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2-4 Pie In The Sky
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ゲームのAIに人間が従う日、その見出しの記事がポータルサイトに出回ったのは、翌朝のことだった。
破竹の勢いを見せるMMOの心臓部、自律型AI。それがついに、本格的に人間を天秤に掛け始める。AI戦国時代に人間とAIの関係の在り方を問う、経済雑誌の人気シリーズの第4弾はその文章から始まっていた。
前半はEXCの売上高と収益構造がメインで、UACのEXCプロデューサーとエクシスの代表取締役がインタビューを受けていた。
AIを最大限活用した運用コストの削減と柔軟性の向上を強調する一方で、原作の世界観を追体験できるエンタメ側の効果も挙げていた。海外でも配信が始まり、エクシスの新たな稼ぎ頭に成長しているEXC。その知見を活用してエクシスは更なるAIサービスの展開を目指す、と展望を語っていた。
一方、後半はユーザーを監視するAIの動きに不審な点が有ると書かれている。既にエンタメの範疇を超えている部分も有る。そして駅で自殺した元プログラマの新宮秀明は、AIの秘密を知っているが故に、自ら死を選ぶことで問題提起をしようとした。
現に、AIを使ったユーザーの選別は進んでいる。課金の有無やAIの学習に使われる言動をスコアリングしてステータスを算出、それによってリワードやペナルティが与えられる。
つまり、スコアリングされた忠誠心が高い、言い換えればAIに従順なユーザーを、AIが自ら増やそうとしている。その先に有るのは、エグゼコードの世界のようにAIが人間に代わって国家の中枢を独占すること。
技術と倫理の狭間で、エクシスとUACはどのような舵取りを見せるのか。
「馬鹿げてやがる」
と椎葉は言った。
確かにAI業界は全体的に過渡期で、様々な問題を孕みながらも無数のエンジニアが日夜、開発競争を繰り広げている。だが、数十年前の映画のような感情を持った完全自律型AIは出てこないし、それで国家の中枢を支配するとしても、規模としては中堅のエクシスにそれだけの資金力は無い。
何より、新宮は問題提起しようとして自殺したワケではない。その件だけで、記事に対する不信感が限界を振り切る。
「ライターってのは楽な稼業だな」
と呟く椎葉。最近は、ネット上の発言や情報を拾って書き起こすだけでマネタイズできるのだから、或る意味羨ましくもなる。
朝から溜め息しかでないが、とにかくモーニングを楽しむことにした。
昨日部屋で話し合っていた少年が焼くガレットをオーダーに入れていたが、皿を空にするのに時間は掛からなかった。確かにこの味じゃ、人気にならないワケがない。
チェックアウトは明日の朝、もう一度堪能できる。
「気に入ったよ、此処」
と言った椎葉に、エプロンを外した流雫は笑ってみせる。椎葉は
「来週、幕張ベイホールでイベントが有るんだ。何人か誘って来るといい」
と言いながら、招待券と英語で書かれたチケットを流雫に渡す。
千葉の海浜エリア、幕張新都心を代表する施設。それが幕張ベイホール。東京ジャンボメッセに次ぐ規模を誇る。そこで開かれるのが、AIゲームテックフェス。AIに関するゲームと関連技術のイベント。入場を企業に限定したビズデイと個人も対象とするパブリックデイに分かれ、チケットが有効なのは後者で土日2日間のうち1日。
チケットは4枚。自分と澪で2枚、残りはその同級生に渡るだろう。
「サンキュ、美浜さん」
と流雫は言いながら、鞄を手にした。学校に向かう時間だ。
流雫からのメッセージが届いたのは、澪が学校に着いたのと同時だった。当然、行かないと云う選択肢は無い。
結奈と彩花は、朝から幕張のイベントに行くと乗り気だった。既に前売り券を手に入れてあるらしい。2枚を2人に渡す気でいた澪は、ダメ元でメッセージを入れる。
