に影響が出なければ、それでいい。
椎葉はジャケットを羽織り、外出することにした。
河月湖にはビジターセンターが有り、歩いても10分ほどで行ける。すぐ近くで養殖された淡水魚と地元の野菜を使ったレストランが人気だ。
椎葉は遅いランチを堪能し、食後のコーヒーを啜る。
宿に戻れば、またディスプレイの奥の世界と戦うことになる。本来ならこうしている暇は無いのだが、AIエンジニアとして半分蚊帳の外ならば、少しのサボタージュぐらい問題無いだろう、と思っている。
「美浜か?」
と、突然低めの声に名を呼ばれ、椎葉はその方を振り向く。スーツを着た男は警察手帳を見せるが、眼鏡越しに映るのは4年前と変わらない面影だ。
「弥陀ヶ原?」
「……4年ぶりに会うのが、こう云う形とはな」
と、弥陀ヶ原と呼ばれた男は言った。
椎葉が泊まる部屋に入った弥陀ヶ原は、早速手帳を開いた。
椎葉に会う目的で一度エクシスに出向いたが、河月にいると云うことで追って来た。そしてランチタイムをビジターセンターで過ごしていると、椎葉を見掛けたと云うワケだ。
「久々に会ったのに、仕事の話題しか無いが」
「刑事とはそう云うものだろ?」
と椎葉は言う。
大学時代に交遊が有った2人だが、卒業と同時に連絡を絶った。互いに時間が無かっただけだが。
「新宮とは交遊が有ったようで」
と弥陀ヶ原は切り出す。
「正直、俺は自殺とは思っていないのでね」
「……警察は俺が殺したとでも」
「疑うのが仕事だ。お前じゃなければ、別に犯人がいる。心当たりは?」
と弥陀ヶ原は問う。
「知っていればとっくに話してる」
「だろうな」
と弥陀ヶ原は答える。
「お前と新宮がそれなりに仲がよかったことは、エクシスの連中から聞き出してある」
「それぞれが組んだシステムが、データベースサーバの双璧を成すからな。ただプライベートで会ったことは無い。奴がEXCをプレイしていることを知っていた程度だ」
と言い、椎葉はPCに目を向ける。弥陀ヶ原は問うた。
「ところで、栄光の剣を知っているか?」
その名前は、椎葉にとって初耳だ。
「何だ、それ?ゲームの話か?」
「違う。リアルで、そう名乗る集団がいる」
と刑事は答えながら、手帳の別のページを開く。
AIの普及によって社会がリセットされる、と言われて久しい。今まで社会のローエンドに甘んじてきた連中が、リセットに乗じてAIを武器に無双して社会で成り上がる。
一種のAI信仰と云えるものだが、それなりのスキルを持っていれば決して絵空事ではない。
「またかなり飛躍した……」
と呆れ気味の椎葉に、弥陀ヶ原は
「ただ」
と言葉を被せる。
「奴らはEXCに焦点を当てている」
「何?」
そう声を上げた椎葉の眉間に、皺が寄る。
「MMOの秩序を、アドミニストレータAIで維持している点を高く評価している。つまり、もっとAIが進化すれば、リアルでのそれも成し遂げられると云う話だ」
「馬鹿馬鹿しい」
と椎葉は一蹴した。
「AIを開発したのは俺だ。だが崇められるのは喜ばしい話じゃない」
「AIも機械的な判断と処理しかできないが、それでも学習機能を持っているから厄介だ。学習させる人間次第で、AIは無限の変化を見せる。最も公平に見えるが、最も不公平な存在だ」
と続けた椎葉に、弥陀ヶ原は
「何時かはそうなる日が来る、とは思う。だが当分先の話だ。それはそれで、一度は見てみたいと思うがな」
と言った。
椎葉と別れた弥陀ヶ原は車に乗り、スマートフォンを手にする。少しだけ他愛ない話もしていたが、互いに色々な意味で変わっていない。
「弥陀ヶ原です。美浜は新宮の件についてはアリバイ有り、そして剣の存在は知りませんでした」
と通話相手に話しながら、刑事はエンジンを掛ける。偶には自分に懐く少年の宿で宿泊したいが、如何せん今から東京に戻らなければならない。
「判った。気を付けて戻れ」
と言った常願は、臨海署の一室で印刷されたリストに目を通す。
……ローエンド層をAIによって救済する、その理念を掲げた集団のトップは大学生で、その補佐はエクシスのEXCプロジェクトリーダー。
つまり、栄光の剣を使って半ばEXCと自社AIを自画自賛しているようにも見える。
「仮にこいつらが関与していたとなると……」
と常願は呟いた。その話は、後輩刑事が帰ってきた後だ。