「行こうと思ってたんだ」
1分後に届いた返事に、澪の楽しみが増える。
流雫を新宿で出迎え、更に名古屋を早朝に発つ高速バスで着く少女2人を出迎える。うち1人は流雫とは少ししか言葉を交わしていないが、澪が中心にいるから問題は無い。
ただ、楽しみの一方で不穏な予感もする。目の前の2人とは別行動であるべきだから、それはそれで彼女たちにとって好都合だ。尤も、これが全て思い過ごしであってほしいとは思うが。
「……どうにかなるよね」
と自分に言い聞かせる澪の耳に、チャイムが響いた。
「流雫も気が利く」
と言ったショートヘアの少女に
「流雫はそう云うとこだがね」
と返す、ダークグレーのポニーテールの少女。昼休み、屋上で過ごす2人は、詩応とその同性の恋人。
鶴舞真。詩応の1年後輩。詩応とは陸上部で知り合った。
澪とは一応連絡先を交換してあるが、流雫とはそうしていない。真自身男が苦手だからと云うのが有る。それでも、詩応が認めている相手だから少しだけ歩み寄れる。尤も、女子にはシャイな流雫から話し掛けることは無いが。
澪は結奈と彩花がチケットを持っていると知ると、その場でメッセージを送っていた。
「流雫が、もし行くなら使う?と言ってて」
余っているのを回しただけだが、ベストな言い回しはそれだった。
詩応は、偶には東京に行きたいと思っていたし、真もEXCには興味が無いものの久々の東京を楽しみたいと思っていた。そのメインが千葉のイベントになっただけの話だ。
「手羽先味のポテチ、名古屋土産に持ってったろみゃあか」
と言う真に
「小倉あんトースト味もいいんじゃない?」
と返す詩応。来週の土日、6時発の高速バスは昼休みのうちに予約した。楽しみで仕方ない。
「AIのイベント?」
寝起きのアルスはスマートフォンを耳に当てたまま、言った。この数日、この時間に流雫と通話するのが日課となっている。
アルスも短期留学で通った学校の駐輪場で、流雫は言った。
「招待券が手に入ったからね」
「……イベントの目玉はEXCか」
とアルスは英語版サイトを見ながら言う。
椎葉が招待券を持っていたのは、UACとエクシスが合同で出展するからだ。持ち玉は当然EXC。インタビューを受けていた2人の基調講演とエグゼコードのキャストトーク、そして使用するAIに関する情報公開がメインになっている。
その勢いは業界全体が注目している。今回の目玉になるのは当然のことだった。
「しかし、エクシスのエンジニアと知り合ったのは大きいな。シイバ・ミハマか……」
とアルスは言った。流雫自身もそう思う。
「偶然だけどね、アルスと僕みたいに」
と流雫は答える。
流雫とアルスが出逢ったのは、レンヌの教会前だった。荘厳な建物を見上げる流雫が何となく気になったのが、全ての始まりだった。
偶然の出逢いが、互いのターニングポイント。過去の因縁を軸に生まれた、1万キロの距離を超えた結束には誰も敵うワケがない。2人はそう思っている。
「しかし、AIへの批判監視とはな。ブラックボックスの開発者が何を企んでいるのか」
「話す限り、知らない間にAIに仕組まれたらしい」
「搭載する時点で、既に学習セットのトレーニングはUACサイドが終えていた。後はエクシスに指示を出し、実装させるだけだった。そう言いたいのか」
「でもUACはデベロッパーじゃない。それだけ別に開発させた」
と流雫は言う。エクシスの別部署に秘密裏に割り振っていたのだろう。そもそも単なるデータセットなら、高度なエンジニアでなくても用意できる。
「そしてシイバが別のヘルプに追われている間に、別のエンジニアが実装した」
「シイバの反対を怖れてか?」
「そう」
と答える流雫。
「UACからの仕様指示には逆らえないとしても、一悶着起きるのは目に見えていた。だから先に実装して、事後報告で済ませようとした」
「開発部隊からして不穏なのかよ……」
と言ったアルスは呆れ顔だ。それは声だけで想像がつく。