「ミッション・オデッセイ?」
「うん。今度パパと観てくるんだ」
少し高めの声が、ヘルメットを被った流雫の耳に響く。
アルスとの通話を終えた流雫は、ネイビーのロードバイクを走らせて河月駅に向かっていた。そして、駐輪場に着いたタイミングで彼のスマートフォンが鳴った。相手はミーティアだった。アルスと同様、日本にいる従兄弟と話せる時間を大体把握している。
ミッション・オデッセイ。昔流行った米国のSF映画で、最近リメイクされたことは知っていた。そろそろ日本でも公開される。
とある宇宙船での話。人間のクルーを統べるキャプテンは、オービターに搭載された最新の自律型AI。クルーに全面的に協力して宇宙でのミッションに従事するようプログラミングされていたが、同時にたった一つの質問には絶対に答えるな、と云う命令も書かれていた。
全て協力と一つだけの黙秘。人間なら例外として扱う程度の矛盾を、コンピュータ故に例外として処理できず、命令の競合ががAIに混乱と障害をもたらすことになる。
やがてAIは、この問題を解決する唯一の手段として、クルー全員の抹殺を目論む。協力する相手さえいなくなれば、黙秘する必要すら無くなるからだ。
AIの暴走に立ち向かう主役の手によって、機能を停止していくAIは、今までの記憶を吐き出しながら、コンピュータとしての死を迎える。そのシーンはあまりにも有名で、流雫も一度機内映画で観て複雑な思いに駆られた記憶が有る。
「ルナも観るの?」
ミーティアの問いに、
「そのうちかな?」
と答えた流雫は、しかし
「……待てよ……?」
と呟く。
……命令が無ければ、簡単な矛盾すら処理できない。それがコンピュータの宿命だ。
生成AIならば、片方の命令を無視するか、両方を取り入れた挙げ句予期しない出力結果をもたらすか、そのどちらかになる。それも出力させてみるまで判らない。
それがアドミニストレータAIなら、一体どうなる?
「どうしたの?」
とミーティアが問う。
「ちょっとね」
とだけ答える流雫に、従兄弟は
「ルナは笑ってていいんだよ?」
と言った。
ミーティアも、流雫の母アスタナ・クラージュ経由で流雫の過去を知っている。それがどう云うことなのかは、何となくしか判らないが。
ただ、何処か暗い影を引き摺っていることは判る。だから会えた時は、そう云う感情を忘れさせたい。
好きだから笑っていてほしい。流雫にだけは人懐っこいミーティアは、何時もそう思っている。
「僕はルナが好き!ルナには僕がいるよ!」
と、微笑みながら声を弾ませるミーティアに、流雫は
「僕も。サンキュ、ミーティア」
と返しながら、不意に澪を重ねた。
……流雫の全てを知り尽くした恋人、全力で慕う無邪気な従兄弟。その立ち位置は違えど、想いは同じだ。
目的の雑貨屋に入った流雫は、授業で使う細字のサインペンとノートを数冊選び、会計を済ませる。エスカレーターに乗ろうとする少年の目は、エグゼコードの限定グッズ売場を捉えた。
サイバースタイルの戦闘服ではなく、店の制服を着たキャラクターのイラストがグッズになっている。既に幾つかは完売しているが、その陳列棚に近付くシルバーヘアの少年の頭に、不意に先刻の疑問が蘇った。
……アドミニストレータAIが矛盾を抱えれば、恐らくはコーションやアラートの誤判定が多発する。それだけで済めばいいが、そうでなければ更なる混乱を何らかの形で生むだろう。どっちにしろ、EXCにとってはプラスではないハズだ。
しかし、もしそれが椎葉以外のエンジニアの、そして実装を命令した連中の想定内だとすれば。主力サービスの評判を落とすリスクを選んででも、実現させるべきだと睨んでいるのは何なのか。
今はとにかく帰ろう、と思った流雫の目の前に並ぶイラストは戦闘服のキャラクター。しかし、澪や詩応のようなシスターの衣装が無いことに気付く。
確かにEXCをプレイする中でも、ユーザーのアバターでシスターなのは他にいなかった。やはり悠陽のように戦士の方が原作に近いから……、……シスター?
流雫は、誰にも聞こえないように呟いた。
「……AIを神に仕立て上げたい……?」
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