「シイバのスキルは認めるし必要だった、しかしその性格は不都合だった。だからワーケーションに出た。僕のペンションを選んだのは、偶然空いていたからだろうけど」
「目的は何だと思う?」
とアルスが問う。流雫は数秒だけ間を置いて答える。
「不穏なオフィスを離れてリフレッシュしたい。同時に他の連中の目を気にすること無く……」
「AIを巡る真の思惑を暴きたい、か?」
「そう。自分が開発したアドミニストレータAIに誇りを持ってる、だから最近の上の方針には疑問を持ってる。それに、エンジニアの自殺も」
と言った流雫に、アルスは大きな溜め息をつく。
「何故日本は次から次に……」
「厄介なことが起きるのか。僕が知りたいよ」
と流雫は言う。アルスはその彼が不憫で仕方ない。
「マクハリ、何も起きないといいがな」
と言ったアルスに、流雫は
「そう願いたいよ」
と返し、ロードバイクに跨がる。
……幕張で何も起きないワケが無い。チケットを渡すと言わなければよかった、と思ったが遅い。
澪が招待券を渡す相手は名古屋から来る2人だと、昼休みのメッセージで知った。見知った顔だけに、不安は楽しみに比例する。何事も無く終わってほしい、そう何度も願っては裏切られてきた。今度こそは、そう期待することさえ諦めている。
ただ、今更無かったことにはできない。
「……スターダスト、2ヶ月分いる?」
と流雫は問うた。
通話が切れた後で、アルスは額に手を当てた。
……祈りの見返りは、ツッコミまで入れて1セットの定番ネタだった。しかし、流雫は今までとは違う反応を示した。
新しい切り返しを試したのではなく、藁にも縋りたい。それほど、流雫は何か起きることを怖れている。平穏や安寧とは無縁のまま生きてきたから、そうなるのは自然の流れだった。
「……相当参ってるな……」
とアルスは呟き、部屋を後にした。
授業など、最初の1時間ぐらい出席しなくてもいい。アリシアを拝み倒してノートを撮り、夜家で書き写す。それだけでも十分追い付ける。
その分、敷地内の小さな礼拝堂に籠もりたい。日本に住む少年に、絶対的な守護を祈るために。見返りを求めるとすれば、もう一度日本かフランスで会えること、それだけだ。
破竹の勢いを見せるMMOの心臓部、自律型AI。それがついに、本格的に人間を天秤に掛け始める。AI戦国時代に人間とAIの関係の在り方を問う、経済雑誌の人気シリーズの第4弾はその文章から始まっていた。
前半はEXCの売上高と収益構造がメインで、UACのEXCプロデューサーとエクシスの代表取締役がインタビューを受けていた。
AIを最大限活用した運用コストの削減と柔軟性の向上を強調する一方で、原作の世界観を追体験できるエンタメ側の効果も挙げていた。海外でも配信が始まり、エクシスの新たな稼ぎ頭に成長しているEXC。その知見を活用してエクシスは更なるAIサービスの展開を目指す、と展望を語っていた。
一方、後半はユーザーを監視するAIの動きに不審な点が有ると書かれている。既にエンタメの範疇を超えている部分も有る。そして駅で自殺した元プログラマの新宮秀明は、AIの秘密を知っているが故に、自ら死を選ぶことで問題提起をしようとした。
現に、AIを使ったユーザーの選別は進んでいる。課金の有無やAIの学習に使われる言動をスコアリングしてステータスを算出、それによってリワードやペナルティが与えられる。
つまり、スコアリングされた忠誠心が高い、言い換えればAIに従順なユーザーを、AIが自ら増やそうとしている。その先に有るのは、エグゼコードの世界のようにAIが人間に代わって国家の中枢を独占すること。
技術と倫理の狭間で、エクシスとUACはどのような舵取りを見せるのか。
「馬鹿げてやがる」
と椎葉は言った。
確かにAI業界は全体的に過渡期で、様々な問題を孕みながらも無数のエンジニアが日夜、開発競争を繰り広げている。だが、数十年前の映画のような感情を持った完全自律型AIは出てこないし、それで国家の中枢を支配するとしても、規模としては中堅のエクシスにそれだけの資金力は無い。
何より、新宮は問題提起しようとして自殺したワケではない。その件だけで、記事に対する不信感が限界を振り切る。
「ライターってのは楽な稼業だな」
と呟く椎葉。最近は、ネット上の発言や情報を拾って書き起こすだけでマネタイズできるのだから、或る意味羨ましくもなる。
朝から溜め息しかでないが、とにかくモーニングを楽しむことにした。
昨日部屋で話し合っていた少年が焼くガレットをオーダーに入れていたが、皿を空にするのに時間は掛からなかった。確かにこの味じゃ、人気にならないワケがない。
チェックアウトは明日の朝、もう一度堪能できる。
「気に入ったよ、此処」
と言った椎葉に、エプロンを外した流雫は笑ってみせる。椎葉は
「来週、幕張ベイホールでイベントが有るんだ。何人か誘って来るといい」
と言いながら、招待券と英語で書かれたチケットを流雫に渡す。
千葉の海浜エリア、幕張新都心を代表する施設。それが幕張ベイホール。東京ジャンボメッセに次ぐ規模を誇る。そこで開かれるのが、AIゲームテックフェス。AIに関するゲームと関連技術のイベント。入場を企業に限定したビズデイと個人も対象とするパブリックデイに分かれ、チケットが有効なのは後者で土日2日間のうち1日。
チケットは4枚。自分と澪で2枚、残りはその同級生に渡るだろう。
「サンキュ、美浜さん」
と流雫は言いながら、鞄を手にした。学校に向かう時間だ。
流雫からのメッセージが届いたのは、澪が学校に着いたのと同時だった。当然、行かないと云う選択肢は無い。
結奈と彩花は、朝から幕張のイベントに行くと乗り気だった。既に前売り券を手に入れてあるらしい。2枚を2人に渡す気でいた澪は、ダメ元でメッセージを入れる。
「行こうと思ってたんだ」
1分後に届いた返事に、澪の楽しみが増える。
流雫を新宿で出迎え、更に名古屋を早朝に発つ高速バスで着く少女2人を出迎える。うち1人は流雫とは少ししか言葉を交わしていないが、澪が中心にいるから問題は無い。
ただ、楽しみの一方で不穏な予感もする。目の前の2人とは別行動であるべきだから、それはそれで彼女たちにとって好都合だ。尤も、これが全て思い過ごしであってほしいとは思うが。
「……どうにかなるよね」
と自分に言い聞かせる澪の耳に、チャイムが響いた。
「流雫も気が利く」
と言ったショートヘアの少女に
「流雫はそう云うとこだがね」
と返す、ダークグレーのポニーテールの少女。昼休み、屋上で過ごす2人は、詩応とその同性の恋人。
鶴舞真。詩応の1年後輩。詩応とは陸上部で知り合った。
澪とは一応連絡先を交換してあるが、流雫とはそうしていない。真自身男が苦手だからと云うのが有る。それでも、詩応が認めている相手だから少しだけ歩み寄れる。尤も、女子にはシャイな流雫から話し掛けることは無いが。
澪は結奈と彩花がチケットを持っていると知ると、その場でメッセージを送っていた。
「流雫が、もし行くなら使う?と言ってて」
余っているのを回しただけだが、ベストな言い回しはそれだった。
詩応は、偶には東京に行きたいと思っていたし、真もEXCには興味が無いものの久々の東京を楽しみたいと思っていた。そのメインが千葉のイベントになっただけの話だ。
「手羽先味のポテチ、名古屋土産に持ってったろみゃあか」
と言う真に
「小倉あんトースト味もいいんじゃない?」
と返す詩応。来週の土日、6時発の高速バスは昼休みのうちに予約した。楽しみで仕方ない。
「AIのイベント?」
寝起きのアルスはスマートフォンを耳に当てたまま、言った。この数日、この時間に流雫と通話するのが日課となっている。
アルスも短期留学で通った学校の駐輪場で、流雫は言った。
「招待券が手に入ったからね」
「……イベントの目玉はEXCか」
とアルスは英語版サイトを見ながら言う。
椎葉が招待券を持っていたのは、UACとエクシスが合同で出展するからだ。持ち玉は当然EXC。インタビューを受けていた2人の基調講演とエグゼコードのキャストトーク、そして使用するAIに関する情報公開がメインになっている。
その勢いは業界全体が注目している。今回の目玉になるのは当然のことだった。
「しかし、エクシスのエンジニアと知り合ったのは大きいな。シイバ・ミハマか……」
とアルスは言った。流雫自身もそう思う。
「偶然だけどね、アルスと僕みたいに」
と流雫は答える。
流雫とアルスが出逢ったのは、レンヌの教会前だった。荘厳な建物を見上げる流雫が何となく気になったのが、全ての始まりだった。
偶然の出逢いが、互いのターニングポイント。過去の因縁を軸に生まれた、1万キロの距離を超えた結束には誰も敵うワケがない。2人はそう思っている。
「しかし、AIへの批判監視とはな。ブラックボックスの開発者が何を企んでいるのか」
「話す限り、知らない間にAIに仕組まれたらしい」
「搭載する時点で、既に学習セットのトレーニングはUACサイドが終えていた。後はエクシスに指示を出し、実装させるだけだった。そう言いたいのか」
「でもUACはデベロッパーじゃない。それだけ別に開発させた」
と流雫は言う。エクシスの別部署に秘密裏に割り振っていたのだろう。そもそも単なるデータセットなら、高度なエンジニアでなくても用意できる。
「そしてシイバが別のヘルプに追われている間に、別のエンジニアが実装した」
「シイバの反対を怖れてか?」
「そう」
と答える流雫。
「UACからの仕様指示には逆らえないとしても、一悶着起きるのは目に見えていた。だから先に実装して、事後報告で済ませようとした」
「開発部隊からして不穏なのかよ……」
と言ったアルスは呆れ顔だ。それは声だけで想像がつく。
「シイバのスキルは認めるし必要だった、しかしその性格は不都合だった。だからワーケーションに出た。僕のペンションを選んだのは、偶然空いていたからだろうけど」
「目的は何だと思う?」
とアルスが問う。流雫は数秒だけ間を置いて答える。
「不穏なオフィスを離れてリフレッシュしたい。同時に他の連中の目を気にすること無く……」
「AIを巡る真の思惑を暴きたい、か?」
「そう。自分が開発したアドミニストレータAIに誇りを持ってる、だから最近の上の方針には疑問を持ってる。それに、エンジニアの自殺も」
と言った流雫に、アルスは大きな溜め息をつく。
「何故日本は次から次に……」
「厄介なことが起きるのか。僕が知りたいよ」
と流雫は言う。アルスはその彼が不憫で仕方ない。
「マクハリ、何も起きないといいがな」
と言ったアルスに、流雫は
「そう願いたいよ」
と返し、ロードバイクに跨がる。
……幕張で何も起きないワケが無い。チケットを渡すと言わなければよかった、と思ったが遅い。
澪が招待券を渡す相手は名古屋から来る2人だと、昼休みのメッセージで知った。見知った顔だけに、不安は楽しみに比例する。何事も無く終わってほしい、そう何度も願っては裏切られてきた。今度こそは、そう期待することさえ諦めている。
ただ、今更無かったことにはできない。
「……スターダスト、2ヶ月分いる?」
と流雫は問うた。
通話が切れた後で、アルスは額に手を当てた。
……祈りの見返りは、ツッコミまで入れて1セットの定番ネタだった。しかし、流雫は今までとは違う反応を示した。
新しい切り返しを試したのではなく、藁にも縋りたい。それほど、流雫は何か起きることを怖れている。平穏や安寧とは無縁のまま生きてきたから、そうなるのは自然の流れだった。
「……相当参ってるな……」
とアルスは呟き、部屋を後にした。
授業など、最初の1時間ぐらい出席しなくてもいい。アリシアを拝み倒してノートを撮り、夜家で書き写す。それだけでも十分追い付ける。
その分、敷地内の小さな礼拝堂に籠もりたい。日本に住む少年に、絶対的な守護を祈るために。見返りを求めるとすれば、もう一度日本かフランスで会えること、それだけだ。
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